書店員のこれから売る本

9月のこれから売る本-トーハン 吉村博光

吉村 博光2013年9月18日

HONZをご覧のみなさま、こんにちは。先日、本屋さんにイベントをご提案するため、バスについて調べることになりました。こういう場合は、ググっても限界があるので、仕事が終わってから、本屋さんを何軒かまわることにしました。鉄道と自動車の中間のような存在で、なんとなくユルくて大らかな印象がある、バスという乗り物。いくつかの本を手に取りながら、気づくと、バスの魅力に引き込まれてしまっていました。時間を忘れるあの感覚。私の好きなものリストに「バス」が加わった瞬間。本屋さんには、こういう「楽しい世界」の入口がいっぱいあるんだなぁ、とあらためて感じました。

9月20日は日本で初めてバスが走った「バスの日」。近々、バスフェスタもあるようです。今月は、バスの魅力がわかる本をご紹介します。

スバらしきバス

作者:平田俊子
出版社:幻戯書房
発売日:2013-06-26
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装丁がすごく素敵な本です。かわいいバスの絵が描かれていて、その上にあいている窓を覗くと、爽やかなブルーをバックに「SUBARASHIKIBASU」の文字が見えます。ディープな本を何冊か眺めたあとだったので、高校の男子クラスに紛れ込んだ女子をみつけた時のような印象を受けました。私は、高校生のとき、しばらくバスで通学していました。朝の30分は、ゆりかごのように気持ちがよく、肘掛けにもたれながらウツラウツラする毎日でした。急停車すると、コクンと肘が落ちて、目が覚めてしまいます。本書を読みながら自らのバスの思い出をたどると、“コクン”のときに目があって微笑んだ、同じクラスの女の子への淡い恋心を想い出しました。全編、バス愛にあふれた心温まるエッセイです。それは、バスのもつ独特の情緒を心から楽しむ、和み系のバス愛です。「誰もいなかった車内に人が集まり、賑わい、また減っていき、最後は誰もいなくなる。何て寂しく、同時に安らぐ光景だろう。」本書のこの言葉に、何かを感じた方は、ぜひ読んでみてください。

バスガイド流プレゼン術 天才ジョブズよりも身近な達人に学べ

作者:伊藤誠一郎
出版社:阪急コミュニケーションズ
発売日:2013-06-13
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まさか、「バス」と「ジョブズ」という二つの言葉を同じ表紙で見ることになろうとは、思ってもみませんでした。でも、この本、絶対に甘くみてはいけません。確かにバスガイドさんがやっていることを「プレゼン」と考えると、プレゼンスキルがメチャメチャ高いと思いませんか。車内の空気と一体になり聴衆のリアクションをとりこみながら、説明すべきことを伝えきって、みんな楽しんで旅行を終えるわけです。なかなか、そんなプレゼンターいないですよね。著者は「元プレゼン劣等生」のプレゼン講師。年間15回以上バス旅行を楽しむ、バスガイド研究家(!)でもあります。著者いわく、多くの人がプレゼンを苦手な理由は「プレゼンテーションに対してシンプルなイメージを持っていないことにある」そうです。様々なノウハウ本で学んだ手練手管を、どのように繰り出せばベストなのかと迷いながら進めるプレゼンテーションが、聴衆にとってわかりやすいはずがないですよね。大切なのは、シンプルな気持ちでいること。大好きな観光地を紹介するイメージです。プレゼン前に頭が混乱したときには、バス旅行で気分転換してみると良いのかもしれないですね。

バス男 橋口宏樹の乗務日誌

作者:橋口 宏樹
出版社:文芸社
発売日:2013-09-01
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書名をみて『電車男』を思い出したのは、私だけじゃないでしょう。また、そういう題名の映画がなかったかなと、記憶の隅をつついた方もいらっしゃるかもしれません。実を言うと、本書は、そのいずれとも全く関係がありません。バス好きの著者が、3年前にはじめたブログ「橋口宏樹の乗務日誌」から生まれた本なのです。もとがブログのため、横書きなのが少し読みづらかったですが、「雑学編」はバスの情報が実にうまく整理されていて、今の私にピッタリの内容でした。でも、本書の後ろ半分「ブログ編」は、初心者の私にはちょっとディープだったかも。「ツーステ来るのか?」鉄道ファン同様、レア車を求めるファン心理が垣間見えて、バス趣味の世界も深いんだろうなぁとしみじみ感じました。

3冊のバス本の後で紹介したいのは、鉄道関連のビジネス書です。鉄道とバスは、切っても切れない関係です。昭和40年代以降、ローカル線の廃線が議論されるようになって以来、鉄道もバスも赤字路線の問題は解決していません。本書は、第3セクターとして厳しい運営が続く千葉県のいすみ鉄道を、公募社長として立て直しに奮戦されている鳥塚亮さんが書かれた本です。地元の人の「乗って残そう」という運動は涙ぐましいですが、それだけでは解決が難しい状況があります。そんななかで著者は、従来の考え方にとらわれず、レア車両を走らせることで東京から鉄道ファンを集客するなど、新たな視点で成果をあげたのです。ローカル線の風情は、東京の人からすれば大きな魅力だと思います。他にはない何かを提示することで、お客様に来ていただくこと。参考にしたいと思いました。(※久保洋介のレビューはこちら

私が、バスについてググっても見つけられなかったもの。本屋さんには、「他にはない何か」が、たくさんあるのですから。

吉村博光

トーハン勤務

夢はダービー馬の馬主。海外事業部勤務後、13年間オンライン書店e-honの業務を担当。現在は本屋さんに仕掛け販売の提案をする「ほんをうえるプロジェクト」に従事。

ほんをうえるプロジェクト https://www.facebook.com/honwoueru

TEL:03-3266-9582