想像できないものを想像する──『見知らぬものと出会う: ファースト・コンタクトの相互行為論』

冬木 糸一2018年10月25日 印刷向け表示
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見知らぬものと出会う: ファースト・コンタクトの相互行為論
作者:木村 大治
出版社:東京大学出版会
発売日:2018-09-28
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我々人類はいまだ宇宙人、異星の生命体というものに出会ったことがないので、もしそういった存在と出会ったときに何が起こるのかは想像を広げていくほかない。だが、その際には「会ったこともない相手をどのように想像したらよいのか」という難問に直面することになる。本書のモチーフとして取り上げられているのは、SFマガジンに傑作『神狩り』が載った際に、著者山田正紀によって寄せられた中の一節「想像できないものを想像する」というフレーズなのだ。

「宇宙人」と一言でいっても、我々は元首相の鳩山由紀夫氏に「この人のいっていることは理解できない」とする揶揄をこめて宇宙人と呼んだりもするし、その表象のされ方は多様である。そうした状況もろもろを含め、我々は「宇宙人」というときに、そこにどんな意味を込めているのか。また、これまでSFや宇宙人探査などで宇宙人はどのように想像され、描かれてきたのか。本書はその道筋を追うと共に、そこに共通する「未知なるものを想像し、コミュニケートする際の構え」、コミュニケーションロジックのようなものがあることを明らかにしていく一冊だ。

自分たちとは大きく来歴が異なる相手と、どのようにすればコミュニケーションが成立するのだろうか? 宇宙人とのファースト・コンタクトが実現したら何が起こるのか? などなどシンプルな問いかけの数々が本書の魅力だが、同時に古今東西さまざまな「ファースト・コンタクト」テーマに絞ったSF作品の内容紹介、比較、議論も行われており、現実のみならず、フィクションまで含めた、未知との遭遇、ファースト・コンタクト論としてもおいしい。

以下、いくらか具体的に紹介してみよう。

宇宙人観の変遷

そもそも「宇宙人」がどのように想像されてきたのかだが、ざっくり20世紀まででは次のような変遷を辿っている。1.地球外に地球と似た世界があり、そこには人間とよく似た人々がいる。2.地球人と姿かたちが異なるものの、コミュニケーションはとれる。3.姿が異なり、コミュニケーションも困難で、敵対的である。ようは「我々と近しい存在から、姿がかわっていき、コミュニケーション的にも遠ざかっていく」傾向がみえるようである(無論、内実はもっと豊かである)。

現実的には異星人が人間と同じような姿と知性を有しているとは考えづらく、異星人が人型なわけないじゃんと思ってしまうが、人間は知性というものを自分たちをモデルにして考えるところから始めざるをえず、最初の一歩としては物凄く人間的なところからはじまって、徐々に(幻想も薄れてきて)離れていった、という流れがあるのだろう。実際、現在に至るにつれ多様な宇宙人像が描かれるようになってきたとはいえ、どうしても人間的なものから逃れるのは難しい。

人間はどうしても「人間」に軸足を置いて、そこから想像を投射せざるをえないとしたら(著者はその立場に立つ)、異なる知性を相手にして、どのようにコミュニケーションを考えていけばいいのだろうか。これについては、現実でも取り組みが行われている。たとえば、地球外知的生命体探査(SETI)プロジェクトでは、1から10までの数字や水素・炭素・窒素・酸素・リンの原子番号など無数の「知性があれば理解してくれるはず」という情報を電波信号に乗せて放っている。

数学は宇宙のどこでも共通する概念なので、たしかに相手がそれを知っていれば(+電波を受信できれば)そこに知性を感じ取るだろうが、『つまりそこで想定されているのは、「生真面目な工学者」としての宇宙人であり、それは実はSETIをやっている科学者自身の鏡像なのである。』と本書では指摘を入れている。『つまりこれらの事例からは、いかに「他なるもの」を表象しようとしても、どこかで人間のくびきから逃れきれない、という構図が見えてくる。』

コミュニケーションについて

というあたりまでが全三部中の第一部。第二部ではそうした前提を踏まえた上で、コミュニケートするとは本質的にはどういうことなのかという基盤を埋めにかかる。たとえば、カール・セーガン『コンタクト』で描かれた「異星人から人類へのコンタクト方法」二種類を上げてみせる。一つは先にも書いたような、素数を送りつけてくる手法(人類はこれに気づく)。もう一つは、1936年のベルリンオリンピックにおけるヒトラーの演説映像が送りつけられるというものだ。

これは地球ではじめて大規模に行われたテレビ中継であるからこそ送り返されてきたわけである。こちらから送った(意図してはいないものの)物が送り返されてきているだけで、情報量としては何も増えていないが、要するにそちらの情報をこちらは受け取りましたよ、という明確な印になっており、『つまり、両者の間には「同じメッセージを送り合う」という意味での「相性性」という形の規則性が生まれているのである。』ということになる。逆に素数が送られてくる手法については、自然に内在する規則性を元に人類と彼らの間の規則性を作り上げましょうという発想であり、コミュニケート方法としては大きくことなっている。

この両者の間で立ち上がってくる、「規則性」がコミュニケーションが成立することを示すうえで重要な概念になってくる。たとえば、相手の言ってきたことをそのまま返す行為は挨拶などで一般的によく行われていて(こんにちは、といってこんにちはと返すとか)、これは情報量的な意味で空虚な行動であるけれども、実際には形式的な相互に規則性のある行動を繰り返すことで、相手に敵意がないということを伝える強力なメタ・メッセージになっているのである。

おわりに

とまあそうした前提を踏まえて、第三部ではSF作品の中での宇宙人を1.友好系(『最初の接触』など)、2.敵対系(『エンダーのゲーム』など)、3.わからん系(『ソラリス』など)に大別して、神林長平『戦闘妖精・雪風』から筒井康隆まで取り上げながら紹介し、いよいよ、いかにして未知なるものとコミュニケーションをはかるのかという本題へと入っていくことになる。

言語哲学から情報理論、はてはアフリカの奥地の狩猟採集民の文化人類学的な視点まで幅広く込み入った話が続くが、そのぶんじっくりと、コミュニケーションとはなんなのか、どうやって成立しているのか、といった本質的なところまで学ぶことのできる一冊だ。同時期に出た類縁本として、橳島次郎『もしも宇宙に行くのなら――人間の未来のための思考実験』も「人間が宇宙へ進出していった先に、何を考えなければいけないのか」をファースト・コンタクトまで含めた思考実験本で、こちらもおもしろいのでオススメしておこう。

もしも宇宙に行くのなら――人間の未来のための思考実験
作者:〓島(ぬでしま) 次郎
出版社:岩波書店
発売日:2018-10-05
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