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『BE KOBE』「私」を主語に取り戻す

峰尾 健一2015年12月29日
BE KOBE 震災から20年、できたこと、できなかったこと

作者:
出版社:ポプラ社
発売日:2015-12-07
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2015年は色々な意味で「節目」だったと思う。後々振り返られるであろう出来事がたくさん起き、多くの歴史的瞬間から「何十周年」という区切りの年でもあった。

防災に関して大きな分岐点となった阪神・淡路大震災から20年。それからの神戸、そしてそこで暮らす人々の気持ちはどう変わってきたのか。本書は神戸で震災を経験した3人のライター(青山ゆみこ氏、西岡研介氏、松本創氏)が、様々な活動を通して神戸に関わり続ける13人にインタビューした1冊である。

防災やコミュニティ作りに関するNPOで働く人。復興庁で東日本大震災の復興推進参与に携わるなど、東北復興にも奔走している人。震災当時、神戸大教授として被害を受けた建物の調査を取りまとめた防災学者。日本だけでなく、世界初の学科でもある「環境防災科」を持つ兵庫県立舞子高校の初代科長とその元教え子たち。鳥の視点から見た神戸の街を描く「鳥瞰図絵師」。職業から世代、震災経験、神戸との関わり方に至るまで、実に多様な人々が登場する。

当然のことながら話題は多岐にわたるのだが、いくつかの軸を見い出すことはできる。

まずは「時間」である。再開発によって復興が進んだ一方、昔ながらの商店街がなくなり街並みが変わってしまったという側面もあること。神戸での経験をもとに、中越地震、中越沖地震、東日本大震災の現場で支援にあたってきて、経験が活かせたこと、活かせなかったこと。20年が経って震災を体験していない市民が4割を超え、市の職員も半数近くが震災を知らないこと。積み重ねてきた成果や、新たに生まれた課題など、長い時間を経たからこそ語れることがある。

そして、国際都市として知られる神戸の「多様性」。震災当時、店長をしていたフィリピン人向けのレンタルビデオ店に避難情報を求める電話が殺到したことがきっかけで、外国人住民たちの待遇改善に取り組み始めた人がいる。言葉の壁や医療の受けにくさ、不安定な在留資格といった「災害時に表面化する問題」は、結局それ以前の社会に根っこがある。多様性という視点から始まる災害対策もあるのだ。

神戸といえば、住む人たちの地元愛が強いことでも有名である。役所によるお仕着せの「まちづくり」や「住民参加」ではなく、自分で企画を立ち上げて人を集め、ゲリラ的に震災後の街を盛り上げてきた人や、地元の結びつきの強さを活かして「まちの出版社」のようなものを作ろうと考える人がいる。

こうした20年間の取り組みや新たな課題について知ること自体も興味深いのだが、本当のメッセージは別のところにあるだろう。本書がどのような思いで作られたのかがよく分かる、あとがきの文章からいくつか引いてみる。

命の尊さ。地域コミュニティの大切さ。住民主導の復興。安全安心なまちづくり。備えの重要性。自助・共助・公助……。阪神・淡路大震災の後、そんな言葉がいくつも、何度も繰り返し語られた。

けれども、角が取れて、つるりときれいに丸まった標語やスローガンからは、ほとんど何も感じ取ることができない。漠然としたイメージは伝わっても、顔の見える誰かの、ほんとうに切実な思いはそこにはない。

言葉は箱、思いが中身だ。誰が、どんな経験をして、何を考え、悩んだり迷ったりしながら、その言葉を紡ぐに至ったか。そこがわからなければ、いくらきれいな「教訓」を唱え続けても箱は空っぽのまま。誰にも届くことなく、やがて忘れさられる。 

だから、私たちは一人一人の、個人的な震災の話を聞こうと思った。1995年1月17日の朝から始まった歩みと、「被災地」という言葉なんかではくくれない神戸への思いを、できるだけ詳しく。失敗や後悔や疑問に思うこと、やろうとしてできなかったこともすべて。 

復興や防災やまちづくりについて、「こうあるべき」という意見はたくさん飛び交っている。普通に生活しているだけでも、様々な「世論」が流れてくる。「社会」や「世の中」が主語である以上は、本当に関心を持つのは難しいし、忘れるのも早い。

この本に書かれているのは、13人それぞれの「私」の話である。だから、神戸は今どうなっているかという「情報」だけで終わらせてはいけないだろう。

読みながら「それで、自分はどうする?」と考える。いや、読んだ後にこそ考える。自然災害という、いつこの身に降りかかってくるか分からない話の主語から「私」をなくさないためにも、なくなりかけた時に気がつくためにも、読み継がれて欲しい1冊だ。

できることをしよう。: ぼくらが震災後に考えたこと (新潮文庫)

作者:糸井 重里
出版社:新潮社
発売日:2015-02-28
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