仲野徹による岡田斗司夫氏へのインタビューの後編です(前編はこちら)。まず、『オタクの息子に悩んでます』を読み、また仲野徹によるこのレビューに目を通してからこのインタビューを読むと、何倍も楽しめますよ。
今回の後編では、徐々に本の内容を離れて、雑談の様相に。そんな雑談を掲載できてしまうのもウェブのいいところ、雑談のなかに面白い言葉が散りばめられています。大学不要論に内田樹、塀の中のあの人のことまで、ディープなところにまで話は進む、ちょっと危ないインタビューです。
*ここで話題になっている「ツール」は『オタクの息子に悩んでます』で詳しく解説されている、悩みに回答する際に使える岡田氏オリジナルの11の思考ツールのこと。仲野徹も絶賛のこれらのツール、ぜひ本を読み、その使用法を学んでください。
仲野:本に書いてある「ツール」がすごくわかりやすくて。
岡田:ありがとうございます。でも、新しい悩みが編集部から届いたとき、まずどのツールを使うかを考えるわけではないんですよ。
仲野:マニュアル化してやっているわけではないんですか?
岡田:はい。回答が来るたびに、まず普通はどう答えるのかを考えて、それをしないようにする。やっちゃいけないことをリストアップして、退路を塞いでく感じです。それから私の主催しているSNS・クラウドシティにその悩みを上げて、いろいろな人に答えてもらいます。そうすると「これをやっちゃいけないよ」とか、「ここで満足しちゃいけないよ」とかっていうレベルが見えてくるんです。申し訳ないんですけど、みんなが答えるようなことを答えていては商売にならないから、そのレベルの斜め上の回答を出すっていう感じです。
仲野:このツールを使って考えられるわけではないんですね。
岡田:ツールはゴールが見えたら使い出すんです。今回の16歳の女の子の悩みだったら、「この子、相談する友達がいないのが問題なんだ」というのが見えてきたら、それを回答に持ってくためにツールを使うんです。論理はゴールが見えたらそこに向かって組み立てるものであって、決して論理を組み立ててゴールを作るのではないのです。
仲野:なるほどね。達人ですね〜。このツールを知ってたら、自分で悩んだときになんとかなるな、という気がものすごくしたんです。
岡田:でも悩んだときも、やっぱりゴールは自分でインスピレーションで見つけて、それに対して自分を納得させるために、このツールを使えばいいんです。
仲野:ただ、大学で研究を教えている経験から、ツールのいくつかは意外と難しいんじゃないなかなという気もしたんです。「思考ツール」の2番めの、悩みを解決できるものと解決できないものに分けてゆく「仕分け」みたいなことを意外とみんなできないんですよ。いくつものデータを同時に解釈しようとしてわけわかんなくなる(笑)。
岡田:ジャグリング状態ですね。あれみんなが頭いいからですよ。
仲野:そうなんですかねえ。
岡田:メモしない人って多いじゃないですか。中途半端に頭がいいから、メモしないんでしょ。その癖がついちゃってるんですよ。
仲野:あと「アナロジー」(思考ツール4)がなかなかできないんですよ。こっちが「前にも言うたやろ」って言うたら、「聞いてません!」って言うんですよ。で、「これこれこうこう言うたやろ」って話すと、「それは違うテーマでした」って。言うてることは一緒やろって思うんですけど、そのアナロジー化がなかなかねえ……。
岡田:研究者って、わからない人におもしろく話す訓練あまりしてないから……。
仲野:それ以前に自分がわかってない人が多いですから。
岡田:自分がわかってるとアナロジーできますよね。だから、同じ研究している人とか、同じ研究機関の人とか、わかっていそうな相手に説明するんじゃなくて、普通の人や子どもに説明すると、アナロジーってどんどん上手くなるんですよ。
仲野:そうなんですよ。生物学で使われる論理っていうのは、実は気のきいた小学校四年生ぐらいの子がわかる程度のものなんですね。専門的なことを抜きにしたら、それぐらいの年の子に説明できないとダメなんですよね。
岡田:小中学生相手の講演とかしていると上手くなりますね。
仲野:そうでしょうね、「悩みのるつぼ」には、さすがに小学生からの相談は来ないですか?
