携帯電話というのは、「それがない世界を想像出来ない」というエポックメーキングな発明だったと思う。携帯電話がなかった時代とある時代では、大げさに言えば文化そのものが違うことだろう。本書で描かれる「電子葉」も、まさにそのような存在だ。脳に埋め込むことで、脳外部からの情報処理を格段に促進するものであり、2066年に電子葉の移植は全国民に義務付けられるまでの存在となる。
そんな世界で、国の情報管理を一手に担う情報庁の職員である御野・連レルは、生涯で唯一師と定め、14年前に失踪して以来一度も姿を現したことがない、電子葉を開発した天才、道終・常イチと再会する。そこで道終・常イチは彼に、一人の少女を託すのだが…。
近未来が舞台の、かなりSF的な設定ではあるが、古代史や神話や禅の話も出てくる。すべてがきっちりと組み上がった美しい造形物のような作品で、あらゆる要素が有機的に結びつき無駄がない。『天才』という特異点のような存在も、実に魅力的に、天才らしく描かれていく。技術的可能性の延長線上に「神」を描き出す作品であり、本書は読者に、「新たな世界を開く鍵」をもたらしてくれることだろう。凄まじい作品だ。
ニコニコ生放送で大反響を巻き起こした(らしい)、公式番組としては初の生活密着型お勉強番組を書籍化した作品。タイトルや装丁を見ると、「ネット用語とかいっぱい出てくるのかな」「ネット的なネタについていけないと面白くないかも」みたいな風に思ってしまう人もいるかもしれないけど、そんな心配は一切ない。本書は、お金を使ったことがある・稼いだことがある人は必読の作品だ。
本書では、ニコニコ生放送で人気のあった「給与明細」「消費税」「クレジットカード」の話題が主軸となるが、年金・ふるさと納税・確定申告など、僕らの生活に関わりそうで、でもきちんとは知らない知識がわんさか出てくる。こういう表現は僕自身好きではないのだけど、敢えて言おう。読まないと損する作品だ。
「手取り10万円台の俺」と書いてはあるけど、手取りがもっと高い人でも十分役立つ知識だろう。本書の中で一番オススメの話は、ふるさと納税だ。自分で確定申告をする必要があるけど、「納税」でこんなにお得なことが!とビックリすることでしょう。
HONZをご覧になっている方は恐らく、ちきりん氏のことをきっと僕以上に御存じのことだろうと思います。当然本書も、かなり多くの方が既に読んでいることでしょう。
本書は、月間100万PV以上のアクセス数を持つ「Chikirinの日記」を運営する、自称“おちゃらけ社会派ブロガー”であるちきりん氏が、自身のブログに書いたエントリーから選り抜き加筆修正したもの。目次をパラパラ見て惹かれるものがあれば、是非読んでほしいです。少し抜き出してみます。
「目標は低く持ちましょう!」
「人生は早めに諦めよう!」
「退屈な時間を楽しもう」
「多数派が正しいわけではない」
「人生の先輩の助言は、聞くべきなのか」
「大半の保険は不要」
「「所有」という時代遅れ」
いかがでしょうか?生きづらい世の中だと言われることが多くなってきました。けれども、考え方一つで、その苦しい感じから抜け出せる可能性もあります。毎日の生活に倦んでいる方、将来の展望に望みを託せない方。一度読んでみてはいかがでしょうか。
”森雞二はよく「大山名人は催眠術を使って勝っている」と言った。”
通算1433勝、タイトル獲得80期、名人A級在籍連続45年という、おそらく誰もたどり着けないのではないかと思われる大記録を持つ棋士・大山康晴。1992年7月26日に亡くなる直前まで将棋を指し続けた、史上最強と言われた棋士の生涯を、自身もプロ棋士であった著者が描き出す。
史上十指に入る天才は皆ライバルを「強い」と言わないが、天才の一人である谷川は大山のことを天才と称した。それほど大山は強かった。また、大山の実践譜を密かに研究し続けたノーマークの若者・藤井猛が、瞬く間に谷川を破り竜王を奪取したこともある。古い将棋は廃れる運命にある棋界において、大山将棋は華麗に復活を果たすのだった。
”大山にまつわるエピソードの数々を知れば、なるほどこの人が勝つわけだ、と納得されるはずである”
「人間は必ず間違える」という将棋観を持ち続けた大山。その破天荒な生涯が紐解かれる。
2008年12月8日、朝日新聞の歌壇欄に、その後2年間に亘って新聞歌壇を賑わせ続けた、史上例を見ないドラマの幕開けとなる短歌が投稿された。
(柔らかい時計)を持ちて炊き出しのカレーの列に二時間並ぶ
この短歌が狂熱をもたらしたのは他でもない。投稿者の名前として、こう記されていたのである。
(ホームレス)公田耕一
ホームレス歌人の鮮烈なデビューである。その後、「ホームレス歌人・公田耕一」にちなむ投稿も何百通と送られることになり、ホームレス歌人は新聞紙上という舞台で見事に舞い続ける。しかしある日忽然と消えてしまう。
著者はそんなホームレス歌人の正体を追うべく取材を続ける。本書はその記録である。
本書の第一章の章題は「まるで写楽のように」である。江戸時代、数多くの斬新な浮世絵を発表した後、10か月で姿を消し、現在に至るまでその正体が知られていない天才絵師と並べられた公田耕一。それはとりもなおさず、彼が、ホームレスであるという一時の話題だけで取りざたされたのではなく、彼が生み出す短歌の質が高かったことを如実に示すものだろう。
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