おすすめ本レビュー

『ALMA電波望遠鏡』

成毛 眞2009年7月27日
ALMA電波望遠鏡 (ちくまプリマー新書)

作者:石黒 正人
出版社:筑摩書房
発売日:2009-07
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ALMAとは「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計」の略である。英語ではAtacama Large Milillimeter/submillimeter Arrayだから、干渉計とはArray(配列)の略ということになるのだが、ひとことでいうと電波望遠鏡のことだ。

ALMAはチリ北部にある標高5000メートルのアタカマ高地に建設されつつある。直径18キロメートルのエリアに口径12メートルと7メートルのパラボラアンテナを80台配列する。この各アンテナからのデータをコンピュータで解析し、1つの望遠鏡を覗いたように合成するのだ。

この施設の本格運用は2012年からだが、著者がイニシアティブをとった1992年の箱根シンポジウムが計画の発端となったらしい。ともかく壮大だ。ビジュアル的に例をあげると、本書に12メートルパラボナアンテナの輸送風景写真がのっているのだが、運搬専用車には28本ものタイヤが付いていたりする。

この望遠鏡で見えるものは「銀河の誕生」「第2の太陽系」「生命の起源」などだ。「銀河の誕生」とは、光学望遠鏡では見ることができない宇宙の最果てを観測することで、原始の銀河を検出する可能性が期待されているのだ。

意外なものを見ることも期待されている。アミノ酸だ。アセトアルデヒドや酢酸などはすでにこれまでの天体観測で発見されているのだが、グリシンなどのアミノ酸の発見も予測されている。これによって「生命の起源」や地球外生命体の存在の推定などが可能になると考えられている。

ALMAの総経費は1200億円程度で日米欧が1/3づつ負担することになっている。このプロジェクトでは日本は単なる経費負担者ではなく、著者を中心とした研究者と協力企業のこれまでの研究成果や経験が非常に高く評価されているのだ。

同様の物理学・天文学の国際プロジェクトとしてリニアコラーダーがある。これは直線粒子加速器のことで、地下に長さ40キロメートルの空洞に超精密機器を無数に配置するものだ。日本も立地に立候補している。スーパーカミオカンデがあるのだから期待したい。経済効果を狙って投資するのであれば、国立マンガ喫茶よりはこのような本物の科学技術を優先させるべきだと思う。

ちなみ国立天文台のALMAプロジェクト・ホームページにバーチャルツアーというのがある。2006年に作られたものだが結構面白い。他にもCGや動画が多数あるので目の前の仕事や勉強に疲れたら、見てみると良いかもしれない。