プレミアム・レビュー

『かぜの科学:もっとも身近な病の生態』 祝!文庫化記念。

東 えりか2015年1月6日
かぜの科学:もっとも身近な病の生態 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

作者:ジェニファー・アッカーマン
出版社:早川書房
発売日:2014-12-19
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人は一生に平均200回の風邪をひくという。しかし予防薬もなければ特効薬だって現れない。もし一発で風邪が治る薬が発明されたら、それだけでノーベル賞ものなのだそうだ。風邪の一種だと思われていたインフルエンザはワクチンもでき、治療薬も数種類見つかっているのに、ポピュラーな風邪はどうして治せないの?

そもそも風邪ってどんな病気で、もし罹ってしまったらどうするのが正しいのか?日本の中だけでも民間伝承も多いが、果たして世界はどんな治療法を行っているのだろう、という疑問にサイエンスライターが挑んだ。

さて、本書は2011年2月に出版された単行本を文庫化したものだ。実はその年の1月にHONZの前身である「本のキュレーター勉強会」が発足した。この会は成毛眞ブログの募集によってはじまり、半年の勉強会を経てHONZへと移行したのだ。

当初、勉強会ということもあり課題図書を設けていた。『かぜの科学』はその4回目の課題である。各レビューア―は今のように達者ではないが、必死で本を読みレビューを書いた。本書の文庫化を祝い、当時のレビューを改めて読んでみてほしい。

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土屋敦

 

(副作用を伴いつつ)症状を和らげる薬はあっても、風邪を治す薬は今のところない。昨年出た『代替医療のトリック』という本には、エキナセアというハーブに、ほぼ唯一、少し効果がある、というエビデンスが見いだせるとあったはずだが、本書ではより改良された最新の研究では効果がない、と断じている。 

その意味で、現在の風邪薬も、本書でも触れられているような、ギリシア時代のネズミの鼻にキスをする(たしかに喉の痛みなど忘れそうな体験だ)、植民地時代のアメリカの、冷たい水に足をつける(私がラテンアメリカに行ったとき、人々はまだこの治療法を試みていて、熱帯熱という重いマラリアに罹った友人は、マラリアの熱と凍るような足の冷たさの両方に耐えなければならなかった)、1920年代には有毒な塩素ガスを噴射した小部屋に入る、といった治療法と、さして変わらないのだ。人は、喉のイガイガや痛み、くしゃみ、咳き、頭痛、熱、倦怠感などに耐えつつ、平癒するのを待つしかない。and more…

 

栗下直也

 

本書は風邪の解明に挑んでいる専門家のユニークな研究の紹介や、サイエンスライターである著者自らが風邪実験に参加したりして、かぜ(普通感冒)を科学的に検証しようとしている。

くしゃみによるウイルスの拡散の秒速だとかおもしろいデータは満載だが、読み進める内に、途方に暮れるかもしれない。風邪は神経質にならない限りひくし、普通感冒にこれといった治療方法はないのだというから。だが、そこが本書の醍醐味だ。風邪はこんなに身近な存在でありながら、本当のところ「よくわかっていないのね」という新鮮な驚きを与えてくれる。and more…

 

新井文月

 

前回の本のキュレーター勉強会で、装丁がいかに重要かが証明された。可愛いカバーだが、とにかく色使いが良い。最近、色々な商品を見る度にデザインが「進化」しているな、と感じる。それとは逆に前は最先端と思ったデザインも時間がたてば古さを感じてしまう。

今年に入りNPOの活動として、都内ホテルから廃棄される石鹸を回収していた。これが今は震災の影響もあり被災地に送る作業となっている。避難所ではまだ寒い場所もあるだろうし、風邪もひきやすいだろう。

本書を読めば風邪に対して正しい知識を得る事ができる。また実際にかかった場合でも冷静に対処できるようになる。身近な問題だけに興味深い。著者はナショナル・ジオグラフィックなどに寄稿するサイエンスライターだ。and more…

 

久保洋介

 

避難所では風邪が流行しているようだ。避難している方々は、国立感染症研究所等が情報提供をしているので正しい情報を入手して欲しい(http://bit.ly/e9Eim9)。
 

風邪ウイルスの感染拡大の源は、風邪にかかった人の鼻からの分泌物に含まれるウイルス粒子。大半の風邪ウイルスの場合、鼻と眼が主たる侵入口となる。ウイルスが侵入口に辿りつく経路は未だ解明されていないものの、空気感染説よりも接触感染説の方が有力だ。風邪の代表的な原因ウイルスであるライノウイルスは空気中で長く生きながらえることができないからである(一方、インフルエンザウイルスは空気感染が確認されている)。

