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【連載】『真相:マイク・タイソン自伝』
第1回 不良少年の覚醒──マイク・タイソンが初めて力に目覚めたとき

ダイヤモンド社書籍オンライン2014年7月27日

史上最強かつ最凶の男マイク・タイソンが自らの半生を赤裸々に綴った『真相──マイク・タイソン自伝』。刊行以来、全米を騒然とさせた本書から、特にハイライトとなる場面を全3回に渡って紹介していきます。

真相---マイク・タイソン自伝

作者:マイク・タイソン
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2014-07-18
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タイソンはニューヨーク州ブルックリンのスラム街の貧困家庭に育った。子供の頃のタイソンは体も小さく臆病でいじめられっ子だった。小学校1年生のときいじめっ子に大事な眼鏡をトラックのガソリンタンクに投げ込まれ、その日を境に学校に通わなくなる。そして街をふらついているときに絡まれた不良少年グループのパシリとなって窃盗を覚え、同時に彼らから伝書鳩の世話を任されるようになる。以来、タイソンは鳩を溺愛するようになる。そんなある日、タイソンの人生を一変させる出来事が起こった。

力に目覚めたとき

大きくなるにつれ、注目を浴びたいという願望を持つようになった。「俺はここらで1番のワルだ」とか「俺の鳩は最高だぜ」とか。だが、そうなるには内気すぎたし、不器用すぎた。それでもある日を境に、観衆の称賛を浴びるのがどんな気持ちか理解できるようになった。

マイク・タイソン(Mike Tyson) 1966年生まれ。アメリカ合衆国の元プロボクサー。1986年にWBCヘビー級王座を獲得、史上最年少のヘビー級チャンピオンとなる。その後WBA、IBFのタイトルを得てヘビー級3団体統一チャンピオンとして君臨。しかし2003年に暴行罪によって有罪判決を受けるなど数々のトラブルを巻き起こし、ボクシング界から引退。アルコール・麻薬・セックス中毒のどん底状態から過去の自分を反省し、自己の人生を語るワンマンショーで成功を収め、新たな幸せと尊敬を得る。2011年、国際ボクシング殿堂入りを果たす。2013年に『真相:マイク・タイソン自伝』を上梓。(Photo:© Bettmann/Corbis)


その日はクラウン・ハイツ界隈に行って、年上のやつと盗みに入った。なんと現金が2200ドル!

600ドルの分け前をもらった。それで、ペットショップに行って100ドル分の鳩を買った。店員がかごに入れてくれ、店長が地下鉄に乗せるのを手伝ってくれるくらい大量の鳩だ。鳩を隠している廃墟までは、近所の知り合いが手伝ってくれた。ところが、そいつが近所のガキどもに鳩の話を言いふらした。

そしたら、ゲーリー・フラワーズというやつが仲間と盗みにやってきたんだ。おふくろが見かけて教えてくれたから、俺は通りに飛び出して、急いで隠れ家に向かった。俺が来たのを見て、やつらは鳩をつかむ手を止めたが、ゲーリーはまだコートの下に1羽隠していた。そのころにはまわりを群衆が取り囲んでいた。

「鳩を返せ」俺は恐怖心を押し殺して叫んだ。

ゲーリーはコートの下から鳩を取り出した。

「鳥が欲しいのか? こんなものが? なら返してやるよ!」次の瞬間、あいつは鳩の首をねじ切って俺に投げつけた。頭とシャツに血がべったりついた。哀れな鳩の胴体が、道路にぐったり横たわっている。俺の大切な鳩が……。

「やっちまえ、マイク」俺の仲間の1人がけしかけた。「やっちまえ!」

俺はそれまでずっと臆病で、喧嘩なんかしたことがなかった。しかしそのときは、湧き上がってくる怒りを抑えることができなかった。以前、ワイズというボクサーが近所にいて、マリファナを吸って高揚するとシャドーボクシングを始めたから、そのスタイルをよく眺めていた。

覚悟を決めた。ワイズみたいにやるんだ! 何発かしゃにむにパンチを繰り出し、そのうちの一発が当たるとゲーリーはぶっ倒れ、起き上がってこなかった。ワイズがシャドーボクシングのときスキップしていたのを思い出し、俺はゲーリーを倒したあと、高揚のあまりスキップし始めた。とにかく、それがカッコいいことに思えたんだ。

