著者インタビュー

著者インタビュー『第三次産業革命』ジェレミー・リフキン氏

山本 尚毅2012年10月24日

世界を前に前に推し進めようと理想を掲げ、社会を煽動し、時代を先導しようと自ら行動する活動家、そんな印象をジェレミー・リフキン氏のこれまでの著作を眺めていると感じる。そして、今回はその集大成とも言えそうな『第三次産業革命』と銘打った書籍を出版、日本でもつい3ヶ月前に出版されました。書評はこちらから

第三次産業革命は世界中に散在する課題を解決するために、経済・社会など従来のパラダイムを大きく変えることを標榜しています。リフキン氏は、第三次産業革命によって予測できる未来を語るだけでなく、自らの仲間とともに世界を巻き込み、手足を動かし、構想を現実化しようとアクションしています。

第三次産業革命:原発後の次代へ、経済・政治・教育をどう変えていくか

作者:ジェレミー・リフキン
出版社:インターシフト
発売日:2012-07-12
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂

そんな革命の最前線の話を聞くべく、Eメールを通じてインタビュー。今、世界が注目する話題、再生可能エネルギー、BoPビジネス、Makersブーム、この3つに関する問いを投げかけてみた。次なる産業革命(第四次!?)の可能性も、蛇足ながら聞いてみた。

——————–

山本:はじめに第三次産業革命のコンセプトが生まれた歴史的背景について教えてください。

リフキン

なぜ大きな経済の仕組みが変わっていくのか歴史を基に学ばなければならない。

大きな経済革命は、コミュニケーション技術と新しいエネルギーシステムが、終息に向かう時に発生した。新しいエネルギー革命はより広く結合された交易を可能にした。

19世紀には蒸気機関の印刷機と公立学校制度の始まりが活字印刷の役割の増大させ、いわゆる第一次産業革命といわれる石炭と蒸気機関のテクノロジーのながれを拡大することになった。

20世紀には電話やラジオ、テレビなどがコミュニケーションの主流となり、より複雑で分散されたマス・コミュニケーションや石油中心の文化が主流になっていった。これをいわゆる第二次産業革命という。

今日ではインターネット技術と再生可能エネルギーが第三次産業革命という21世紀の世界を変えるであろう新しい時代を作ろうとしている。その時代では何億人もの人が様々な場所でグリーンエネルギーを作り、私たちがオンラインで情報を交換するのと同様に各々の“エネルギー・インターネット”を使ってエネルギーを共有するだろう。

山本:次にリフキンさんのことについてお伺いしたいのですが、本書で幾度も紹介されているヨーロッパでの活躍について、その経緯を簡単に教えてください。

リフキン:私はこの10年間ヨーロッパの首脳たちと第三次産業革命と5つのインフラの柱を実現すべく、協働してきた。ポルトガルやイタリアの国のトップとも仕事をする機会を得ることができた。その中で、ドイツのメルケル氏が首相に就任したときに、彼女に招待され、数ヶ月間21世紀のドイツ経済の成長について議論した。その後も何度が首相と面会し、第三次産業革命のビジョンについて話し合っている。

山本:ドイツといえば、脱原発を宣言した一方で、一時は世界トップの生産量を誇ったQセルズなど、太陽光発電メーカーの倒産が相次いでいます。第三次産業革命の一つの核ともなる太陽光発電全体の先行きが気になりますが、リフキンさんのお考えをお聞かせください。

リフキン:太陽光発電の業界は現在、確かに業績が伸び悩んでいる。その一番の要因はコストの問題だ。これは太陽光発電に限った話ではなく、他の再生可能エネルギーも直面している課題だ。歴史を振り返ってみれば、デスクトップPCや携帯電話が直面したコストの問題と同じ構造をもっている。

山本:この先、どうなっていくのでしょうか?

リフキン:再生可能エネルギーの急速な技術の発展により、企業は絶え間なく新しい技術やプロダクトを市場に送り出すことを求められている。それを実現するためには、アップルやマイクロソフトなどのIT系会社に先頭に立ってもらう必要がある。現在の技術に固辞する企業は自分たちが競争というゲームの中で取り残されていることに気づくだろう。

山本:再生可能なエネルギーを活用した発電は発展途上国の電気が届かないエリアで役立っていますが、再生可能エネルギーのbopビジネスの可能性はありますか?

