出版失敗談

2012年1月1日 印刷向け表示
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出版失敗談

 

今までの「ハマザキ書ク」では「新刊情報収集テクニック」「一日一企画絶対立てている」等、ハマザキカクがいかに凄いかについて、臆面もなく大宣伝に勤しんで参りましたが、読み直して恥ずかしくなってきました。先日もある有名出版社の編集長が「ハマザキ書ク」を毎回読んでいると知らせてくれて、かなりの赤面状態。

 

出版未経験で社会評論社に潜り込み、人の言う事をあまり聞かないタイプな上に、特に編集や出版について詳しく教えようという社風でもないので、ほとんど自己流でやっています。そのお陰か私自身が独自に開発した編集テクニックが沢山あります。その一方、基本をすっ飛ばしているので信じられない様な失敗も沢山犯してきております。

 

今回の「ハマザキ書ク」では今までの武勇伝とは逆に、私が犯してきた数々の編集失敗談を白状したいと思います。私自身、出版に関する本や編集者の伝記は相当読んできていますが、いずれも「ハマザキ書ク」の様に自分の偉業を自画自賛した内容だったり、編集記号やありがちな誤植を載せた小手先の技術だけを羅列したマニュアル本だったり、退屈な回顧録が多く、物足りなさを感じていましたので、これが参考になれば幸いです。

 

●打ち合わせしてたら、隣のオジサンが興味津々で集中力欠如

『超高層ビビル』の書籍化依頼を著者の中谷さんに送った後、ファミレスで打ち合わせする事になりました。隣の席に中年男性が座り、どうやら我々が出版の話、しかも「日本全国の超高層ビルを集めた写真集」を作ろうとしていると気付き、ただならぬ関心を抱き始め、ずっと露骨に盗み聞きをし始めました。そのせいで非常に話しにくい状態に陥いり、完全に集中力欠如。それ以降、テーブル間隔がある程度あり、内密に談笑ができる喫茶店の場所を相当研究したのは言うまでもありません。

 

●奥付の自社名を間違える

ハマザキカクは基本的に組み版も装丁も私がやっているのですが、ビジュアル的に大変な本はデザイン会社にお願いしています。『即席麺サイクロペディア1』もその中の一冊なのですが、製本後に奥付の社名が「株式会社評論社」になっているのに気が付きました。正しくは「株式会社社会評論社」です。一見、似ているのでリエゾンしてしまうのも仕方がありません。結局、訂正シールを貼りました。

 

●カバーで著者名を間違える

『ファーストフードマニア』という本のカバーで黒川真吾さんのお名前を誤って「慎吾」にしてしまいました。著者名は絶対に間違えてはいけないので、私は全てATOKに登録しています。しかしこの本は自宅でカバーを制作していたので、登録されていない変換で入力したまま入稿してしまいました。取次から電話がかかってきて初めて気が付きました。結局、カバーを全て刷り直さざるを得ませんでした。

 

●『超高層ビビル3』解像度をweb用で印刷してしまう

従来のサイズから二回り大きいB5判オールカラーの『超高層ビビル ドバイ編』ですが、実は二度印刷しています。なぜかAcrobatの設定で単ページで出力すると印刷用の解像度の四分の一のweb用の72dpiになるようになってしまっていました。実は『超高層ビビル2』でも、インクのレイヤーがずれる、「判ズレ」を起こしていて、刷り直していたので二冊連続で刷り直しです。

 

●最終稿ではないものを入稿

私自身の失敗ではなく、他社で発生した本郷界隈で度々話題に上る信じられないミスです。いよいよ本が完成して著者の元に届けられたところ、どうも校正で直したはずの誤植が直っていないのが大量に残っている事が発覚しました。著者の方で検証作業を進めると、どうやら最終校正ではなく、その一段階前のゲラが印刷所に入稿されていたみたいなのです。「あれも直っていない、これも直っていない……。ひょっとして……」と想像するだけで、恐ろしいですね。

 

●目次でページ数を入れないまま印刷

これも私自身のミスではなく近くの出版社で起きた実話です。単行本の目次のページは微妙にずれ込んだりして、最後の最後まで変動が多く、最終段階で確定する事が多いです。従って目次のページ数は入稿の直前まで入力しない事が多いみたいですが、なんとその出版社、最後にページ数を入力するのを忘れ、そのまんま印刷してしまったみたいです。つまり目次にページ数が一切記載されていない本が出来上がってしまったのです。

 

●グラデーションの境目がくっきり浮かび上がってしまう

『アルバニアインターナショナル』という本のカバーでラッパーの足の方が、アルバニアの国旗の黒とピッタシ溶け込む様にグラデーションに設定したのですが、同一のCMYK(インクの指定)になる場所が若干ずれてしまい、境界線がぼんやり浮かび上がってしまっています。実際、かなり気合い入れて作った、自信作のカバーの一つなので、これは結構マヌケです。

 

