おすすめ本レビュー

『岡本太郎と横尾忠則』

新井 文月2011年3月26日

表現エナジー見直し

ミュージシャン、ダンサー、建築家、映像から彫刻など他者に対し何かしらメッセージを伝える人達がいる。私は彼等を尊敬の念を含め表現者と呼んでいる。今回の震災に対して各々は自分なりの表現でライブやイベントを催し、チャリティ活動を行っている。新宿駅周辺に足を運べばストリートミュージシャンからお笑いタレントまで募金活動をする姿がみられるが、全員が同じ事をするのはそれもまた表現者として疑問に感じてしまう。

一方、2011年は岡本太郎の生誕100年である。書店では関連本がずらりと並んでいるが、中でも本書は表現者に推薦できる一冊だ。なぜ、いま岡本太郎と横尾忠則か?理由は簡単。美術と芸術、表現における活動の幅広さを彼らは率先し示してきた。それらは私達に創造活動における無限の可能性を教えてくれる。また1970年の大阪万博における《太陽の塔》と聞いてもピンと来ない人もいるのではないか。筆者は2人の作品を紹介しながら、互いの美学を多面的に論考しているので読み応え十分だ。

そして後半の対談[横尾忠則+倉林靖]に注目してほしい。岡本は「今日の芸術は、うまくあってはいけない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない」という原始の美としての哲学がある。これに対して横尾は「岡本さんは自分ががんばっても美しく描けない状態を正当化するために、駆け込み寺的な理論をつくったのではないか」とコメントしている。また「絵はうまくて、きれいで、ここちよくていいんじゃないかと思う」と指摘。これには安堵させられる。横尾本人の作品はエロスや死、サイケがテーマとなっているが、同時に大衆感覚も持ち合わせているのだ。

さらには大阪万博における横尾の《せんい館》、渋谷駅に常設される事となった岡本の《明日の神話》経緯など、現代芸術をリードしてきた2人の軌跡をなぞる事ができる。本書は21世紀型の表現活動のヒントになるだろう。さあ世に働きかけよう。

生誕100年 岡本太郎展
http://taroten100.com/index.html