『宇宙ビジネスの衝撃 21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ』

堀内 勉2018年06月01日 印刷向け表示
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宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ
作者:大貫 美鈴
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2018-05-10
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 「これからは宇宙ビジネスの時代だ」と言うと、大抵の人は何のことだか分からず困惑するようだ。日本では下町企業のロケット打ち上げが感動物語として映画になってしまうくらいなので、宇宙ビジネスと言われても余り実感が湧かないのかも知れない。

そもそも、普通の人が宇宙空間をどこまで正確に理解しているかも怪しいので、まずこの点の整理からしておきたい。

宇宙ビジネスの対象となる空間は、大きく「深宇宙」「静止軌道」「低軌道」の3つに分けられる。「深宇宙」というのは、月、小惑星、火星などの遠い宇宙のことで、宇宙基地としての月開発、小惑星の資源開発、火星への有人宇宙飛行など、これからの開拓が期待されるエリアである。

「静止軌道」は赤道上36,000キロの軌道のことであり、1980年代から1990年代にかけて各国が気象衛星、通信衛星、放送衛星、測位衛星などを打ち上げて、既に2000年以前から商業化している。人工衛星に働く重力と遠心力が釣り合う軌道であり、地球の自転と同じ周期で回り、地上に対してずっと同じ場所に静止しているように見えることから、この軌道上を周回する人工衛星は静止衛星と呼ばれている。

これに対して、2000年以降に商業化が急速に進んだのが、高度100キロから2,000キロ辺りまでの「低軌道」であり、ここで高性能な小型衛星による様々な事業化が進み、宇宙ビジネスが活況を呈している。

低軌道は、更に「サブオービタル(準軌道)」「太陽同期軌道」「極軌道」などに分けられるが、特に、打ち上げられた機体が軌道に乗って地球を周回することなく再び地上に戻ってくる飛行経路であるサブオービタルは、商業運航などの新たなプラットフォームとして、今、最も注目されているのである。

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本書『宇宙ビジネスの衝撃』より

今、こうした宇宙空間で、スペースX、アマゾン、グーグル、フェイスブックといったアメリカのITの巨人達が、次々と宇宙ビジネスに参入している。一般にはNASAのイメージが強過ぎて、宇宙空間と言うと国が扱うことだと考えられがちだが、実際には民間による宇宙ビジネスが、この10年余りで一気に加速している。今、宇宙は空前の「ゴールドラッシュ」を迎えているのである。

例えば、宇宙に浮かぶ小惑星には、燃料やレアメタルなどの貴重資源が豊富にあることが確認されているが、その採掘という意味だけでなく、未開拓の空間に広がる無限のビジネスチャンスをつかもうと、多くの企業や投資家たちが宇宙ビジネスに殺到している。

こうした宇宙開発の商業化のキッカケは、スペースシャトルの後継機の開発は民間に任せて、NASAは民間からサービスを購入するという、2005年のアメリカ政府の政策の大転換であった。

2010年にオバマ大統領が出した「新国家宇宙政策」では、そうした民間企業の技術やサービスの購入、起業の促進、インフラの商業利用、輸出の促進などが明確に示されており、これ以降、アメリカでは官民連携で宇宙開発の商業化が推進されてきた。

実際、2005年に17兆円だった宇宙ビジネスの世界市場「スペース・エコノミー」は、2016年には33兆円にまで倍増している。この間、民間のサービスやプロダクトが大きく伸びてきているのに対して、そこでの各国の宇宙予算、即ち公的部門のシェアは四分の一に満たなくなっている。
市場の拡大に伴い、宇宙関連ビジネスへの投資も急速に増えていて、世界の宇宙関連ベンチャーへの投資は、2015年には前年の約500億円から5倍の約2,500億円へと拡大し、それ以降も高い水準で推移している。

特に、こうした宇宙開発を「市場」に変えた立役者が、テスラのイーロン・マスクである。彼が2002年に立ち上げたスペースXは、2006年に「ファルコン1」ロケットを皮切りに、その後「ファルコン9」や、現在、世界一の巨大ロケットである「ファルコンヘビー」を開発し、既に50回以上ロケットの打ち上げを行っており、NASAに代わって国際宇宙ステーションへのアメリカの補給便サービスまで引き受けている。

更に、スペースXは独自の衛星ネットワーク構築にも挑んでいる。2015年には、世界中を高速インターネットで切れ目なくつなげ、全地球上のコネクティビティーを実現するという大規模な「インターネット衛星ネットワーク運用計画」を発表し、世界中に衝撃を与えた。

このように、スペースXは創業からわずか十数年で、宇宙への輸送のみならず、衛星を使った地球ネットワークの構築を手掛ける企業へと成長してきているのである。

イーロン・マスクが最終的に目指すのは人類の「火星移住」であり、2016年には、惑星間輸送システムにより千人単位で火星に飛行する計画を発表した。また、アラブ首長国連邦も、100年後に火星にミニシティを建設すると発表するなど、国をあげて火星への取り組みを進めており、火星移住計画はもはや「構想」ではなく「計画」の段階へ移行しているのである。

アマゾンのジェフ・ベゾスも、イーロン・マスクより2年早い2000年に航空宇宙会社のブルーオリジンを設立している。ブルーオリジンが開発しているのは、垂直離着陸型のサブオービタル機「ニュー・シェパード」で、これが成功すれば、宇宙旅行や宇宙実験が現実のものになる。また、月面開発については、月面基地建設のための輸送システムの確立を目指し、月面輸送機「ブルームーン」の開発を発表している。