●一本だけ選択しそびれ線のサイズが異なる

『エロ語呂世界史年号』という本は山川出版社の『世界史用語集』のパロディなのですが、横の模様の線で一本だけIllutsratorで選択しそびれ、他の線とサイズが異なる線が一本だけあり、遠くから見ても目立ち、見る度にかなり辛い思いをしています。

 

●RGBのデータを複製して本文中で使い回してしまった

Illustratorでアイコンや画像を作ったり、ネットの著作権フリーの無料パーツを用いる時、RGB(コンピューター用の色)だと気が付かないまま、本文に挿入してしまう事が多々あります。『大使館国際関係史』という本を作った時、素材の地図データが元々RGBだったのに気が付かず、入稿後、印刷所から指摘され、全てのデータをCMYK(紙の色)に置き換えなければいけなくなりました。やっと終わったと解放感に浸っていた直後に膨大な修正をしなければいけなくなったので、大変疲れました。

 

●右開きのカバーを左開きに制作してしまう

『敗戦処理首脳列伝』という本は縦書きなので右開きです。横書きだったという事を忘れ、判型とページ数が同じ『アルバニアインターナショナル』のカバーデータを流用して、作成していました。そして入稿直後に、自慢げに机に飾っていたカバーを社長が「向きが反対なのではないか?」と気が付き、急遽左右を入れ替えて訂正。慌てて直したせいか、下地の画像が表紙の裏で足りなくなっています。

 

●刷の数字を入れそびれる

単純な失敗ですが『ニセドイツ1』の奥付は「2009年11月9日初版第刷発行」となってしまっています。「1」を入れそびれています。幸い重版したので2刷では入れました。校正作業をしていると、どうしても本文の誤植などを探すのに精一杯で、間違えていると思うわけがない自明なところでミスを犯しがちです。

 

●同じテーマの本が大手から出版されてしまう

これはミスでも過失でもありませんが、とある企画を立案し、著者と会い、さてこれから始めるぞと思った矢先に、全く同じテーマの本が大手出版社から刊行されてしまいました。しかもその内容は明らかに私がお願いしていた著者のホームページを元にして作られていました。部数も価格も大手には敵わないので途中で中止に追い込まれました。しかしこの苦い経験のお陰で同一テーマの本を事前に把握する為に、出版刊行物全てを把握する習慣ができて、逆に良かったかもしれません。

 

●有名人に執筆依頼

失敗というよりは未経験故の至らなさですが、入社当初、誰に本を書いて貰ったらいいのか分からず、今思うと全く的外れな執筆依頼を送りまくっていたと思います。既に本を沢山出されている有名な著者や教授には、なかなかこちらの意見も言えないし、他の大手出版社と比較されるし、既に他にも何冊も依頼が来ていて、原稿が出揃うのかアテにならず、名を成し遂げているので、お互いの達成感を共有できる事も少なく、こちらにとって良い事はあまりありません。

 

●「失敗リスト」を紛失

失敗を記録する事によって、次に活かそうという「失敗学」というジャンルの学問があるのですが、それを真似して今回記している様な、私自身の失敗を全部、Excelに入力していました。このUSBメモリーがある日、壊れてしまい、「失敗リスト」自体が開けなくなってしまいました。皮肉なオチなのですが、重大な記録を無くしてしまったと意気消沈して、自力で記憶を辿ると、あっという間にほとんど全ての失敗の記憶が蘇ってきました。成功より失敗から学んだ事の方が大きいという事でしょう。

 

●『出版失敗談』出版予定してますのでご連絡下さい

さてここまで読まれた編集者、出版関係の皆さん、この様な出版失敗談を集めて、『出版失敗談』という本にしてまとめてみてはどうかと思いました。一人が経験できる失敗には限界があります。しかし多くの人の失敗を集積する事によって、その経験を共有し、出版編集者の共通の財産として後生に残していけるかもしれません。

 

冒頭にも述べましたが編集や出版に関する本、無機質な学術参考書の様な面白みに欠けるテキスト、自画自賛の成功体験、もしくは引退した老出版人の回顧録ばかりです。その中で生身の編集者の失敗談ほど参考になるものはないかもしれません。つきましてはご興味がある方はTwitterかFacebook、メール等でご連絡下さい。逆に私から聞いていくかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。

 

●おまけ:『ワーストセラー』

今回の「出版失敗談」の主旨からは外れるのですが、もう一つ出版企画の提案です。出版の本というとどれだけ売れたかと言った、ベストセラーや売れ筋、成功作の話が多いです。この真逆、つまりこれだけの部数を刷ったのに、実売はこれしかなかったとか、返品が90%に至った、重版したら重版+初版分まで返ってきた、断裁した、ゾッキ本に回したといった類の、要するにいかに売れなかったかを集めた『ワーストセラー』という本を出したいです。ご協力頂ける出版界隈の方はご連絡下さい。

 

●参考文献

最近、久田将義『トラブルなう』ミリオン出版と堀田貢得・ 大亀哲郎『編集者の危機管理術』青弓社という編集者のトラブル体験記が出ています。

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