『ムンク展 共鳴する魂の叫び』公式ガイドブック

新井 文月2018年11月07日 印刷向け表示
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『ムンク展 共鳴する魂の叫び』 公式ガイドブック (AERAムック)
作者:
出版社:朝日新聞出版
発売日:2018-10-25
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ムンクといえば《叫び》というほど、この絵はあまりにも有名です。

ただ、絵の中の男は叫んではいません。実は耳を塞いでいるのをご存知でしょうか?

―自然を貫く叫びに底知れない恐怖を感じた―
と本人もコメントを残しています。夕焼けに染まるニース海岸の情景から、恐怖という目に見えない内面を視覚化したのかもしれません。
 
いまムンク展が、上野の東京都美術館で開催されています。本書は展示の魅力を深める公式ガイドブックで、フルカラーかつ誰もが読みやすい構成です。ムンク自身の生い立ちから、あまり部屋に飾りたくないような怖い絵を何故描くようになったか。そしてアートの歴史が4ページ程で概要がわかる図説もあります。眺めているだけでも、さながら美術館のイヤホンガイドを聞き鑑賞しているかのようで、ムンクってどんな人?という人にも、おすすめです。
 
 

実はムンクの《叫び》は、作家自身の精神的変化とともに、手法を変え4種類が描かれてます。ムンク展にも登場する《叫び》は、テンペラと油絵を組み合わせであり、これら素材はふつう色が褪せず永続的に良い発色をするのが特徴です。ただ実際の絵画は、発色が良いというよりも、くすんだような全体的に彩度が低く見えます。もちろんこれは、ムンクが意図する鬱的な内面表現でしょう。ヨーロッパでは、死や鬱といった感情表現は共感されやすいテーマでもあります。《叫び》のうち1枚は、サザビーズにて1億1992万ドル(96億円)で落札されました。

 

ムンクは少年時代、当時は不治の病とされた結核により母と姉を亡くしました。5歳で母を結核で亡くし、当時母の代わりに兄弟を支えた姉を15歳で失います。その悲しみは深く、ムンクは精神を吐き出すべく「死」をモチーフにした作品≪死と春≫を描きました。以降、ムンクは死や不安といったテーマに挑戦し、その心象を様々な技法で表現していきます。

 

厳格なクリスチャンの父に育てられたムンクは、20歳をすぎてから、初めて女性と恋に落ちます。高身長でハンサムだったムンクのファーストキスは人妻でした。悦びと罪の意識が同居し原動力となったのか、《マドンナ》や《接吻》など女性をテーマにした作品を数多く残しました。意外と自分の体験をそのまま作品に反映していく姿勢は、真摯に画業とむきあうムンクの真面目さが伝わってきます。展示会には、影響を受けたニーチェなど男性の肖像画もありますが、やはり女性が登場する作品は、その内面の美と闇が色濃くでているように感じます。

ムンク自身は生涯独身で、非常に多作の作家でもありました。80歳の人生の中で油絵だけでも生涯1300点ほどの作品を残してます。さらに版画技術も習得したため、その総計は4万点にも及ぶとか。出身地ノルウェーでは最高紙幣額1000クローネのお札にもなっており、その影響力がうかがえます。

 

この図解が秀逸で、絵画の歴史概要がほとんど理解できます。当時のブームであったモネやゴッホなど印象派の画家達は、自らの感覚に従って明るい絵を描きました。ムンクはそれを断固否定します。印象派が感覚で描くのに対し、ムンクは自身の心の中へと目を向け、不安や葛藤と対面し愛を表現します。ルネサンス以前で画家は宮廷画家として受注生産で暮らしていましたが、自ら書きたいものを書き始める時代はここから始まりました。

今でこそムンクのような内面を描くアーティストは増え、認知されたとも言えます。しかし、それは自我との戦いを伴うスタートでもあります。ムンクはその最先端だったといえるでしょう。こうしたルネサンスから印象派への流れ、そこからムンク達新時代の表現を俯瞰すると、一層アートが楽しめます。ムンクの人生をなぞることで、ものの見方が深まる一冊です。

画像提供:朝日新聞出版

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