岡田:来ないですね。うーんなんでだろう。編集部の段階で切っちゃってるのか……小学生が新聞読まないっていうのもあると思う。最低でも中学生ぐらいからですね。
仲野:朝日小学生新聞かなんかでやられたらいいんじゃないですか、子ども向けの悩み相談。
岡田:子ども向けはもっと難しくなります。大人向けに僕が使ってるレトリックが全部使えなくなるんです。あと、この人は本当に私の世代の問題をわかっているのか、という「仲間の位置」を問われる。「仲間の位置に立つ」っていう設定がめっちゃ難しいです。だから難易度上がる。難易度上がるのに媒体がマイナーですよね(笑)。
仲野:(爆笑)そんな一生懸命やってられないという。
岡田:そうそう(笑)。
仲野:なるほどね。中学生ぐらいやったらだいぶわかりますか?
岡田:中学生だったらだいぶわかるんですけど、中学生も仲間意識のほうがが強いですし。あと言われたことを友達に話して通じるかどうかを、彼らは気にするんですよね、その「部族」ごとの言語というものがあるので、やっぱりそれも答えにくいことになる。だから大人向けというのは、楽は楽なんですよ。楽で、そのうえ、割と高級なこと言ってると思ってもらえる。ビートたけしがちょっとかしこいこと言ったら「おーっ!」って感心するような、そういうポジションをやはり逃しては不利なので……。あっ!いっかんいっかん(笑)。
岡田:でもぼくは、いろいろデカいこと言いすぎていてねえ。やばいなあとも思うんですけれども。書いてるのってだいたい夜中じゃないですか。テンション上がって書いてるから(笑)。
書くのも話すのも、何を言っているのかという「内容」のテキスト的な意味がありますよね。それに加えて「熱量」みたいなものがあるんですよ。この熱量がやっぱり大事だと思うんで、テンションが上がって恥ずかしいことを書いても、切らないようにしてるんですよ。「あとから切ってはいけない!」と(笑)
仲野:見直したときも?
岡田:はい。これは言いすぎだなって思っても。テンションの高さや熱さで人の心が動くことがあるから、ここは恥ずかしくても切っちゃいかんと。
仲野:それはやっぱり、午前4時ぐらいに書いたやつにすごいのが多いんですか?
岡田:そうですね。やっぱり絶対深夜ですね。あと入稿ぎりぎり。編集者が「もういっぱいいっぱいです」って言ったときの、最後の30分ぐらいで入る原稿って、やっぱり熱量が高いんですよ。今ここで言わなきゃダメだ! という感じ。で、はい、書いて終わり。「もう俺この問題一生考えないし、この本は出ても読み返さない」と思って閉店、ガラガラガラ〜(注:シャッターを閉じる音です)
仲野:ある意味、もう自分のものじゃなくなるわけですね。
岡田:そうですね。だから僕、自分が書いた本って、だいたい何を書いたかよく覚えてないですね。それぐらい最後の最後に熱量を引き絞ってダーッと書いて、あとは恥ずかしくて読まない。
仲野:私も1冊本を書いたんですけれど、連載で足かけ4年ぐらい書いてたら、初めのほうのを読んだら全然覚えてなくてですね、ええこと書いてんなー!って(笑)
岡田:わかる、わかる。
仲野:すっごいね気が合うんですよ、当たり前なんですが(笑)
岡田:わかります。あれどっちかですよね。もう全部書き直したくなるか、こんなすごいものは二度と書けないから、もう二作目書くのはやめとこうと思うか、どっちかです。
仲野:私、内田樹先生と親しくさせていただいているんですが、内田先生もたいがい書き飛ばしておられますから、そうらしいですね。「すっごく気の合うやつがいる」という……。
岡田:ひどい(笑)
仲野:岡田さんのお話を聞いていて思ったんですが、内田樹先生と考え方が似てますよね。
岡田:そうですね。
仲野:どっちも愛情に溢れてます。溢れてなさそうやけど溢れてるところとか。 岡田:でも内田先生みたいな論理性、僕にはないんですよ。
仲野:いや、あるでしょう。
岡田:いや僕にあるのは理屈であって論理じゃないんです。
仲野:理屈と論理って違うんですか。
岡田:違いますね、理屈ってのは所詮言葉なんですよ。屁理屈というだけであって人間の心が動くのが理屈で、「物事がそのように正確に作動する」のが論理です。で、僕は論理的ではないんです、理屈っぽいだけなんです。ただ高度に発達した理屈は、論理と見分けがつかないんですよ、素人目には。
仲野:全然見分けがつきませんね、それもう岡田さんにしかわかんないじゃないですか(笑)
岡田:そんなことないです。論理的な人間が見たら絶対に僕の理屈が穴だらけなのはわかります。ですが、論理で組んでいくと正しい回答は出るんですけど、相談者はそんなところまで行けないんですよ。論理的な人が必ず幸せな人生送ってるわけじゃないですから。
仲野:理屈っぽいのも幸せになれるかどうか。どうですか?
