おすすめ本レビュー

『躍進する新興国の科学技術 –次のサイエンス大国はどこか-』

山本 尚毅2011年8月4日
躍進する新興国の科学技術 (ディスカヴァーサイエンス)

躍進する新興国の科学技術 (ディスカヴァーサイエンス)

  • 作者: 科学技術振興機構 研究開発戦略センター 海外動向ユニット
  • 出版社: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2011/5/21

「30年後の世界のパワーバランスを変えるのは、躍進する新興国の科学技術かもしれない!?」すでに背表紙には日本の未来へのあきらめモードが漂っている。30年も猶予が本当にあるのかどうかは本書の各国の科学技術研究及び大学への投資と実用化されているテクノロジーを見て判断してほしい。実感としては30年後ではなく、明朝のニュース速報で世界を驚愕させる新興国のテクノロジーや研究成果が放映されてもおかしいとは感じない。新興国や発展途上国の情報にはアンテナをかなり高く張っている自分にとって、かなり重要な本であった。

インドはICTのビジネスアウトソーシングやメディカルツーリズム(インドではInformationよりCommunicationのほうが大切だということでCITと呼ぶらしい、個人的に納得だ)、ロシアは冷戦前からアメリカと激しく競争していた宇宙開発のテクノロジー、韓国はお決まりのサムスンとLGの半導体や白物家電、ブラジルはバイオマスエネルギー。すでに新聞やニュースを騒がせている。有人宇宙飛行は2011年8月現在でロシアの独占状態で、ソユーズ船なしには宇宙飛行士を送り出すことができない状況である。ブラジルのバイオマスエネルギーは、穀物価格と石油価格に連動し、大幅な価格変動が地球の裏側の多数の命を奪う可能性すらある。

新興国中心で起こっているリバース・イノベーションも注目すべき動向だろう。リバース・イノベーションとは、ざっくり言えば、発展途上国の市場をターゲットに機能や価格を絞って開発した製品が、先進国の市場に逆流してくる形でのイノベーションのことを言う。GEが中国の農村向けに開発した製品(必要な機能以外を削ぎ落とし安価に作られた医療用の携帯型心電計)が、アメリカなど先進諸国においても流通し、ハーバード・ビジネスレビューで取り上げられ一躍有名になった。そのGEでは日本だけでなく、アメリカもヨーロッパも「その他地域」で一括りにされているそうだ。

個人的にガソリンとエタノールの両方を燃料として利用できる「フレックス燃料カー」が気になる。念のためだが、これは本書でも紹介されている。ブラジルは「国家アルコール計画(プロアルコール)」を75年から実施し、80年には100%含水エタノールで走行する自動車が開発、販売された。その後、石油価格の安定や砂糖価格の上昇が原因で停滞したが、09年には254万台が販売され、新車の84%を占めている。化石燃料に乏しいアフリカ諸国との連携が強まっているようで、日本の知らぬ間に、第三世界と呼ばれた国々の間で流通され、製品が普及していく可能性も感じられる。他製品の例として、携帯があげられる。ガラケー(ガラパコスケータイ)ばかりが流通している日本には、インドや中国など新興国で当然のように流通しているシムカードが複数装填できるデュアルSIM携帯もない。ちょっと趣旨は変わるが、パソコンのキーボード+ファミコンのような子どもの学習用プロダクト「Play Power」は10ドル程度で新興国に出回っており、amazonにでもあれば、ついほしくなってしまう。動くのかどうか、品質面は不安だが。

前段が長くなったが、本書では、各国の専門家がBRICs諸国、東アジア・東南アジアの科学技術について、風土的背景、国家戦略、予算や論文数などをソースに事細かに描かれている。著者は科学技術振興機構(JST)の海外動向ユニット。国益をかけた本気の調査・分析を行っているセクションであろう、故に信頼性は高い。8つの国と地域に広く浅く書かれているので、本を読みながらより深い情報を知りたくなることは間違いない。本を読む際には、Google検索ができる状態を整えておくことをお勧めする。バイオリーチング技術、カエルの毒から生成する鎮痛剤なんてものまで出てくるのだから。

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他にもお勧めの本

歴史は繰り返す。冷戦時、西側諸国の裏側で創られていた製品を知るなら

ニセドイツ〈1〉 ≒東ドイツ製工業品 (共産趣味インターナショナル VOL 2)
ニセドイツ〈2〉≒東ドイツ製生活用品 (共産趣味インターナショナル VOL 3)

昨年、復刊。復刊前に図書館を5つはしごした。原本は5万を超えるプレミア。

横井軍平ゲーム館

新興国の携帯事情をマジメに齧るなら

グラミンフォンという奇跡 「つながり」から始まるグローバル経済の大転換 [DIPシリーズ]

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