リフキン:第三次産業革命は先進国よりも特に新興国にとって意味のあるものになるだろう。途上国の40%もの人が一日を2$以下で暮らしており、そのほとんどの人が電気を利用できていない。電気が使えない彼らは文字通り“力がない”のである。

何億人もの人々が貧困から脱却するための最も重要な要素は、信頼性が高く、手頃な価格のグリーン電力を持つことだ。なぜなら、電気がなければどんな経済成長も成し得ない。だからこそ、万民が電気へアクセスできることは世界の最も貧しい人々の生活を改善するには必要不可欠である。

山本:そのためのインフラを整備すべきということでしょうか?

リフキン:そう、インフラの整備が経済の発展には不可欠であるにも関わらず、多くの発展途上国はその整備が不十分であり、インフラ整備が第三次産業革命を成し得るには避けては通れない道である。

その中で、私たちが発見したことは、多くの発展途上国は昔ながらの送電網を抱えていない、その事実が、潜在的に第三次産業革命に “リープ・フロッグ“できるということ。言い換えれば、発展途上国は最初から新しい、分散電力システムを構築することにより、むしろ古くて廃れたグリッドを修理して利用し続けるよりも、大幅に新エネルギー時代への移行にかかる時間と費用を削減することができる。

加えて、第三次産業革命のインフラは分散型の性質を持ち、ローカルで電力ネットワークを確立した後に、他の地域と接続するため、リスクを分散できる。これが横の力の強みなのだ。

山本:横の力の強みですか…

リフキン:第三次産業革命によって社会の力関係が確実に変わろうとしている。昔の社会関係の中心にあったトップダウン型のシステムは横の関係を重視するシステムへとなり替わり、様々な場面で応用されるようになっている。このシステムのシフトは全ての経済セクターに大きな影響を及ぼしている。

山本:そのなかの一つが製造業でしょうか。

リフキン:高度に資本化され、ラインが整備された中央集権型の大きな工場で工場労働者が列になって勢いよく大量生産品を作っていることほど産業生活的なものを示唆しているものはない。

だがもし何百人もの人々が最も発達した技術と同様の質の商品をより安く、早くつくることができたらどうなるだろう?第三次産業革命の経済は何百万人もの人々にバーチャルな情報とエネルギーを生産するチャンスを提供することができるが、新しいデジタル·マニュファクチャリングの革命は今、耐久消費財の生産に、第三次産業革命と同様の可能性を開くだろう。

その新しい時代では、すべての人がメーカーになれる。

空想科学小説みたいだが、3Dプリンティングはオンラインでの使用がすでに可能となっており、産業生産の仕組み全てを変えてしまうことになるだろう。コンピュータのボタンを押してインクジェットプリンターにデジタルファイルを送ることを考えてみてほしい。

山本:ものづくりの民主化でしょうか、MAKERSのコンセプトとも近いように感じます。今の段階ではどのような製品が3Dプリンターで製造可能ですか?

リフキン:宝石、携帯、医薬品、航空機用部品、やバッテリーなどすべてのタイプの製品が“印刷可能”である。

山本:3Dプリンターの普及はエネルギーにどのような文明にどのような影響をもたらしますか?

リフキン:これまでの生産方式と比較すると、製造コストが以前とくらべ大幅にカット(わずか10%で)できると、3D関連の起業家たちから強気な発言を聞いている。これらがグローバル経済全体に適用されたときは、製造プロセスでの省エネ、材料の削減など、想像を超えるレベルでのエネルギー効率の質的な増加が起こるだろう。多数のベンチャー企業が市場に参入して生きている。これらの企業は製造業の在り方を変革しようと突き進んでいる。

山本:最後に時期尚早な質問をさせてください。第三次産業革命を最後の重大な革命とおっしゃっていますか、第四次産業革命はありえますか?

リフキン:第三次産業革命はこれから現れる協働時代の基礎となる最後の大きな産業革命となるだろう。この先半世紀の間に第一次、第二次産業革命で確立した巨大企業への中央集権的ビジネスは第三次産業革命で生まれる分散型ビジネスに包含され、伝統的な階級的な経済、政治システムは横のつながりを意識した新しい社会システムによってなり替わっていく。

この革命が終了したときに、200年続いた商業の冒険物語が終わりをつげ、起業家中心の巨大な工場労働者と共同作用、ソーシャルネットワークと専門的、技術的労働力を重視した市場が生まれるだろう。

——(終)—-

つい先日、インド・ムンバイから車で6時間弱、実験的に3Dプリンターが設置されている農村へ足を運びました、そこでも農民のための画期的な製品プロトタイプが開発されていて、新しい時代のはじまりを目撃して参りました。

本インタビューは熱意溢れる長文のメールから、一部を抜粋して紹介しました。メール全文は当然のことながら、本の中にはもっともっと詳しい内容が書かれているので、ぜひご一読ください。