岡田:そうですね。中途半端な理屈っぽさはダメなんですけども、自分の失敗を回避して幸せになるのはちょっとした理屈ですね。負け惜しみの屁理屈みたいな。「俺の人生はこれでいいんだよ」っていうのは理屈です。
仲野:ああ、それは自分に対する理屈ですか。
岡田:はい、そうです。あとは「こんなことやったらダメだからこうやらないと」というような、「失敗を回避する」ことにしか論理は使えないんです。
仲野:あと内田先生に似てるな、と思った点は、内田先生も大ブレイクされる前に「自分の文章はタダでも読んでほしい」ってすごくおっしゃってて、今でもそうですよね。基本的にブログなどに書いているものを本にまとめておられますから。岡田さんもスケジュールさえ合えば、どこへでも無料で……。
岡田:そうです。多分内田先生も同じなんだと思うんですけど、よっぽど自分が偉いと思ってないとできないですよ。
仲野:(爆笑)そういうことなんですか、あれは。
岡田:私の言葉は人類の財産ですから、値段なんてプライスレスですよっていうような、とんでもない考え。
仲野:そんなタカビーなんですか! 極めて謙虚な姿勢でやっておられるんかと。
岡田:いえ、僕の基本的な姿勢は「正しい上から目線」ですから。中途半端な上から目線ではなくて、正しい上から目線です。
仲野:まったく逆に思ってました。いや、多くの人がそう思ってるんじゃないですかね。タダで来てくれるとか言うたら腰の低い、いい人やなあとか。
岡田:いえいえ。俺の時間に値段なんて付けられるはずないだろ、だからタダでいいよって。
仲野:そうでしたか。そこにも勝手に愛を感じてたんですけど、違うわけですね。
岡田:いえいえ、僕は自分のブログに「俺は2000なんです」って書いたことがあって。いまだに人から笑われるんですけども、「俺ってたぶん自分の賢さとか、値打ちが2000ぐらいで、普通の人はだいたい5から15ぐらいで、釈迦、キリストが150から200ぐらいなんですよって。だから俺は頑張るしかないんですよ、他の人に比べてこれぐらい優れてるんだから、すごく頑張らないと申し訳ないじゃないですか」っていう、すげーの書いたら、めちゃめちゃ叩かれた(笑)
仲野:自分の素晴らしさをみんなに示すためには、そうやって布教活動しないと……。
岡田:いや、示せないのはしょうがないんですよ、だってみんな10とか15ぐらいしか理解力がないんだから、2000がわかるはずがない。僕が懇切丁寧に説明したって多分範囲内に入ってこないから、もうしょうがないから「俺の有用な部分だけ使えるだけ使って」という。
仲野:じゃあキリストとかは、やっぱりまだ、分かりやすすぎるわけですね。多くの人を引き付けたっていうことは。
岡田:だからキリストは一貫してるんですよ。でも僕は、なんでスマートノート書いて、「悩みのるつぼ」書いて、ダイエットやって、アニメ作ってんのか。変なんですよ、やってることが。
岡田:だから「悩みのるつぼ」も、正しい上から目線です。「人類はこんなことで悩んでいるんだ、了解了解!」って。
仲野:(爆笑)かしこさ2000ですもんね。
岡田:そうです。だから生物学的というかわからないんですけど、サルの習性を研究している人はサルの思考パターンがわかるじゃないですか、人類の思考パターンってだいたい似たようなもんだから。
仲野:やっぱり2000ですね(爆笑)。
岡田:ひどい(笑)
仲野:でも、新しい考え方ですよね。その、いろんな人の悩みを聞いたら人類が見えてくるっていうのは。悩みって、問題がこんがらがったような状況なので、個別性がすごく高いかなあと思うんですけど、エレメントで見たらみんな似たような……。
岡田:で、おまけにその中心核には自分自身の解決してない悩みがあるので、悩みに答えるのは、二度お得なんですよ。答えると自分自身の悩みにも回答することになるから、あー楽になったって。
仲野:岡田さん、悩みないんじゃないですか?
