『広重TOKYO 名所江戸百景』広重の足跡をたどりながら浮世絵と過ごす上質な時間

成毛 眞2018年11月09日 印刷向け表示
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広重TOKYO 名所江戸百景
作者:小池 満紀子
出版社:講談社
発売日:2017-05-31
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見開きの右頁全面には、歌川広重の名所江戸百景から選んだ一枚の浮世絵。左頁には広重がその浮世絵を描いた場所の地図と、浮世絵に描かれている文物の絵解き。さらに時代背景や鑑賞のポイントも解説されている。つや消しの上質紙を使って、119枚もの浮世絵を取り上げているのだから、重量感のある小体な美術解説書という趣きだ。

たとえば、ゴッホが模写したことで有名な「大はしあたけの夕立」のページを開くと、「大はし」とは現在の新大橋のことであり、「あたけ」とは将軍の御座船「安宅丸」が祀られていたがゆえの地名であるとの解説がある。

さらに地図を見てみると、広重は現在の浜町ポンプ所付近から新大橋を眺めながらこの絵を描いたことが一目で判る仕掛けになっており、新大橋と御船蔵跡の石碑の写真も載っている。カメラ片手に散歩するもよし、アームチェア・トラベラーとして江戸の風情を想像するもよし、このページだけで小一時間楽しめるだろう。

本書に使われている浮世絵は原安三郎コレクションからの抜粋だ。明治生まれの原は昭和10年に日本火薬製造の社長になり、98歳で没するまで現役を貫いた。火薬メーカーにもかかわらず、軍用火薬は一切製造せずに産業用に徹するという気骨の人だった。

コレクションの多くは初摺だが色が落ちることもなく鮮明。微妙なぼかしがじつに美しい。実物はさらにキラキラと光る雲母摺も使われていたのだから、この浮世絵を手にとったゴッホたちはさぞかし驚いたに違いない。

もし、当時のパリに本書があったならば、ゴッホはアルルではなく、江戸に移り住んでいたかもしれないなどと空想するのも楽しい。

美術書というジャンルは、書評で取り上げられることが少ない。文字だけでの解説が難しいことと、書評界では文章優位の思想があるのかもしれない。それがあえて今週、本書を選んだ理由だ。

 ※週刊新潮より転載

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