おすすめ本レビュー

『日本の珍地名』

成毛 眞2009年9月8日
日本の珍地名 (文春新書)

作者:竹内 正浩
出版社:文藝春秋
発売日:2009-08
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帯が本書のすべてをあらわしている。「平成の大合併で誕生した全国津々浦々の〈トンデモ地名〉を番付形式で一挙紹介」している。

2001年に「さいたま市」が誕生したときには笑ってしまった。「埼玉県」の中でも「さいたま市」の人たちはよほど漢字に不自由なのだろうと日本中で揶揄されたはずだ。なにしろ埼玉県さいたま市なのだ。わざわざ県庁所在地をひらがなにする理由がまったくわからない。他の県は青森県あおもり市とか、くまもと県熊本市とか、やまぐち県やまぐち市やまぐち君とかにはしない。歌は「山口さんちのツトム君」なのだ。しかし、本書によれば平成大合併ではもっとすごい地名が作り出せれていたのだ。

なんと栃木県には「さくら市」が群馬県には「みどり市」が作られたのだという。マーケティングでは「さくら」や「みどり」はプロダクト・ディスクリプタである。つまり商品を説明する形容句の一部である。「みどりの街、○○市」とか「さくらの里、××市」ということだ。「なかよし市」とか「しあわせ市」とか「みんなの市」とか、がないのが不思議なくらいだ。

山梨県には「中央市」がある。位置的に山梨の中央にあるからの命名だというのだ。四国には「四国中央市」がある。エライ自治体のおじさんたちが地図とにらめっこしていてひらめいたのであろう。ポンと膝叩いて「これだ!真ん中だ!チューオーだ!」

伊豆半島はいわば観光半島である。温泉地の名前こそがブランドであるはずだ。そのなかで修善寺、土肥、湯ヶ島などの有名どころが合併して「伊豆市」になった。つぎに隣のこれまた有名な韮山、大仁、伊豆長岡は対抗しようと合併して「伊豆の国市」になってしまった。せっかくだから、ほかの温泉地もブランドを捨てて「伊豆中央市」を作ってほしい。主要産業のブランドも歴史もすべて捨てるにはかなりの度胸がいるのではないかと思うのだが、自治体のエライおじさんたちはじつに簡単に捨ててしまうようだ。

これ以上紹介すると本書の営業妨害であろう。その地名に住んでいる人には申し訳ないが、けっしてバカにしているわけではない、呆れているだけだ。このありさまで本当に地方自治など可能なのだろうか。

本書にはないが、東京にも木挽町や霞町など優雅な地名があった。それぞれ銀座東1丁目、西麻布になってしまった。いっぽうで小京都の金沢市は主計町、飛梅町、下石引町などを復活させた。どちらの都市の文化度が高いかはひとめでわかる。東京都はオリンピックよりも先にやることがあるような気がする。

ちなみに中部国際空港のニックネームを拝借した「南セントレア市」は住民投票で合併そのものが否決されている。全国的におバカじゃないのと批判されたため「遷都麗空市」という漢字表記も用意してあったという。住民はまともなんだけど、選んだ人が「ちょっとね」だったのだ。