岡田:そんなことないですよ。中学校のころにこんなこと言われていやだったとか、そういう引っかかりみたいなもの、ずっとあるにはあるんで。悩み相談に答えているときに、あっ、俺のここの引っかかりと相談者のこの悩みとが、今、出会ってるんだなとか。両方いっぺんに解決したりはしないんですけど、この悩みに答えることで、自分のなかの悩みを成仏させる。
仲野:トラウマが次々と消されていくような感じなんですね。
岡田:成仏状態です。ただし、だからといって、引っかかりがなくなって「いい人」になるのかというと、とんでもない。
仲野:そうなんですか(笑)
岡田:全然違います。僕、短気で、すぐに人に怒ったりしますし、人格的にはなんにも影響がないです。ちょっと文体がましになるぐらいです。
仲野:怒りたくなるときも、これは人生相談やなと思ったら我慢できるとか、そういうのは……。
岡田:ないです。
仲野:それはやっぱり違うんですか?
岡田:それは「コックが家でちゃんとした飯をつくるのか」問題です。「悩みのるつぼ」の回答は、僕の中で一番いい、岡田としての上澄みの部分だけを使用して、お届けしてますから。
仲野:それも「2000」を使いながら……
岡田:はいはい。普段はもっと低レベルの岡田斗司夫で対応します(笑)
仲野:やっぱり、いつも2000でおると疲れるんですかね。時々5ぐらいの日もないと。
仲野:久しぶりに『東大オタク学講座』を取り出してきて、新幹線の中で読んできたんですけれど、今読んでもけっこうおもろいですね。いっちゃんおもしろかったんは、村上隆との対談。
岡田:そうですね、村上さんがすごく正直に「アートとは何か」を語ってくれてますよね。ユダヤ人相手に金が稼げなければダメだとか……。
仲野:平山郁夫の絵なんか全然値打ちがないとか、すごいですよねこれ、15年以上前ですからね。僕は岡田さんの本は、これがはじめてで、レコーディングダイエットの本も読んで。結局ダイエットはできなかったんですけども。普通の人はできますか? レコーディングダイエット。
岡田:10人に2人ぐらいできます。2割ぐらい。ダイエット本って成功率が1割ぐらいなんですよ。なので2割というと、かなり僕はいいと思ってるんで。でもみんな5割とか7割を求めちゃうから、そんなもん無理だよと。
仲野:始めにちょっとやりだしてもすぐにね、ドカ食いした日に書くのがいやになるんですよね、あれ。
岡田:僕は一番いいダイエットは軍隊に入ることだと思います。自分の意志でやるのではなく、ある環境に身を置いて、無理やりやらされることだけが正解なんですよ。ホリエモンすごい痩せてましたもん。刑務所ダイエット大成功。で、「俺痩せただろう」って言ってるんですけど、「お前痩せたんじゃない、痩せさせられたんだ」って、心の中でつっこみました。
仲野:やつれておられてるわけじゃないんですか?
