おすすめ本レビュー

『ひとり飲み飯 肴かな』 酒と食の最強のコンビネーションを探る

栗下 直也2015年7月10日
ひとり飲み飯 肴かな (NICHIBUN BUNKO)

作者:久住 昌之
出版社:日本文芸社
発売日:2015-06-27
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誰の目も気にせず、飲みたい酒と食べたいものの組み合わせを心ゆくまで味わいたい。至福の時を過ごしたい。それが「外飲み」では得られない、「ひとり家飲み」の醍醐味だ。本書は「ひとり家飲み」の素晴らしさに触れながら、著者が多様な酒と飯の組みあわせを楽しむ。酒飲みをうらなせる。

 
「チャーハン」で「焼酎ロック」、「ツナトーストサンド」で「水割り」、「宅配ピザ」で「コークハイ」、「シウマイ弁当」で「缶ビール」、「うどん鍋」で「どぶろく」、「焼きそば」で「ホッピー」、「焼きビーフン」で「紹興酒」などなど、その数、全21。王道からキワモノまで組み合わせは豊富だ。
 
「単なる酒の本をHONZで紹介するな!」と突っ込まれそうだが、馬鹿を言っちゃいけない。本書は著者の「血」と「汗」と「涙」の結晶なのだから。最適な「酒と食」の組み合わせを求め、幾度と無く襲われたであろう「腹痛」と、「悪酔い」を乗り越え、「吐瀉物」を流し続けた末に生み出された究極のコンビネーションなのだから。ひとつひとつに苦闘ならぬ、苦悶の歴史があるのだから。これをノンフィクションといわず、何がノンフィクションだ、馬鹿野郎!
 
と、なぜかブチ切れて読者をバカ呼ばわりして『ひとり家飲み 通い呑み』のレビューを書いたのは3年3ヶ月前。タイトルに負けまいと、ひとり自宅で飲みながらフラフラになってレビューを書いた思い出の一冊が、『ひとり飲み飯 肴かな』とタイトルを変え、文庫になったのだから見逃すわけにはいかない。
 
単行本を持っている場合、文庫化された際に買い求めることはあまりない。装丁や解説は気になるが、懐にも限界がある。
 
今回手が伸びたのは大増量されているからだ。222ページ中、56ページが文庫オリジナル。第三部「これ喰ってシメ!」まるまる新たに収録し、600円台は安い。安すぎる。
 
内容がまた良い。飲んだ後に、何でシメるかは酒飲みの永遠の課題である。ラーメンを食おうか、茶漬けを食おうか。無難に選んだシメの一食が全てをぶちこわすこともあれば、変化球なシメが酒でタプタプな胃袋と協奏曲も奏でることもある。
 
「カレー」、「蕎麦湯」、「そうめん」、「ホットコーヒー」、「ホテルの朝食」など14のシメの一品が並ぶ。
 
最も唸ってしまったのが「水」。確かに飲んだ翌朝の起きがけの水ほどうまいものはない。想像するだけでよだれが出てくる。これからは、黙って、水を飲んでりゃいい気がしてくる。『孤独のグルメ』の原作者の文章を読むと、とたんに水道水も愛おしくなるから不思議だ。
 
それにしても、何でシメるかにこだわるなんてやはり日本人は食にうるさい。
著者もこう書いている。
四六時中、若い女とヤルことばっかり考えている男は、ド助平と嫌われる。イイ男にチヤホヤされると、誰にでもすぐについて行く女は、淫乱と嫌われる。だが、日本人は食欲がド助平だ。食うことに淫乱だ。テレビをつけても雑誌をめくっても、食欲刺激ものだらけだ。「おいしい!」というのは性欲にたとえればよがり声だ。テレビをつけるとよがりまくってる。
 
いろいろ食いまくりながらも、「水」に行き着くなんて変態プレイーで散々よがりまくった挙句、ノーマルになるようなものか。ちょっと違うか。こちらのシメはイマイチか。