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フリーライター版トキワ荘 『昭和が終わる頃、僕たちはライターになった』 北尾トロ、下関マグロ

村上 浩2011年4月20日

フリーライターを目指す人はもちろん、「自分は本当は何をやりたいのか?」と迷っている人にもおススメ

就職活動すらしないまま大学卒業を迎えた北尾トロこと伊藤秀樹と、大学を卒業した後にやっと就職活動を始めた増田剛己こと下関マグロの2人の物語。

金も、やりたいこともない。もちろんキャリアプランなんてものはない2人だが、何だか羨ましい生き方の様にも思えてくる。

昭和が終わる頃、僕たちはライターになった 昭和が終わる頃、僕たちはライターになった
(2011/04/14)
北尾 トロ、下関 マグロ 他

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「サラリーマンにはなりたくない」

多くの人が一度は考えたことがあるのではないか。なぜなりたくないのか問われても明確な答えはないのだが、小さい頃にテレビで観たサラリーマンは上司に怒られ、アフターファイブでは同僚の愚痴を言い、家に帰れば家族から邪魔者扱いされる、そんな存在だった。憧れる方が難しい。とは言え世の中のほとんどの人はサラリーマンになるのだし、毎年この時期になるとサラリーマンになりたい就活生がリクルートスーツに身を包んでいる姿を沢山見かける。

本書の主人公の1人、北尾トロこと伊藤秀樹は転勤を繰り返しながら猛烈に働きながらも、夢のマイホームを手にすることなく亡くなった父親を見て、この思いを強くした。「サラリーマンだけにはなりたくない」とは言っても、他にやりたいことがあるわけでもない。バイトと競馬で無為な毎日を過ごしていたところ、大学の後輩から”イシノマキ”でのバイト話が転がり込んでくる。この編集プロダクションイシノマキでいきなり『スコラ』の記事を任せられた伊藤は、スピーカーのタイアップ企画を考えることになるのだが、出てきた企画は<カノジョの股間にビンビンの重低音を響かせろ!>。

うーん、こんなことでライターになれるのか!?

もう1人の主人公、下関マグロこと増田剛己は伊藤ほどの決意があったわけではないが、5年間通った大学を卒業してもサラリーマンにはなっていなかった。バイトの知り合いに紹介してもらった職を当てにして上京する増田だが、当てにしていた会社からは不採用になってしまう。『週刊就職情報』を握り締め、様々な会社を巡るのだがまたも不採用。やっと内定を貰ったのは『スウィンガー』というスワッピング雑誌だ。そこで出会ったフリーライターの宮津氏からの誘いに中野新橋まで行ってみると、部屋には綺麗なお姉さんたちとお寿司が。そのお姉さんたちがソープランドで働いたことを知った増田は、フリーライターって素敵な職業だな、と思ったらしい。

うーん、男としては正しいような気もするが。。。

こんな2人が協力して、色んな仕事をすることになるのだが、何だかいちいちやってることが楽しそうなのである。

雑誌『ムサシ』から依頼された仕事では伊藤がオイルヌリヌリマンになって夏の海を駆け回ったり、スキーなんか全くやったことないのにスキー雑誌の創刊に関わったり、増田はあれよあれよとAVの助監督(今で言うAD)になってみたり、お金もないのにバンドを始めてみたり。もっとちゃんとしろよ!と突っ込みたくなる一方、書くことの面白さ、難しさに触れて、本気でフリーライターを目指し始める2人は何だか応援したくなってしまう。

本書の舞台はバブル真っ盛りの1983年~1988年。同じようにやってもうまくいかないことは沢山あるだろう。トロやマグロのようにやってフリーライターになれるかどうかは分からない。けど、あれこれ考える前にやってみればいいじゃないか。本書を読み終わるとそんな気分になる。