風邪の病原菌を避ける最適な方法は実に簡単である。ウイルスの接触感染を防げばいいので、手を洗い、顔を触らなければ良い。後者は止めるのが難しい癖であろうから、前者の手洗いを徹底するのが良いだろう。洗面台と石鹸が手近にない場合は、アルコール手指消毒液でもいい。ただし指の間を含め手の表面にまんべんなく擦り込むのが条件だ(消毒液はウイルスより細菌に効力があるものなので、出来ればウイルスをより除去できる石鹸の方が良い)。ぜひ、風邪ウイルスに接触しやすい子どもに対して、手洗いを徹底するよう伝えて欲しい。and more…

山本尚毅

 

「現在のところ、私たちが風邪に打ち勝ったり期間を短縮したりするには信心しかなさそうだ」

根性論を思わせるかの一文であるが、個人的にはしっくりきているし、これが本書の結論なのではと考えている。僕は「風邪は感染しない」ということを長らく信じてきた(きっかけは姉の一言だった)し、本書を読んだとしても、未だにそれは覆らない。だって、かぜを科学している本書が信心しかないと言っているんだから。

「ヨウ素を飲めば、放射能対策によい」という誤報が流れた今回の原子力・放射能騒ぎ。風邪の治療法でも近しいものが過去にあったし、今回以上で、一時は治療法として認められていた。それは1800年代後半のこと。アメリカ大統領が風邪の治療に塩素吸入を一日一時間・三日続けて行っていたのだ。また、ビタミンCが風邪に効くなんてのは、ノーベル平和賞・化学賞を受賞した研究者が発表したことだが、科学的には効果がないとすでに解明されている(体には悪くないから、ヨウ素と違って引き続き人は騙されて摂取し続けている)。今このご時世なら、たとえ「風邪」だとしても、放射能で病気になったと言いかねない。それくらい「風邪」は解明されていない。and more…

このふたり、なぜかHONZサイトにアップされていないのでブログでどうぞ。

村上浩

 

第4回本のキュレーター勉強会課題図書
風邪をひきやすい人はもちろん、風邪と人間の闘いに興味のある人におススメ

装丁の可愛らしさから課題図書に選ばれた本書には、風邪予防に関する様々な情報が満載である。
本書を読めばもう風邪なんか怖くない、と書こうと思っていたのだが、読了3日後にしっかりとかぜをひいてしまった。。。

本書の副題に「もっとも身近な病の生態」とあるように、風邪は誰にとっても身近な存在であり、風邪にかかったことが無いという人はいないだろう。様々な民間療法があり、「私はこうすれば風邪が治る」「私はこうしているから風邪にかからない」という独自の方法を持っている人も多いと思う。しかし、それらの方法の多くはプラシーボ以上の効果はないだろう。本書には、我々が当たり前に行っている風邪予防の無力さを示す例が山盛りなのだ。例えば、殺菌効果をうたう石鹸やシャンプーは風邪の病原体に全く効果を発揮しない。発揮しない場合もある、ということではなく、全く効果がないのだ。and more…

 

東 えりか

 

年が明けてしばらく経つと「そろそろだねぇ」と言い始める人がいる。花粉症だ。アレルギーのない私は、時限爆弾を抱えているように、毎年、発症を恐れている。ちょっと鼻がグズグズすると、さてはと身構えるが、どうやら今年も大丈夫だった。鼻かぜだったらどうってことない。

幼いころから一番身近な疾病は風邪だ。万病の元とも言われるが、たいがいは喉が痛くなって鼻水と咳がでて、ちょっと重症だと発熱する程度。身体の節々が痛くなり高熱に浮かされるのはインフルエンザという別の病気だと知ったのはつい最近の話である。では風邪は今どこまで解明されているのだろう。

その疑問を解決してくれるのが『かぜの科学』である。可愛い少女がくちゅんとくしゃみをしているカバーイラストが可愛らしい。著者は「ナショナル・ジオグラフィック」や「ニューヨーク・タイムス」に寄稿するサイエンスライター。本書を読むと、その仕事を心から楽しんでいる様子が手に取るようにわかる。誰が好きこのんで、風邪のウィルスを身体に感染させて実験台になるというのだろう。それがいくらいいアルバイトだとしても。and more…