本書に書かれていることは、きっとすぐには改善しないだろうし、簡単ではないだろうと思った。思い返したのは「遠くに行けない年寄の私にとって、お散歩の帰りに、こちらの書店で本を買って読むことと、お店に来て話せることが唯一の楽しみだ」と伝えてくれる何人かのお客様の言葉。気持ちだけで良くはならないと分かっている。けれど、私は、そうしたお客様の声がある限り、当店が存在する意味があると信じている。
長く愛されている書店でさえも、続けることが苦しい業界かもしれない。でも、マイナスのことを考えていたら、今、出来ることを逃してしまう。大事なことを見失ってしまう。私は、お客様の声や笑顔を一番に考えたい。色んな書店を見て合うものがあれば情報をもらい注文し、時には出版社に直接行って話を聞いて仕入れていきたいと思う。前を見てお店をもう一つの家にしたいと思っている。強くそう感じているのだ。努力し続けていきたい。否、いくべきだと思う。
先日、2巻が発売。「靴は口ほどにモノを言う」が決め台詞の主人公は、靴をじっと見るだけで、その人の体調や精神的な部分を瞬時に判断してしまう能力の持ち主。10円で靴を直してくれる。そんなに安い理由は、本書をお読みいただきたいのだが、私は、このコミックと出会って書店も同じだと思った。
入店された人が、どんな気持ちでいるかが分かる瞬間がある。こういう本を手に取ってくれたらいいなと願ったりすることもある。靴のようにメンテナンスは出来ないから、棚に思いを込めるしかない。人が前を向ける切掛けを作れるお店でありたいと思う。靴が身体を支えるように、書店も誰かの人生を豊かにする手助けが出来たら良いと強く感じた一冊。
今までの小説には音があった。音がリズムを作り出し、奏でていた。今回の作品は「音が消えるまで」とある。これはすごいと思った。
交響音楽でもコーラスでも大切にするのは、奏でた音楽や声が最高潮になり、盛り上がった後、どのように音を消していくかだと教わったことがある。波が遠くなりラストは無音となる。その後の拍手は最高だと思う。消える直前部分が大事なのだと感じた。「人生の最後のときを迎えるまで、どのように生きるのか」を問われている本だと思った。バカラを通じて人の持つ境地、一つのことを突き詰めた先にある「無」の境地に辿り着くまでを書いた作品であると思った。美しい音楽、そして静寂と出会ったように思う。
書店員は最高の仕事だと思う。650坪・100坪・45坪のお店を転々としつつ、歯を喰いしばりながら自分の信じる道をひたすら突き進んできた。お客様の一言に感極まって涙を流してしまうことも、心から笑い合うこともたくさんあった。見えない何かに焦る中で書店員や出版社が集まるイベント『ブックンロール』に登壇したことが転機となった。一番大事にしたいと思っている「接客」を取り上げてもらえたことが、本当に嬉しくて、心が軽くなった。そして、授かった小さな命。店頭から一旦離れるため、新刊を追うことが出来なくなる。
私の『これから売る本』も来月で最後となる。皆さんの文章を読むたびに、本への愛情が伝わって、負けたくないと思っていた。HONZと出会ったことで、新書の売上やビジネス書の売上、人文書の棚にも目を向けるようになった。書店員は発売される本を全て読めない分、HONZの情報を、もっと取り入れていくと良いなと思う。これからもチェックしていきたい。