栄光の瞬間をあの街区(ブロック)の人間がみんな見ていた。みんなが俺を称えて拍手する。胸から心臓が飛び出しそうな、信じられないくらいいい気持ちだった。

「おい、あの小僧(ニッガ)、スキップしてやがる」と、1人が笑った。モハメド・アリのステップ、いわゆるアリ・シャッフルを真似たつもりだったが、てんで様になっていなかったろうな。それでも、戦いは快感だったし、拍手やハイタッチの渦に巻かれるのも最高だった。俺の内気さの奥には、ずっと、ブレイク寸前のエンターテイナーが潜んでいたんだろう。

以来、俺はこれまでとは違う次元の尊敬を集めるようになった。みんながおふくろに、「マイクと遊んでもいい?」じゃなく「マイク・タイソンと遊んでもいい?」と訊いてくるようになった。俺と戦わせるために仲間を連れてきて、その結果にカネを賭けるやつらもいた。

おかげで別の収入源もできた。相手は別の地域からもやってくる。かなりの勝率だった。負けても、相手は「すげえな! お前本当に11歳か?」と目を丸くした。そのうち、ブルックリンじゅうで名を知られるようになった。しかしストリートファイトにリングのようなルールはない。何人かに囲まれ、バットのめった打ちで復讐されることもあった。

止まらない悪行

力を得た俺は、以前いじめっ子たちから受けた屈辱を忘れていなかった。街を歩いていると、むかし俺をいじめていたやつを見かけることがあった。俺に何をしたか思い出させてやらなきゃいけない。そいつを外に引きずり出して容赦なく殴り続けた。

そんなとき、あいつを見かけた。俺の眼鏡をガソリンタンクの中に投げ込んだやつだ。あのとき封印した怒りが蘇ってきた。いきなり相手につかみかかり、路上で狂ったように殴りつけた。相手はひたすら怯えて、許しを請うばかり。俺のことなんか忘れていたんだろうな。

9歳のときのマイク・タイソン。小柄で臆病だったがこの頃には地元の不良仲間と窃盗などの犯罪行為を繰り返していた。(Photo:© Steve Loft/Boxing Hall of Fame Las Vegas)

犯罪行為も少しずつ激化していった。街のルールを理解せずに、みんないいカモだと思っていた。手を出してはならない特別な人種がいるなんて知らなかった。

俺は安アパートに住んでいたが、同じ建物に住んでいるみんなから盗んだ。誰も俺が泥棒だとは気づいていない。何人かはおふくろの友達だった。彼女たちは生活保護手当の小切手を換金して酒を買い、おふくろのところへ来て酒を飲んで遊んでいった。俺は自分の部屋から非常階段を上ってほかの部屋に忍び込み、手当たり次第に物を盗んだ。あるとき、部屋に帰って盗難に気づいたそこの奥さんが、走って、おふくろのところへ戻ってきて、「ローナ、ローナ、みんな持っていかれちゃった。ベビーフードまで!」

彼女たちが帰ると、おふくろが俺の部屋に入ってきた。
「お見通しだよ。お前なんだろ?」
「俺じゃないよ、母ちゃん。ほら見てくれ」と、俺は言った。盗んだものは屋根の上に隠していたんだ。
「俺はずっとこの部屋にいたよ」
「いや、お前は正真正銘の盗っ人だ。私は生まれてから人様の物に手をつけたことは一度だってないのに。いったい誰に似たんだろうね」

なんてこった。自分の母親からこんなことを言われるなんて、信じられるか? 家族は俺に絶望していたんだ。俺は犯罪者の人生へまっしぐらと、みんなが思っていた。姉貴はしょっちゅう俺に、「飛べない鳥はどんな鳥? 答えは囚人(ジェイルバード)! 囚人よ!」と言っていた。

悪い噂が立ち、近所の人々は俺を毛嫌いし始めた。

それでも、悪行は止まらなかった。チェーンをつかんで持ち主を階段から引きずり落としても平気だった。かまうもんか。俺にはこのチェーンが必要なんだ。情けをかける必要がどこにある?

俺は誰からも情けをかけてもらったことなんてない。

いつか殺されるかもしれない。別にかまわなかった。どのみち16歳まで生きられるとは思っていなかった。不良どもからは勇敢な男として尊敬されるようになった。もちろん、こんなのは本当の勇気じゃない。ただ頭のネジが外れていただけだ。それは自分でもわかっていた。

第2回へ続く
 

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