おすすめ本レビュー

『銀座の達人たち』

成毛 眞2008年11月7日
銀座の達人たち

作者:早瀬 圭一
出版社:新潮社
発売日:2006-12
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最近、表参道から足が遠のいた。表参道ヒルズができたからである。内部のデザインは面白いのかもしれないが、通りに面したファサードがいただけない。完成後も仮店舗のままかと思ったほどである。のっぺりとした画一的な間口はまさに街の面汚しである。

表参道に行く理由の一つは髪をカットするためだった。最近、そのヘアーサロンが銀座に店を出した。表参道で複数の店を展開している有名店なのだが、銀座に目をつけたのだという。表参道から逃げ出したということではないらしいが、人の流れを見ての判断らしい。

その銀座でも一時は190メートルを超える高層商業ビル建設の計画があったらしい。幸いにして銀座通連合会の必死の努力で回避されたという。ありがたいことである。銀座は昼だけの街ではない。突如出現した高層ビルに見下ろされながら、なじみの酒場に入るなど想像するだけで萎えてくる。

『銀座の達人たち』は銀座文化を守りつづける老舗経営者や職人たちの物語である。「サエグサ」、「天賞堂」、「サンモトヤマ」、「はげ天」など、23の有名店を取り上げ、それぞれの店の創業時代からのエピソードや職人の修行時代などを語る仕立てになっている。

月刊誌の連載をまとめたものなのだが、一冊の長編として読み終えた。年季の入った銀座ファンによる街の心象風景だ。邪道かもしれないが、単行本化するにあたっては写真を使ってもよかったと思う。「菊水」のバロン内藤さんのバロンたる所以の姿を見たい。「有賀写真館」の作品も「ペリニィヨン」の料理も見てみたい。

と、ここまで書いて気がついた、今すぐにでもタクシーを拾って銀座に行けばよいのだ。そして、それぞれの店を訪ねればよいのだ。本書は過去を振り返るだけではない、いま生きている銀座の案内書でもある。巻末に地図が付いていることはいうまでもない。