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『芸術闘争論』村上隆

新井 文月2010年12月30日

本書は世界のアート界で活躍する筆者が芸術を志す新人アーティストに向けたメッセージだ。

筆者は世界を視野にいれた芸術活動においては、グローバル・ルールを知らないで制作していても無駄であると述べている。同時に芸術の世界で必要なのはバトロンがいて成り立ってきた資本主義社会の背景とルールを知ることと、コンテクストにより自分の作品を武装し付加価値を身につける事だと諭す。

つまり画家としてのブランディング戦略がなければ、ゴッホのように才能はあっても生前に1枚しか売れない状態になるよという主張だ。また「芸術は神聖なもので、ルールなどないはず。自由こそ真のアートだ」という反コンセプト主義が日本では蔓延しすぎているとも説く。美術教育は自分ばかりを正当化する教師ばかりで、実際は何もしないのが現状だと語る。なるほど確かに私も美術大学を卒業したが、国内の怠惰な美術教育の風潮には同意見だ。だいたい先生が答えを知らない。若い作家は何処を目指していいのかわからず、迷走するばかりである。その結果、アート界に興味が無くなるケースも多いのではないか。

しかし本書では作品を世界で通用させるための方法論をずばり公開している。気をつけないといけないのは、そのフィールドは現代美術の世界においてである。現代美術とは、近年映画化されたジャン・ミッシェル・バスキヤや、アンディ・ウォーホールといったアーティスト達が活動した第二次世界大戦後の芸術活動を指す。本書いわく、その作品における評価の基準は技術やコンセプトなどの大きく分け4つの項目があり、そこを理解し計画立てて制作していけばよいそうだ。論理は本当に簡単なのだが、筆者が何度も失敗して証明してきた結果だけに説得力がある。

例えば、著者のコンテクスト実装は下記のようになる。

私の作品はジャパニメーションだ。

私の作品はアメリカの影響なのだ。

なぜならアメリカは日本に勝利し、日本のその結果、平和ボケしてしまった。

その平和ボケの結果、日本ではアニメ文化が発達した。

だからこのアニメ作品はアメリカ人がしてきた結果なのだ。

村上隆の活動はこの理論を明確に公開している点で非常に共感できる。もちろんアートって何でこんなに値段が高いのだろうと思う人にとってもわかりやすい内容となっている。新人アーティストにとっては本書は必読だ。読めば実装方法が公開されているので、あとはギャラリストや美術評論家など並走できるパートナーと組めばよい。そうすれば私達の作品もアートバーゼルなど国際アートフェアに展示されるのは夢でなく目標になるはずだ。意外かもしれないが日本人ほど美術館に行き美術に関心のある国民は珍しいのである。