ジェフ・ベゾスのビジョンは「100万人が宇宙に住んで働く」ことで、地球経済圏を更に広げて、宇宙経済圏に拡大していくというものである。将来、宇宙に100万人の経済圏ができることを想定し、有人宇宙飛行のために安価で安全なロケットが必要になるとして、宇宙旅行ができるサブオービタル(準軌道)機や大型ロケットの開発に取り組んでおり、既に試験機による宇宙空間までの飛行実験に何度も成功している。

2017年、ジェフ・ベゾスは記者会見でブルーオリジンに毎年1,000億円の資金を投入すると発表したが、日本の年間の宇宙関連予算は約3,000億円であり、これは日本の宇宙関連予算の三分の一ものスケールになる。

イーロン・マスクとジェフ・ベゾスの二人に共通しているのは、まずは輸送機を安く製造し、宇宙へのアクセシビリティーを高めようとしていることである。宇宙輸送コストを下げることで、その先に潜む無限のマーケットへの扉が開かれるのである。

同様に、近年、シリコンバレーでは数多くの宇宙ベンチャーが生まれている。IT関連の技術や資金が流れ込んでいるのは、宇宙をインターネットの延長線上で情報や通信の手段として捉えているからである。つまり、宇宙にネットワークを張り巡らせることで、「地球のビッグデータ」が手に入り、それをグローバルにつなぐコネクティビティーの手段として活用できるのである。

現在、打ち上げが計画されている小型衛星の数は、地球観測衛星で約千機、通信衛星では2万機を超えており、こうした高性能の小型衛星の撮影機能を使えば、コンステレーション(複数の人工衛星を連携させる運用法)で連続的に周回して地球を捉えることで、一刻一刻その変化を見ることが可能になる。

地球を観察することで手に入るビッグデータや通信環境は、今後、IoTやAIの進化と結びついて、製造、サービス、流通、医療、金融、娯楽、教育、農業、漁業、防災などのあり方を激変させ、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めている。

例えば、データを地図情報と組み合わせることで、車の自動運転に結びつけることができる。どの時間帯が混むのかが分かれば、バスの時刻表作りも変わっていく。ショッピングモールの駐車場に停まっている車の数を時系列で分析することができる。植えられた作物の生育状況を宇宙から把握することができる。牧畜で牧羊犬に代わって牛を管理することができる。魚群探知機の精度を高めていくことができる。大気のビッグデータを集めて天気予報の精度を高めたり、衛星写真を用いてゴルフ場やイベント会場などの局所的な天気予報も可能になる。

小型通信衛星による安定したネットワークを作ることができれば、今はまだインターネットがつながらないエリアもカバーできるようになり、決済システムが導入され、eコマースが地球の隅々まで行き渡れば、大きな経済発展がもたらされる。

ITプレーヤーたちの宇宙ビジネス参入で象徴的なのは、ITの巨人、グーグルの取り組みである。グーグルは地球観測、通信、宇宙資源など幅広い分野に投資しているが、ベースとなっている考え方は、「プラットフォーム」として宇宙を捉えていることである。

グーグルと言えば、グーグルアースを思い浮かべる人が多いだろうが、グーグルアースは元々、2004年に人工衛星や航空撮影の画像をデータベース化したソフトを販売している会社キーホールをグーグルが買収し、その技術を使って開発したものである。

元々、グーグルが欲しかったのは「地球のモニタリングデータ」である。最新鋭の小型衛星を数多く低軌道に打ち上げる小型衛星のコンステレーションのネットワークができれば、これまで数週間に1回だった撮影が毎日同じ地点で可能になり、地球を連続的にモニタリングすることができるようになる。

小さなものから大きなものまで、一刻一刻の動きをまるで動画のようにモニタリングし、その地球ビッグデータをIoTと組み合わせたり、AIで分析することで、様々な経済活動や未来の予測に利用できるようになるのである。

このように、宇宙はもはや特別な場所ではなくなっている。それはビジネスチャンスを大きく拡大する現実の経済圏であり、デジタル技術が急速に進む中で、宇宙はイノベーションのフロンティアとして大いに期待されているのである。

こうした華々しい宇宙ビジネスの話の中に、ここまで日本が全く登場しなかったので、最後に、日本発の宇宙ベンチャーの動きについても付言しておきたい。

近年、日本でも宇宙関連ベンチャーが数多く立ち上がり、民間宇宙事業が急速に盛り上がってきた。そんなベンチャーのひとつが、「科学とエンターテインメントの融合」として人工流れ星プロジェクト「SHOOTING STAR challenge」を推進している、ゴールドマンサックス出身の異色の物理学者・岡島礼奈社長が率いるALE(エール)である。

ALEの人工流れ星は、打ち上げ代行サービスを利用して自社開発の人工衛星(ALE SAT)を高度400キロメートルほどの太陽同期軌道に投入し、そこから放出した流れ星の基となる粒を大気圏に突入させて光らせるというものである。2019年初夏に瀬戸内エリアで最初のプロジェクトを実施する計画であり、地上では直径200キロメートルの範囲で人工流れ星が見られるという。

恐らく頭の固いビジネスマンだと、こんなことが本当に何か意味あるビジネスになるのかと訝しく思うだろうが、本プロジェクトには、既に日本航空とファミリーマートがオフィシャルスポンサーとしてついており、計画は着々と進んでいる。

地球資源や環境の有限性からくる経済成長の限界が、SF映画に出てくるような新しい宇宙ビジネスによってブレークスルーされる。そんなワクワクするような事が、今我々の生きている世界で現実のものとして起きているのである。

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