おすすめ本レビュー

『永遠の都ローマ物語―地図を旅する』

成毛 眞2009年7月6日
永遠の都ローマ物語―地図を旅する

作者:ジル シャイエ
出版社:西村書店
発売日:2009-03
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂

とんでもなくお買い損の本を紹介したので、つぎはとんでもなくお買い得の本を紹介しよう。本書はこれまでで買ったどの本よりもお買い得感がある本だ。大判で本文は209ページ、フルカラーである。古代ローマ遺跡のガイドブックに掲載されているであろうほとんど全ての遺跡が写真と文で紹介されている。しかし、本書の目玉はもちろん観光ガイドではない。8000時間をかけて502mmX744mmの画面に描かれた古代ローマの地図なのだ。

描いたのはフランス人のイラストレーターであるジル・シャイエだ。9歳のときにローマを再現しようと決心したという。本書の地図は5000時間をかけて線画を描き、彩色には3000時間要したという。本書を奇跡的ではあるが単なるイラスト書で終わらせないために、当時のローマ属州の若者が皇帝の謁見を賜るまでの道中記という仕立てになっている。

1週間ほどの余裕をもって、古代ローマ遺跡巡りをする計画があるならば、本書を先に買って読んでおくことをお勧めする。間違いなく楽しみは倍加するであろう。

ローマ旅行の計画がない人は103ページから106ページまでの両見開き(4ページ)の地図を開いてみよう。左端にはトラステヴェレというローマ郊外だ。このあたりのどれかの家を自分の家だと想定してみる。そして、家から右端のキルクス・マクシムス(大競技場)に行くまでを想像してみるのだ。途中には大歓声が聞こえるアウグストゥスの模擬海戦場の大きな建物が見える。そこをすぎると匂いのきついなめし革工場だ。テヴェレ川をプロブス橋で超えると塩倉庫群がある。月の女神の神殿を通り過ぎると、25万人を収容する長さ640メートルの巨大競技場に到着だ。壮大すぎてクラクラしてくる。

本書は絵地図を7枚の両見開きページと7枚の見開きページに分割しているのだが、巻末にはその全体図も丁寧に折り込んであり、ポスターとしても使えるようにしてある。なんと、これで本体2800円なのだ。出版社の鏡である。感激したので、他の書籍も買って少しでも応援しようと思ったのだが、見つけた最新刊は『カラー版 糖尿病学 -基礎と臨床-』だった。医学書がメインの版元だった。 かろうじて本年2月刊の非医学書を見つけた。『作家の家 創作の現場を訪ねて』なのだが、『馬車が買いたい!』の鹿島茂の監訳だから期待できるかもしれない。