おすすめ本レビュー

『日本の論点2011』

成毛 眞2010年11月19日
日本の論点2011 (文春ムック)

作者:文藝春秋編
出版社:文藝春秋
発売日:2010-11-25
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765ページ、寄稿者は118人、定価2980円である。寄稿者1人当たりのページ数は6.5、価格は25円だ。あきらかに「お、ねだん以上」だが、10冊ほど買わないと椅子としては使えない。

論点1の堺屋太一「移民の受け入れこそ、需要を創り知日派を創る」という論文だ。個人的には反対。縮小均衡しても日本文化を残すべきだと思う。とはいえ、この論文をトップに持ってくるセンスや良し。

論点3の山中伸弥「1つの成功は無数の失敗の上にある」偉大な科学者のいう決め台詞のようだ。ところで、科学は失敗を明確に認識できる。経営は失敗を確定できないことがあるので、成功も少ないのかもしれない。

論点6の中西輝政「戦後体制を親の仇と定め、パトスに燃える、霞が関討幕のリーダーを求む」怨念と情念か。2011年に「討幕」という言葉は「竜馬伝」に悪乗りととらえかねないのが難点。

論点12から論点22までは外交問題。中国とアジアと在日米軍。櫻井よしこ、重村智計、辺真一、佐藤優、岡本行夫、田中均らが一斉に論じる。さらに本書は論点33まで憲法改正、集団的自衛権、政党の理念、政党政治、選挙制度、戦争責任、天皇と重い論文が続くが、ここまででまだ半分に至っていない。

論点34からは経営分野だ。まずはコマツ会長の関根正弘「危機突破のカギは『見える化』にあり」明るい。論点35堀江貴文「スキルの高い経営者に高給を払うのが当然」ノー天気だ。論点36成毛眞「日本語訛りの英語でよいから『語るべき日本』を学んだほうが役に立つ」もはや自己弁護。

論点45は国民共通番号制度に対する八幡和郎と黑田充の賛否両論。明らかに八幡に分がある。八幡はオーストリア方式などの具体論で導入を促す立場だ。

論点46は斉藤環の「ツイッターは殺伐とした風景をもたらす情報量ゼロの『失言装置』」はデジャブ。過去にパソコンも携帯電話のインターネットも、世界の何かを滅ぼすと予測した論考や書籍が多数世に出てきたが、滅んだのは論者だった。本業がある人こそ思い切った発言ができるのかもしれない。

論点53の浅川芳裕「日本の農業は弱くない。元気な農家を伸ばして非効率な農政の終焉を」は全面的に賛成。農業振興8つ提言も秀逸。寄稿者はジャガイモ専門誌「ポテカル」の編集長でもあるようだ。じつにおもしろい。

論点54以降はポスト石油、レアメタル、生物多様性、異常気象、巨大地震と続き、ほとんどの論文が妥当かつ穏当だと思う。それ以降は大分類で科学、少子化と社会福祉、医療と介護、家族、教育、司法、現代社会とつづいて最後は大相撲だ。

論点87の大相撲は黒鉄ヒロシ。テレビで黒鉄ヒロシの「老人性常識人」ぶりを見てキラいいになったのだが、この論文はじつに面白い。この分野で是非とも一冊書いてほしいものだ。