おすすめ本レビュー

391の本音とタテマエ『商業・まちづくり口辞苑』

山本 尚毅2012年5月14日
商業・まちづくり口辞苑 (碩学舎ビジネス双書)

作者:石原 武政
出版社:碩学舎
発売日:2012-04
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自衛隊カレー、子ども歌舞伎、裏千家茶道発祥の地、うどん、町家。地元でも知らなかった名産・伝統・歴史、知らぬ間に出来上がっていたブランド。この週末に地元に帰郷してみると驚くべき変化が見つかった。「まちづくり」というのは他人様の街のことだと思っていたが、とうとう自分のふるさとにもやってきたのかと、居たたまれない気持ちになった。しかし、商店街は閑散としている。お祭りの時期だったので賑わいはあったけれど、人混みよりも木枯らしが似合うと揶揄しても、大げさじゃない。

商店街といえば、どこのエリアでもまず第一に「シャッター街」と呼称されるようになった空き店舗の問題が浮かび上がってくる。もちろん、その光景は目に焼きつきつつも、すでにシャッターすら珍しく、商売を諦めた店舗が多く、玄関や車庫に様変わりしていた。

理解不能な現象が起こっていたので、早速、本書「口辞苑」を引いてみると…「しもうた屋」というキーワードが見つかった。「しもうた屋」とは「商店街の中にある非営業建物。つまり商店街の中における民家一般をさす」そうだ。おもしろいことに、商工会議所などの空き店舗対策事業にはしもうた屋は含まれないようだ、商店街の連担性を阻害し、景観と活気を損なわせている主な原因であるにもかかわらず。商店街から通勤する人ももう珍しくない、駅前の一等地に自宅を構えて通勤できるなんてそれはそれで商店を営業しなくても、十分にメリットはある。まちづくりは表面をなぞっただけではわからない、注視してふかーく、本音と建前を見分けていく見方が必要だ。

空き店舗が発生した原因として槍玉に挙げられるのが、郊外型ショッピングセンターとチェーン店だ。1990年代に本格化した進出は当初は「高速道路と駐車場に囲まれた独立王国」と馬鹿にされるほど孤立した立地だった。地方出身の人ならばすぐに思い浮かぶだろうが、そのショッピングセンターの周辺には大型の家具店、電器屋や書店などが数点散在する程度で、後は田畑や里山に囲まれている。これが中心商店街からお客を奪ったといつまでも言われ続けている。そして国道沿いにできるのは、地方に都会の文化ときらびやかさを持ち込むチェーン店だ。子どもや若者は東京の文化にたいてい憧れているので喜ぶのだが、その舞台裏でチェーン店は地域で稼いだ金を都会に持ち帰る。出店候補地は無限にあり、収益機会を見いだして進出し、収益が生み出せなくなれば当然のごとく退出する。地元や商店街への貢献がしにくくなるように、店長を数年で移動させるようにも仕組み化されている。売上を最大化・最適化するために生み出された仕組みは地域経済を骨抜きにしていく。

商店街に戻ろう。そもそも空き店舗が発生するとどうなるのだろうか、そしてその空き店舗対策はうまくいっているのであろうか。商店街において、空き店舗が発生すると十分な品揃えができなくなる、デパートや郊外型ショッピングセンターと違って、歯抜けのない商店街で百貨店の機能を果たしていたのだから当然ではある。しかし、空き店舗を問題視すると、2つのどうしようもない誤りを犯す可能性がある。1つは空き店舗をすべて埋めなければいけないという強迫観念を持つこと、今更すべての店舗が埋めることは非現実的だ。もう1つは空き店舗にならなければ問題ないという考え方になること、そう陥ることで風俗営業店が進出し雰囲気を損なってしまう。一方で対策としては家賃補助や若者にスペースを貸すチャレンジショップがあるが、空き店舗に不老長寿の薬はない。出店者が魅力的と感じる街を創っていくしかない。

魅力的な街を創るために地域ブランドを!となるのは自然の流れなんだろうか、秋葉原に出店しているゴーゴーカレーに代表される金沢カレーは巷では有名になってきているが、果たして「小松うどん」はどこまで知られているだろうか?2006年に商標法が改正され、地域名を商標化することが容易になったことによりブランド開発に弾みがついた。地元のうどんもその潮流に乗った。しかしうがった目で見れば、地域ブランドを創ったからといって、その地域に根付いていた食の消費量そのものが増えるのだろうか?日本中あちこちの地域の味を楽しみたい人がやってきては消費する姿は思い浮かぶが、うどんを食べる量がそれほど増えるわけではない。ましてやうどん県をライバルに回したら厄介だ。

うどん県と言えば…、と書き続けたくはなるが、きりがないのでここまでにしよう。本書にはまちづくりに関する391個のキーワードの本音と建前の辞典だ。まちづくりに取り組む人も、まちづくりのニュースで疑問に思ったけど確かめられていない人も、ふるさと納税に興味がある田舎に懐郷の想いを持つ人にもおすすめだ。「なるほど!」「すっきり!」「やっぱり。」と膝を打つことばかり。著者は地域商業を30年以上研究する大学教授。391個のキーワードに「大学」や「教授会」など、地域に関係のないキーワードも登場するが、そこに秘められた著者の皮肉は本書の一番の読みどころかもしれない。

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コミュニティデザイン―人がつながるしくみをつくる

作者:山崎 亮
出版社:学芸出版社
発売日:2011-04-22
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全国を講演し歩いている著者。全般的に辛口な口辞苑でも、ソフト優先のハードづくりを目指すコミュニティデザインの評価は高め。

グローバル化の終わり、ローカルからのはじまり

作者:吉澤保幸
出版社:経済界
発売日:2012-03-24
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日銀に20年勤め、現在は地域の仕掛人である著者。タイトルからは内容が想像しづらいが、地域に資金が流れ循環する仕組みを数多く掲載されている。

仏御前への旅―小松の子供歌舞伎「銘刀石切仏御前」 (時鐘舎新書)

作者:石田 寛人
出版社:北國新聞社出版局
発売日:2009-05-01
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いつの間にか「歌舞伎のまち」と名乗るようになった小松市。その所以である子供歌舞伎はどれだけひとびとの興味をひくのだろうか。