『猫はこうして地球を征服した 人の脳からインターネット、生態系まで』 編集部解説

インターシフト2017年12月28日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
猫はこうして地球を征服した: 人の脳からインターネット、生態系まで
作者:アビゲイル・タッカー 翻訳:西田美緒子
出版社:インターシフト
発売日:2017-12-27
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

究極のミスマッチなマッチング

「猫が地球を征服した?」……本書のタイトルを見て、「うちの可愛い猫ちゃん一族が、地球なんて征服できっこない!」とおおかたの読者は思われるのでは?

でも、これは決して誇張ではない。一見、ひ弱で愛らしい猫たちが、いまや人の脳から、インターネット、各地の生態系まで席巻しつつあるのだ。

その制覇のきっかけは、まずは私たち人間の心を奪ったことだった。猫と人との関係は、究極のミスマッチなマッチングとも呼べるねじれたつながりにある。

人は社会性の高いコミュニケーション大好きな生きものだが、猫は単独行動を旨とする群れない生きものだ。

また、超肉食動物であるネコ科は、もともと「殺すか、死ぬか」という激しい2択を生きており、かつては人類の祖先もネコ科にかなり食べられたことが分かっている。

驚くべきことに、家のなかで寝てばかりいるような猫ちゃんたちでさえ、こうした野生を色濃く残している。

犬と比べてみればそのことはいっそうはっきりする。犬は人に飼いならされるあいだに、体型も性質も遺伝子もさまざまに変えてきた。……そして、いろいろ役に立っている

ところが猫は、祖先の野生種と体型もあまり変わらず、遺伝子もほとんど変わっていない。また、トラやライオンなど他のネコ科と比べても、大きさなどは別として、基本設計はほぼ同様だ。居間のソファにいる猫ちゃんは、じつは「小さなライオン」とも呼べる存在なのだ。
……そして、ほとんど人間の役に立っていない(近年の研究では、ネズミ退治にも大して役立たないことが分かっている)

それならば、もともと食べられてしまうような敵対関係にあった猫たちの何に私たちは惹かれたのか?

本書ではその秘密がいろいろ明かされていくのだが、そのひとつが「ベビーリリーサー」だ。

ベビーリリーサーとは赤ん坊に接するときに、思わず可愛いと感じるような身体的な特徴のこと。たとえば、丸い顔、大きな額、丸い目、小さな鼻・・・などだ。

さまざまな動物の赤ちゃんにはこうした特徴があるのだが、猫はさらにその上をいく魅力をそなえている。

人間の赤ん坊と同じように顔の前にある大きな目、赤ん坊のような「にゃ〜」という鳴き声など……

この「にゃ〜」は、わざわざ人の赤ん坊に似せて猫が進化させたという説もある。(実際、アマゾンにいるネコ科動物は、狩りをしながら、霊長類の赤ん坊の泣き声を真似ることが観察されている)

色濃く残す野生x人の赤ん坊に似た愛らしさ、極め付けの単独行動動物(猫)x極め付けのコミュニケーション動物(人)——このアンビバレンスが、謎めいた魅力の源泉のひとつになっているのだ。

猫は人を飼いならしている

犬は人間が積極的に飼いならしてきたが、気ままな自由主義者である猫は、じぶんの方から人間に近づいてきた。

しかも、人間に飼われているように見せかけて、実は人間をひそかに飼いならしていることもわかってきた。

たとえば、ペットの猫が人間にいろいろ要求すると、そのサインを人間は努力して読み取って、エサを与えたり、撫でたり、遊んでやったりと……つまり猫にしつけられているのである。

それだけではない。もっと強力に脳内からコントロールされている可能性もある。猫から人にうつる寄生生物トキソプラズマで、世界中の3人に1人が感染している。

感染すると性格が変わってしまい、男は無茶をしがちになり、女は社交的になるという。また、感染したネズミは、本来、避けるべき猫に惹きつけられるようになってしまう。

……トキソプラズマが繁殖できるのはネコ科の腸内だけなので、猫に食べられるようにネズミを仕向けているわけだ。

寄生生物にとってはネズミも人間も区別はつかないから、猫に食べられてもかまわないくらいに好きなあなたはもうやられているのかも?

さて、こうして人間に魔法をかけた猫たちは、人間とともに世界各地へと渡っていく。いまでは世界中に6億もの猫がいて、都市化とともにさらに急増中だ。

忘れてはならないのは、猫はまだ野生に片足をかけているということだ。いったん野に放たれると、その性行のままに、生態系を荒らし回る。世界各地でこうした猫による希少種の捕獲・絶滅が問題になっており、オーストラリアでは同大陸の哺乳動物の生き残りにとって猫が唯一最大の脅威とさえ言われている。

かつてはライオンなどの頂点補食者が各地の生態系に君臨していた。だが、こうした強力な動物たちは人間による開拓などによって、居場所をなくしてきた。いまやトラやヒョウ、ライオンなどのネコ科動物は、絶滅が危惧されているほどだ。

代わって台頭してきたのが、猫(イエネコ)であり、人間を味方につけたこの小さなライオンたちは、ますます地球を我が家のようにしつつある。

なぜインターネットで大人気なのか

リアルを制覇した猫たちの勢いは、ネット生態系まで浸食している。なぜ、インターネットで猫の人気が衰えないのかを調べる研究も盛んだ。

本書では興味深い説がいろいろ紹介されているが、「突発性」と「あいまいな表情(あるいは無表情)」という指摘が面白い。たとえば、猫は不意打ち攻撃を得意とするが、こうした突発性は断片的なネットの生態系によく合う。

そして、「あいまいな表情」。単独行動をとる猫は、本来、お互いにコミュニケーションする必要もなく、そうした技術も発達させてこなかった。そのため、何らかの欲求を表情でしっかり伝え合うこともない。

ところが、そこがかえって、大いなるコミュニケーション動物である人間を揺さぶるのだ。表情が読みにくいがゆえに、人はそこにさまざまな感情を読み取ったり、伝えたりすることができる。

単純な感情だけではなく、複雑な感情も猫をとおして伝えられるーー
ある研究では、「知りたがり」「しらけた」「生意気」「広場恐怖症」などの感情も含まれていた。

猫たちはネットのなかでは永遠に生きられるが、リアルな猫たちの未来はどうなるだろう? 猫はまだ完全に飼いならされてはおらず、その途上にあるらしいことから、やがて飼いならしの特徴である「垂れ耳」になるかも知れない。

近年、珍しい品種が次々と開発されているが、遠い将来にはサーベル状の剣歯が生えた猫が生まれる可能性もある。

こうした未来を含め、本書は私たちの猫への見方を変える知見が満載だ。

私はこの本を通して、ネコという動物をあるがままに、人間のおもちゃではなく、戦略と物語をもった力強い生きものとして理解することが重要だと論じてきた。

このような目でネコを見ることによって、私たちは自分自身を理解し、自分が何をできるかを完全に知ることができる

ーー本書より

(なお、本書は全米ベストセラー、年間ベストブック&賞を多数、獲得している)

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon Kindle

『ノンフィクションはこれを読め! 2014』電子版にて発売中!

HONZ会員登録はこちら

人気記事