岡田:腕立て伏せとかして、腕がパンパンになってますから。人間やることなかったらこんなにいいんだと。僕、ほんとにムショからこいつ出さなきゃいのにと思って、それ本人に言いましたね。「お前あと2〜3年入ってりゃいいのに」って。
仲野:中島らもも、確か「刑務所ってすごく体にいい」と書いてましたね。クスリは抜けるし。まあ健康的な生活ではあるのかもしれません。健康であれば幸せってわけじゃないですけどねえ。
岡田:でも、情報をあそこまで断絶してしまうっていうのは、すごく心の健康にもいい気がしますねえ。それで、目の前に作業があって。彼は一日に二時間半、自由時間があるそうなんです。
仲野:作業は何しておられるんですか、封筒貼りとかですか。
岡田:いや、木工とかをやってて、もうけっこういいところにいってるそうなんですよ。さすがです。ただ「旋盤をこっちに動かせばいいのに」みたいなことを言ってるそうです。「作業効率を上げようと思ったら」と進言したらすごく嫌な顔されたらしい(笑)
仲野:そりゃそうですよね(爆笑)。目的が違いますよね、作業するのが目的やのに。
岡田:「作ったものを売って備品とかを買うんだから、やっぱり効率がいいほうがいいじゃないか」って思いながらも、そいうことは口にしない。彼は「思ったことを口にしていいというものではない」という得難い教訓を、人生で初めて学んだそうですよ。
仲野:オタク、ダイエットときて今、人生相談。次、何をやりはるか、きっとおもろいことをやっていただけるだろうなという大きな期待感を持っています。今までだいたい七、八年おきぐらいで変わってますかね。
岡田:そうですね。これまでの大きい仕事の変え方はそうですけれども、今はそんなにやることを変えたいという気持ちはないです。人生相談、本当におもしろいんで。今、月に一回ニコ生でなりきり人生相談でっていうのをやってます。
仲野:なんですかそれ?
岡田:これは「お前、ほんとはこんなこと相談したいだろう」と決めつけて、有名人からの悩み相談を作ってそれに答えるんです。スティーブ・ジョブズからの天国からの悩み相談で「アップルが俺の思ってるのと違う方向に行きつつあります、どうすればいいですか?」とか。これ真剣なんです。霊界のスティーブ・ジョブズからそんなメッセージ来たと思って、「うんわかるよその気持ち」って「同じ温度の風呂」に入って、ジョブズのキャラクターなら多分こういうイライラを抱えているんだろうって考えてやってるんですけど。まあやっぱあれは芸ですね。おもしろいですけど。
仲野:まあシミュレーションみたいなもんですかね。
岡田:そうですね、内田樹先生になりきって、内田先生からの悩みを考えて、それに勝手に答えて……。
仲野:たぶん内田先生の悩みは「悩みがないこと」だと思いますね。
岡田:悩みがない人間はあんなに人に関わらないですよ。
仲野:はあそうですかね、見えないだけですかね。こんなこと言ってると先生に怒られるな。
岡田:だって悩みなかったら道場なんて開かないですもん、道場で人に何か教えたいとかって思わないですよ。
仲野:う〜ん。
岡田:身体性が必要ってことがなんでこんなに人にわかってもらえないんだろう? と悩んでいるんじゃないですか。「身体性」という自分が持っている回答が本当に正しいのかどうかってことに微妙に自信がないことが、それを伝えたいモチベーションになるんですね。僕も自分が理屈っぽいことに関して、自信がないぶん、自分の理屈で人を幸せにできることを証明したくてしょうがないんです。人に関わる仕事ってのは、すべて嫌な、黒いものがありますから、もしそこで悩みがなかったら内田先生は今頃隠居してますよね。
仲野:隠居したくてたまらないらしいんですけどね。
岡田:嘘だあ、隠居したい人があんなブログ書かないですよ。
仲野:対談されたら絶対おもしろいと思っていたんですが、もうすぐお二人の対談本が出るんですよね。
岡田:ああ、そうです。あとは僕が赤入れれば終わりだから、来年の春あたりです。
仲野:話は弾みましたか?
