『秘録イスラエル特殊部隊〜中東戦記1948〜2014』でイスラエルの裏面史が見えてくる

足立 真穂2018年04月13日 印刷向け表示
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秘録イスラエル特殊部隊──中東戦記1948-2014
作者:マイケル バー=ゾウハー 翻訳:上野 元美
出版社:早川書房
発売日:2018-03-20
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1948年の独立以来、イスラエルの特殊部隊が関わった作戦の数々を時系列で微細に入り伝えるノンフィクション。空港での人質奪還、中東戦争、エルサレム包囲戦、レバノン戦争、「テロリスト」の暗殺、原子炉空爆、ハマスとの闘い……その背景を知ることで、イスラエルの歴史や芯のようなものまでが見えてくる。

原題はNo Mission is Impossible.
『ミッション・インポッシブル』の、映画も真っ青な内容が続くのであながち嘘ではない。なにしろ著者は、世界最強と言われるイスラエルの対外情報機関「モサド」について書いたベストセラーノンフィクション『モサド・ファイル』 のマイケル・バー=ゾウハーとニシム・ミシャルのコンビだ。

マイケル・バー=ゾウハー自身がスパイ小説の巨匠で、そもそもの経歴がすごい。1938年にブルガリアに生まれ、建国の年にイスラエルに移住し、大学を卒業後中東戦争に従軍。大学で教鞭をとりながら国会議員や国防相の顧問を務めた。首相やモサド長官の伝記をまとめると同時に、ベストセラー小説やノンフィクションをがしがしと執筆中……と、こういう本を書くべくして書いている人なのである。タッグを組んだ共著者のニシム・ミシャルは、テレビ界の第一人者でジャーナリストだというから、うまく役割分担ができたのだろう。

サブタイトルにあるように、建国以来イスラエルが経験してきた、歴史を変えるような戦闘を、特殊部隊が作戦を実行する視点で書いている。マイケル・バー=ゾウハー自身も途中から登場するが、現場経験がものを言っている。

少人数で行うこともあり、また、空挺部隊のユニット101、サエレトマトカル、シャエテット13、キングフィッシャー、デュブデバン、シムション、マグラン……といった特殊部隊やコマンド部隊が機能的に作戦をこなす様は、映画以上に映画らしい。こんなこと本当にあるのか、の連続だ。

とはいえ、書物や新聞記事、公文書を参考にしてまとめており、文中にもコメントが出てくるが、退役、現役問わず多くの当事者から話を聞いているのは特徴的だ。
戦争に至る歴史の大河については章の冒頭に大まかに書いてあるだけで、個別の戦闘について、具体的な人物描写や作戦の動きに至るまでそれぞれを追いかけて描いているのである。

たとえば、六日間戦争(1967年の第三次中東戦争のこと。イスラエルが奇襲攻撃で圧倒的勝利をおさめ、支配地域を拡大させたことでパレスチナ難民が数多く生まれた)のエルサレム包囲戦(旧市街を含む東エルサレムは、ヨルダンからイスラエルの支配下に)での結果は、こんなことになる(空挺隊員はイスラエル側)。

戦闘は朝六時一五分に終了した。弾薬の丘で、空挺隊員三六人とヨルダン兵七〇人が死亡した。
ヨルダン兵数人は捕虜となった。捕虜となって最初の仕事は、仲間の遺体を埋めることだった。ある空挺隊員が、その墓に“ヨルダン軍兵士二八名ここに眠る”と書いた標識を立てた。別の兵が、その標識に“勇敢なヨルダン軍兵士二八名……”と書き加えた。

のちに文官の高官として活躍する個人を主役にする場合も多く、大統領や首相となって国際政治の舞台で活躍していて、私でさえ名前を知っている人もいたので、イスラエルをよく知る人にはさらに情報量が多いのではないかと思う。たとえば現首相のベンヤミンン・ネタニヤフも、兄弟と共に特殊部隊で活躍していたことが書かれている。

最近はITや企業が若者の憧れの対象となりつつあるそうだが、これまでは、特殊部隊や空軍のパイロットといったプロの軍人こそがエリートとされてきたのだ。

1948年当時、イスラエルの人口は65万、周囲のアラブ5カ国は3000万人以上。2015年には、イスラエルの800万に対して周辺国は1億4000万人。その差は広がっている。面積は四国程度の小ささで、本書でも数々の死闘が描かれるエジプトの首都カイロとエルサレムは、直線距離で約422キロだから、ちょうど東京から神戸の直線距離と同じくらいだ。
つまり、近い。
戦争をいつも意識せざるをえない国だということはまちがいない。

ただし、建国以来の勇猛さとは裏腹に、最後の解説で、最近のイスラエル軍の変容についても触れられている(立山良司氏による)。国民皆兵の徴兵システムの無理、偏狭な宗教ナショナリズム、占領や軍事作戦への国際的批判……など抱える問題は多いのだ。

だからこそ、イスラエルがよくわからない、という人はこれを読むと見えてくるものがあるだろう。軍の歴史や問題点は、まさにイスラエルの国のそれだからだ。もちろんイスラエル側からの歴史になっている点は注意が必要だが、国が動く方程式を知っていると、変数が入ってきた時に結果の判断がつくというもの。イスラエルが拠って立つ芯のようなものに触れさせてくれるノンフィクションだと思う。

小説よりも小説らしい。映画よりも映画らしい。まさに「あなたの知らない世界」が待っている。 

モサド・ファイル――イスラエル最強スパイ列伝 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
作者:マイケル・バー゠ゾウハー&ニシム・ミシャル 翻訳:上野元美
出版社:早川書房
発売日:2014-10-10
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文中でも紹介した、同じ著者コンビの一冊だ。

ユダヤ人の歴史 (河出文庫)
作者:レイモンド・P・シェインドリン 翻訳:入江 規夫
出版社:河出書房新社
発売日:2012-08-04
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以前にレビューを書いたこちらの本も、併せて読むと効果的だろう。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
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