ホームページ書籍化第一人者ハマザキカクが断念せざるを得なかった超絶サイト達

2011年10月29日 印刷向け表示
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今でこそ私自身がゼロから立案した企画の比重が増えてきましたが、初期のハマザキカクのラインナップの多くがホームページを書籍化したものでした。入社当初、何の団体にも所属しておらず、人脈もないので持ち込み企画もなく、書き下ろしを書いて貰える知り合いもいなかったので、ネット上からオモシロいネタを探しては、書籍化に値するか吟味するしかなかったのです。「インターネットは無限」と言いますが、2006~2008年にかけて、私は「インターネットの有限性」を感じた程、変なサイトを文字通り隅から隅まで見尽くしたと思っています。数万ページ以上は見てきて、その中でも書籍化候補としてブックマークした数だけでも5265サイトはあります。私のブックマークは門外不出の『ホームページ大全』の様なものと言ってもいいと思います。今回のハマザキ書クでは私が発見してきた、とてつもないけど書籍化は不可能だった、数々のオモシロサイトをご紹介したいと思います。

 

Engrish.com

まず一番今でも未練があるのが「Engrish.com」。見ての通りEnglishの「L」であるべきところが「R」になっています。これは日本人特有の英語の間違いを象徴したもので、このホームページではアメリカ人が日本の町中で発見した、ヘンテコリンな英語を集めたものです。簡単に言うと外国人から見たVOWの様なもの。私は幼少期にアメリカンスクールに通っていたので、英語が多少今でもできるのですが、和製英語の可笑しさにクスっと笑ってしまったり、恥ずかしくなってしまう事が多いです。このサイト運営者に打診したところ、超大手の出版社と交渉中という事で、泣く泣く断念。しかしその後、出版されたという話は聞いていないので、どうなったのでしょう。そしてその後、『ネイティブは見た!ヘンな英語』という、明らかに同じ趣旨の本が出てしまっています。Engrish.comのサイト運営者は中華製珍英語を集めた『Chinglish.com』という本もアメリカで出しており、こちらも爆笑物。

 

機内食ドットコム

世界中の機内食の写真を集めた老舗サイトです。駅弁や空弁の本が流行っていますが、機内食の決定打となる本は出ていません。『コーラ白書』や『即席面サイクロペディア1』等といった食文化コレクションの本を送り出している私としては、何度も執筆依頼を送りかけましたが、写真の写りにバラ付きがある事、テキストデータが乏しいこと、そしてホームページを見ているだけで十分な気がする事で、断念しました。

 

DQNネーム(子供の名前@あー勘違い・子供がカワイソ)

このサイトは有名だと思いますが、まだDQNネームという概念が一般化する前から把握はしていました。いまいち依頼に踏み切れなかったのは、運営者の正体がやや不明な事、2ちゃんねるがベースとなっており、真偽を確かめるのが困難な事などです。後日、『読めるかな!? クイズ いまどき 日本人の名前』という本が出てしまい、やや悔しい思いをしています。

 

世界史系ジョーク集まとめサイト

ヒトラーやスターリン等をネタにした世界史ジョークまとめサイト。この管理人に打診したのですが、2ちゃんねるのまとめという事もあり、著作権保持者がいまいち不明瞭なので断念。今ではTwitterで「ソヴィエト共産党・労働者党情報局」 @Cominform_bot というbotで定期的に配信されているので、これで十分かもしれません。興味がある人はフォローしてみて下さい。

 

世界の航空事故総覧

このサイトを発見した瞬間、執筆依頼を送りかけましたが、同様の趣旨の加藤寛一郎『航空機事故50年史』、デイビッド・ゲロー『航空事故―人類は航空事故から何を学んできたか?』等、類書が幾つか出ていたので断念。

 

予告.in 犯罪予告の収集・通報サイト

このサイトに載っている犯罪予告を全部文書にして資料として残せば、いたずら半分で書いてしまった人達は一生後悔するだろうし、この様に本にされてしまう事によって、犯罪抑止にもなるかと思ったのですが、こうした犯罪気質の愉快犯達の一方的な逆恨みにリスクを感じ、断念。

 

有名人犯罪歴データベース

有名人の犯罪歴をひたすら集めたデータベース。今はホームページは閉鎖されています。訴訟沙汰になる事が想像できたので断念。似たようなサイトで「本名データベース」があります。こちらは常にアップデートされる必要があるのと、これこそホームページを見るだけで十分なので却下。そしてそれと付随して「有名人&芸能人の愛車データベース」というのもあるのですが、これもネットで十分の資料なので、却下。

 

大島てる – CAVEAT EMPTOR

言わずと知れた事件や自殺、事故などが発生した不動産物件のコレクション。よくネットで話題になっています。こちらも不動産や大家からの訴訟が面倒そうなのと、毎日新しい事故物件が増えて終わりがない事、そして地図で表記しないといけないので、本として作るのが面倒そうな事から、原理的に書籍にするより、Google Mapそのままの方が適切だと思いました。

 