岡田:はい、おもしろかったですね。ただ、二カ月ぐらい前にやった対談では内田先生に怒られました。私が「大学いらないですよね」って話をして。でも本当にいらないと思ってるんですよ。大学っていうのは、人をダメにすると思ってるんですよ。だって中学・高校までみんな朝学校に行く癖がついてるでしょう。嫌でもなんでも九割ぐらいの学生は、教室で座るっていう生活習慣を身につけているじゃないですか、これは社会を形成するのに必要な人材を育成する条件ですよね、産業社会の。
仲野:村上隆によれば、芸術家でさえそういうトレーニングが必要らしいですからね。
岡田:それを4年間かけてダメにするんですよ。
仲野:大学に入ったときってね、みんな目が生き生きしてるんですよ、2年生になったら、だんだん腐ったようになっていって、4年生になったらもう死んだようになってるんですよね。「学生が悪い」ってみんな言うんですけれど、どう考えても大学のほうが悪いんとちゃうかなと思うことはよくあります。
岡田:そうなんです。そういうことを言うと、個別に今の学校がこうだからとか、先生にこういう人が多いからとか、学校というシステムがこうだからって言うんですけど、そんな問題じゃないと。日本中の大学がそういう状況で、これが改善できないということは大学というシステム自体が日本人に向いてないんだと。
仲野:私はそんなにたくさんの講義はしてないんですけど、「起立・礼・着席システム」を取り入れました。私が教えるのは三年生なんですけど、意外と新鮮みたいでね、初め「えー!」とか「いややー」とか「なんでそんなん」とか言うんですけど、3、4回やってると、なんとなくピシッとするんですよね。「起立・礼・着席」したら、そこで私語が終わって、一つの「始まり」になるんで、なかなかいいシステムなんです。他の先生にもすすめてるんですけど、だいたいみんな「恥ずかしいから嫌や」って言いますが。
岡田:来年からやってみようかな。
仲野:ぜひ。ぜひやってみて、それだけでもだいぶ違う。
岡田:で、内田先生は大学という仕組みの中にいて、大学はもっとこうならねばならないとか、ゆっくり考えているけれども、実は大学って、大多数の日本人にはもういらない、向いてない仕組みなんじゃないか、って言ったらすっげえ怒られました。
仲野:うーん、私は怒りはしませんけど困りますよね、食べていけなくなりますから。
岡田:食べていけない先生もいないとダメでしょう、先生が食べていけるのは変なんですよ。あらゆる産業が崩壊しているなかで、大学の先生が全員、レベルに関係なく食べていけるというのは、こっから10年先に8割が食べていけなくなるという問題を先延ばししているだけじゃないですか。
仲野:子どもも減っていってるのに、大学ってつぶれない。まあ多少つぶれてますけど、なかなかバタバタこないですね。だから竹をしならせてるのと同じで無理させてるだけで、ビュンとなったら八割から九割の人はいなくなるかも。いや、ビュンじゃなくてポキッといくぐらい弱いですね。もう大学に反発力はないですね、おそらく。
岡田:でも大学行かないと上のソサエティに入っていけないというのがある限り、大学は残りますね、だから国公立大学だけじゃないですか、残るのって。
仲野:まあ、シリアスな話になってしまいますけど、地方大学はなかなか厳しいですな。
岡田:あと私立大学はいらないです。学費に100万円も納めるのは変。そんなにかかるはずないもの。iPhoneってだいたい6万から8万で買えるじゃないですか。そして使用料ってどんなに使っても月に5〜6万ぐらいですよね。なのに大学の学費が100万とか150万って変ですよ。
仲野:確かにそう言われたら痛いとこありますよねえ。
岡田:リーズナブルじゃないんです。
仲野:あれは慣性力でそうなってるっていうことですかね。
岡田:そうですね。大学がなんで保っているのかっていうと、大企業が大卒しか採りませんよって言ってくれているからでしょう。産業構造が崩れたら大学に行かなくなりますよね。大学が単なる出会いの場になるから。学べて出会えるバイトってのを誰かが始めちゃった瞬間に、高校卒業して大学に行く人いなくなりますよ。
仲野:うーん大学の役割ってのはいくつか変えていかないとダメやろなってところはあるんですけどもねえ。
岡田:もう一回やっぱり個々人の先生に金払って勉強学びに行く。
仲野:私塾?
岡田:はい、だって内田先生がやってるの、そうでしょう?
仲野:まあそうですね。
岡田:あんなことやってながら大学肯定してるから、先生、右足と左足違うところに立ってますよって言われることになるんですよ。
仲野:内田先生がいつもおっしゃるんですけど、教育ってのは慣性力が強いと。
岡田:「慣性力が強い」って言って、何か言ったつもりになるのは、もう自分がリタイアしてるからでしょう、けしからん(笑)。今の日本って使える人材をぎりぎりまで使わないといけないのに、もうリタイアしたつもりでしょう? あの爺さんのそこが気に食わんですよ(笑)。
仲野:あっもうそろそろ時間ですか? それにしても恐ろしい話(笑)、いや、楽しい話ありがとうございました。
岡田:ありがとうございました(笑)
と内田樹先生の話題でいきなり終了。HONZとしては、仲野徹が内田先生に怒られないことを願うばかりである。
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