『成績をハックする:評価を学びにいかす10の方法』学びの再起動ボタン

山本 尚毅2018年08月26日 印刷向け表示
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成績をハックする: 評価を学びにいかす10の方法
作者:スター サックシュタイン 翻訳:高瀬 裕人
出版社:新評論
発売日:2018-06-28
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本書はニューヨークで英語やジャーナリズムを教える高校教師が、成績を用いず、生徒を評価する挑戦を行った記録である。通知表を捨て、成績をつけないクラスの実験を5年ほど前にはじめた。

淡々とコンパクトに実践の記録をまとめているが、時折顔をのぞかせる著者の成績に対する意見は核心を射抜いている。

成績は、生徒を動機づけたり、罰したりするのに使われます。生徒がしたくないことをさせるために存在する極めて強力なツールなのです

成績は成長を大切にせず、生徒を互いに対抗させるという競争に基づく学習文化を生み出す

保護者はよい成績をとることが成功することであると思いこんでいる。そして、それを子どもたちにも教える

成績は生徒にとってではなく、結局のところ教師にとっての強力な武器でしかありません

とはいえ、教師が成績をつけるというのは聖域であり、変更が難しいアーキテクチャーである。そして、教師だけでなく、生徒自身も成績を付けられることに慣れきっている。だから、成績をつけないクラスでは、年度初めには「先生が成績を付けないとしたら、自分に対する評価をどうやって知るのですか?」という質問が必ず出てくる。

しかし、年度終わりには、「成績を気にしないことで、よりワクワクしたり、物事に挑戦しようと思ったりすることができた」と生徒が発言するようになるのだ。

どうやって、この年度初めと年度終わりの目を瞠るような生徒の変化を生み出したのか。教育現場ではコンピュータシステムを一夜にして麻痺させるようなドラスティックなハックは存在しない。生徒と保護者との日々の対話し、ときに説得し、生徒を学びの主役に変えていく。地道な実践の積み重ねである。

そして、学校現場では年度初めには生徒と保護者はもちろん、場合によっては上司さえも入れ替わる。多くが振り出しに戻るなかで、毎年繰り返してきた著者のタフさに感服するし、そこから学べることは多い。以下に紹介する5つのハックは、なかでも骨太であり本質的である。
 

ハック1:成績の見方・考え方を変える 
ー成績なしの教室づくりをはじめる

ハック2:納得してもらえるように努力する 
ーすべての関係者といつでも連絡がとれるようにする

ハック7:成長をガラス張りで見えるようにする 
ー伝統的な成績表を処分する

ハック8:振り返ることを教える 
ーメタ認知能力をもった学習者になれるように生徒をサポートする

これらのハックの中核にあるのが、カンファランスという方法である。一斉授業を焦点を絞った短い時間での指導に変更し、残りの時間を個別の生徒や似たニーズを抱えた生徒たちに対して短時間で相談に乗るやり方である。生徒とスキルを本当に身につけるとはどういうことかを話し合い、自分の成果物を自分で評価できるように支援した。

昨今の企業における人事評価の変化とも相通じるところがある。2012年ごろからアドビシステムズ、マイクロソフト、GEなどの企業が採用しはじめたノーレーティングや、日本でもヤフーが取り入れて話題になっている1on1である。

しかし、著者でさえ実際には学校や教育委員会のルールとして、成績をつけざるを得ない状況にあった。成績評価は学校制度の歴史とともに歩んでいると言っても過言ではなく、そのシステム全体をハックすることは難しい。そこで、著者が苦渋の策としてとった方法は「ハック9」にまとめられている。大胆な発想の転換ではあるが、成績をハックするなかで必然とも感じられるやり方で、最大の難関を乗り越えたのだ。

本書はアメリカで教師向けに発行されているハックシリーズの一環で、1つのハックが「問題点→ハック→明日にでもできること→完全実施に向けての青写真→課題を乗り越える→事例」にまとめられている。今日読んで明日実践する、忙しく教育現場で働く教師も読みやすいコンパクトで実践的な内容である。見どころは「課題を乗り越える」だ。生徒や保護者、同僚からの不満、反対、抵抗、課題に対処するケーススタディの宝庫だ。

自分に対しても、周囲(子どもや部下)に対しても、学びの動機づけの道具として、成績を使うことは染み付いた習慣になっている。もし、少しでも変えてみたいと思ったとき、本書は勇気をくれ、ささやかな手助けになる。

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科学が教える、子育て成功への道
作者:キャシー・ハーシュ=パセック 翻訳:今井 むつみ
出版社:扶桑社
発売日:2017-08-19
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評価の経済学
作者:デビッド・ウォーラー 翻訳:月沢 李歌子
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作者:ナンシー・アトウェル 翻訳:小坂 敦子
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