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『ワーク・ルールズ! 君の生き方とリーダーシップを変える』

版元の編集者の皆様2015年8月2日

著作権仲介エージェントという職業をご存知だろうか? 海外の権利者と国内出版社との間で、翻訳出版権の仲介など行うプロフェッショナルである。その業界最大手となるのが、タトル・モリエイジェンシー。ビジネス書大賞を受賞した『ゼロ・トゥ・ワン』や、最近HONZで話題になった『ホワット・イフ?』や『マスタリー』等も同社の仲介であったという。

 

つい先日発売されたばかりの『ワーク・ルールズ!』を、同社が国内の出版社にセールスしたのは2年も前のこと。そこで今回はノンフィクション部門を統括する玉置 真波氏に、エージェントとしての視点から本書の魅力をご紹介いただきました。(HONZ編集部)

ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える

作者:ラズロ・ボック 翻訳:鬼澤 忍、矢羽野 薫
出版社:東洋経済新報社
発売日:2015-07-31
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グーグル会長のエリック・シュミットが、自著『How Google Works』の中で二度にわたり、「まもなく人事部のトップが人事全般を扱った本を書くから」と触れていたことをご記憶でしょうか。その後、来日講演やインタビューの中でも言及されています。つまり、執筆されるはるか前にグーグル社内からも期待を寄せられていた作品、それが『ワーク・ルールズ!』 です。

約10億人が利用するグーグルマップや自動運転する車をはじめとし、とどまることなくイノベーションにまい進し、私たちに驚きと感動と便利さを与えてくれるグーグル。

それを可能にするのは世界中から優秀な人材が集まることで知られるグーグルの人事があってこそ。その採用基準や育成、評価、報酬政策について、本書にて公開、詳細とともに解説しています。

著者はグーグルの人事トップをつとめるラズロ・ボック。彼の経歴と本の内容をあわせみると、グーグルの求める社員像であるスマート・クリエイティブを体現した人物のように思えます。彼が人と企業の間には信頼をベースにした組織構造がいまだ確立されておらず、根底から職場を変える可能性を秘めている分野であることに気づいたのは20代半ばのこと。

定評のあるGEの人事部に在籍した専門性を持ちながら、とかくブラックボックスになり、不平と不満と憶測が支配しがちな人事の分野に、ミッションを中核に据えた公平で透明、だれもが発言権をもつ社内環境を実現する革新的な人事体系づくりを志したのです。創業者らの理念を発展させる形で進化しつづけるグーグルの人事には、日々、綿密なデータ分析と検証、改良が加えられ、精度をあげてきた手法の一部が本書から読みとれます。

たとえば、採用。もっとも大切な社としての活動と位置づけ、社員全員が採用にあたる体制の中で面接官の好みやバイアスを排し、おなじ基準で候補者を見極めるにはどうしたらよいのか?質問を共有し、候補者を比較しやすくする。専門分野をもつ聡明なジェネラリストを採用するために、複数の能力を見極める試験を組み合わせる。ふさわしいと確信がもてなければ、誤った選択をするより、採用しそびれることを優先する。妥協はしない。

たとえば、評価。一般的にはもっぱら管理職の役割とされているが、グーグルでは「そもそも管理職は必要か?」という社内実験をするほど、ある時期までマネジャーの有用性は疑問視されていた。結果はイエス、いないと組織運営上、困ることが実証されたのだ。ただし、昇級降格や褒賞などの権限はもたない。コードの品質判定や商品サービスの最終決定権もない。チームを目標に導く責任と、メンバーが目標を達成できるように支援することを丸腰で求められる。

他に100倍の差がつく報酬のことや、なにかと話題になる福利厚生、最下位5%の社員に力点を置いた育成 (費用対効果が抜群に上がる) などを取り上げています。

全編をとおして、学術論文をベースにした社内実験や社内調査の結果がちりばめられており、大学の研究室の雰囲気を再現したかったという創業者談が思いだされる。本書には、豊富な資金力と精度をあげ切る執念に裏打ちされた、創造性に富んだ母集団6万人の企業だからこそ得られる知見が多く含まれることに気づかされます。

ここで疑問がわくのは、なぜグーグル幹部は立て続けに会社の文化や貴重な仕組みを公開する本を書くのか、ということ。

創業から18年間で売上高8兆円、営業利益2兆円 (2014年度・週刊東洋経済調べ) 企業に成長し、すさまじい勢いで進化をつづけるグーグルの恩恵に預かりながらも、その力への懸念がふくらむのは自然な流れでしょう。大企業としては顔の見える存在となり、情報を開示することで世の不安を少しでも和らげたいという思いもあるのかもしれません。

本作はどのような方に読んでいただけるだろうか。

まずはグーグルが気になって仕方ないという方、経営者、起業家、人事関係者は手に取ってくださるのではないだろうか。

次に、世界23カ国で刊行予定のビジネス界の話題作であることに関心を寄せてくださるビジネス・パーソン。

そして、働く人と企業の互恵関係を説く『アライアンス』の読者や、未来の働きかたをとりあげた『ワーク・シフト』などの読者にも考えを深めるヒントがあるのではなかろうか。

40代前半の著者が9年間で成し遂げた仕事を目のあたりにして、世界で活躍する次世代ビジネス・リーダーの存在に大いに奮い立つという読み方もあるかもしれない。

著者いわく、憧れの職業にはあがることのない人事分野に活路を見出した着眼点は、自分の道を模索する学生さんや社会人を刺激するのではないだろうか。

書店に並ぶ『ワーク・ルールズ!』をぜひ手に取られ、感想をアップすれば、それをまた著者はフィードバック材料として検証するかもしれない。その検証の結果も、著者に聞いてみたいところである。 

2年前に東洋経済新報社の佐藤朋保さんに落札いただいた本書はつい先日発売され、評判も上々とのこと。国内のより多くの方に読まれ、日本人の働き方に大きな変革をもたらすことを、願ってやみません。
 

玉置 真波 株式会社タトル・モリエイジェンシー。ゼネラル・マネジャー兼ノンフィクション部門部長 。『ゼロ・トゥ・ワン』『ゼロベース思考
スタンフォードの自分を変える教室』『リーン・イン』『わたしはマララ』『GIVE&TAKE』などの書籍を日本に紹介している。