CLASSIC VIDEOGAME STATION ODYSSEY

ファミリーコンピューター以前のレトロゲームを集めたカワイらしいホームページ。最初に発見した時はどこかのゲームメーカーがイベントとして作成したものだと思ったのですが、実は個人サイトだと発覚。書籍化依頼を送り、実際お会いして作ろうという事にまでなったのですが、私自身がチュニジアという僻地で幼少時代を送ったので、子ども時代にゲームを全くやる機会がなく、今でも全くやらないので、ゲームの知識がほぼゼロです。となると編集者として力不足で、良い本が作れないと思い直し、私の方から泣く泣く途中で辞退。類書で『電子ゲーム70’s & 80’sコレクション』が出ているみたいです。

 

洗車機まにあっくす

今まで数々の珍コレクターを見てきましたが、その中でも洗車機を研究しているというトップ級のへんてこりんなマニア。このホームページのテイストからして、極めて私の琴線に触れる怪しいテイストがプンプン放たれていますが、一体どれだけの部数を刷って、どれだけ売れるのか、洗車機マニア層が全く読み込めないので断念。このテーマで10年も続いているなんて凄いと思います。もしかしたら車オタクとかにはたまらないネタかもしれないので、ご興味のある車編集者、ライターは検討してみて下さい。タモリ倶楽部で取り上げられそうな感じが素敵です。

 

THE DINOSAURS MADE FROM GOLF BALLS

ゴルフボールを彫刻して、恐竜にしてしまったというアート作品集。このホームページも相当昔から知っていて、何度か写真集として出そうかと思ったのですが、迷っている間ににGigazineやらばQ、ロケットニュースなどで、この手の珍芸術の写真が毎日の様にネットで現れる様になり、うやむやに。でも本当に素晴らしい作品だと思います。

 

市町村変遷パラパラ地図 – つかんぼやと

市町村の変遷をGif動画で再現した驚異のホームページ。これを最初に発見した時はぶったまげました。ただし言うまでもなく、これを紙で再現する事は不可能です。数少ない個人による地図系偉業サイトの一つ。

 

世界地図で見る世界史

最後にこれをご覧になっている皆様のご協力、ご支援をお願いしたいのが、このホームページを作成している方とコンタクトを取る事です。紀元前3000年から現在に至るまでの全世界の国境線を5~10年程度の間隔で描いているという、俄には信じがたい事をやっている超驚異のホームページ。私が編集した『世界飛び地大全』並に歴史的に重大な資料性を帯びている、大変貴重な研究で、もはやサブカルチャーや雑学地理と言った範疇を超えて、全人類の遺産です。

 

このホームページは発見した瞬間、書籍化しようと思ったのですが、どこを見ても全く連絡先が載っていません。htmlのソースを見てみたり、Wayback Machineという閉鎖されたサイトを復元するサービスを使ったり、キャッシュを見てみたり、登録されているgeocitiesから類推して、そのyahooのフリーアカウントアドレスと思われる複数のメールに送ってみたり、このホームページからリンクが張られている別のサイトの人に聞いてみたり、ありとあらゆる手段を尽くして連絡先を突き止めようと思ったのですが、結局未だに「諸葛遽」というハンドルネームを一瞬使っていたという事以外、全く手掛かりが掴めていません。

 

私が編集した『一発朗』という本の藤代尚文さんは、東京大学の物理学の博士課程を出ており、理系的な知能はこの国でもトップ級だと思われるので、連絡先を突き止める事をお願いして、色々と調査してもらったのですがそれでも駄目でした。それを今でも非常に悔しがってくれていて、編集者としては実はかなり嬉しいです(笑)。また私の親戚に神戸の京速スパコンと関連する仕事をしている人がいて、この方に頼んでも結局、このホームページの運営者の連絡先は突き止められませんでした。

 

こうなるとハッカーとかにお願いする以外にないと思うのですが、そもそもなぜここまでして連絡先を一切不明にし、正体を明かしていないのか逆にそちらの方が謎に思えてきます。ごくたまにとても素晴らしいホームページを開設しているのに、連絡先が一切ないという事があるのですが、どうかコンタクトが取れる様にして欲しいです。そしてもしこのホームページの運営者を突き止めて連絡を取り、私と仲介させる事に成功した方は、焼き肉奢ります。どうかご協力頂ければ幸いです。そもそももし諸葛遽さん、この記事をを見ていたら是非、私に連絡下さい! 【注意】そして他の出版社の編集者の皆さん、このサイトはハマザキカクが出すので、絶対に手を付けないで下さい。

 

……と、たまに自分のブックマークを見返しては、書籍化可能かどうか定期的にチェックしているのですが、数多くのホームページがフリースペースに置いてあって、しかもそのサービスを提供している業者が倒産したりして、閉鎖されている事がよくあります。中には本当に歴史的な資料として、非常に貴重な研究だった物が、永遠に失われてしまっている悲惨な事になっているものもあります。デジタルアーカイブや電子書籍に対して私が懐疑的なのもこの点です。どれほど優れた研究でもデータが消えてしまえば、跡形もなく消滅してしまいます。しかし本として印刷して残せば、最低でも1000部前後は発行されますし、国会図書館にも納品され、少なくとも地上に物体としては残ります。

 

もし皆様も「これは書籍化した方が良い!」という貴重な資料や研究をネット上で見かけたら、ホームページ書籍化第一人者編集者であるハマザキカクにご一報下さい。

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