あの日あのときあの本屋で、この本に出会わなかったら〜♫ と思わず歌いたくなる面白さ。読んでいなかったら、今日という日は寂しいものになっていたでしょう。物好き(失礼!)な著者が、日本どころか海外までも珍スポットに出かける漫遊記。なんですがこれがもう……
この本を書いた、金原みわさんの紹介から始めよう。
「珍スポトラベラーとして、全国の珍しい人・物・場所を巡りレポートしている」とプロフィールにはあり、あの都築響一さんのメールマガジン『ROADSIDER’s weekly』でも記事を連載していて、人気を博しているとか。プロフィール欄には、「ハイエナズクラブや大阪奇食倶楽部に属し、イベントも定期開催している」と、知っていて当たり前のように書いてあるが、ハイエナズクラブってなんだろう。リンクを貼っておくので興味のある人は適宜追いかけるように、どうぞ。
所属先に興味を惹かれつつ、本を一言で表すと「遠くにあるようで日常のすぐそばにある『さいはて』を巡る旅人、金原みわの旅の記録をまとめた紀行エッセイ集」と帯にある通りなのだけれど、この「さいはて」となる各場所各人物が読んでいておもしろいのは、金原さんが出かけて行っての化学反応があってこそ、というのが、単なる珍スポ紹介本とは一線を画すところだと思う。
目次には、「さいはて」の分類があり、「性のさいはて」(以下「のさいはて」同)=生命の潮吹きストリップ、「罪」=刑務所で髪を切るということ、「水」=淀川アンダーザブリッジ、「異国」=タイのゴーゴーボーイズ、「食」=ゴキブリ食べたら人生変わった、「宗教」=キリスト看板総本部巡礼、「夢」=最高齢ストリッパーの夢、「人」=じっちゃんのちんちん、と続く。
最初の章で、老女ストリッパーに「潮を吹いてもらう」ところはのっけからすごいのだけれど、もっとすごいのはその後の帰りがけの行動だ。書くともったいないので読んでもらいたいが、ここで私はこの本にすっかり引き込まれてしまった。
続く「淀川アンダーザブリッジ」の章で私が好きなところを紹介してみよう。
「犬、見せたろかぁ? こっちや」
そう言って、おじさんはホームレスハウスの中に入って行った。
どうしたものかと一瞬躊躇する。付いて行くべきか、行かないべきか。
常識的に考えると明らかに付いて行くべきではないのだけども、それよりも、この部屋の中がどうなっているのか気になる。ここの住民が、どうやって暮らしているのか気になる。
おじさんに続いて、ホームレスハウスに入って行った。……そのうち私は、好奇心に殺されると思う。
この「好奇心に殺される」とわかっていながらも、ついつい深みにはまっていくやるせなさときたら。かわいい犬につられて危ない人についていっちゃいけません! が、ここでまた、ぐぐっと来た。前後するが、こんな一言も。
この長屋、実は結構開かれているらしく、ホームレスもホームレスでもない人も集まっているようだ。
もっともここの住民が正式にホームレスなのかと言ったら、それは違うのかもしれない。こんな立派なホームがあるのだから。
と、なんだか考えさせられる言葉がぐいっと心臓に迫ってくる。のほほんと読んでいたら、後ろから袈裟斬りなんである。
淀川といえば、新幹線からも見えるあの川だ。大阪の人にはとても身近な存在だろう。その身近なところに足を運ぶだけでも、こんな景色が見えるなんて。
各章がそんな具合なのだが、珍スポトラベラーとしての面目躍如たるページも目白押しだ。
(ここからは、「G」として忌み嫌われるあの黒い虫も出てくるので嫌いな方は要注意です)
「ゴキブリ食べたら人生変わった」の章にはのけぞった。
奇食という険しい道のりを挑む金原さんがたどりついたのは、ウーパールーパーにダイオウグソクムシ、カラス、ヒグマ、アライグマ、ヌートリア、ユムシ、クリオネ……っておーい、最後の方はもう何なのかがよくわからないんですが、奇食に貴賎はなし。
その末に、日本で唯一ゴキブリを食べさせる広島の中華料理店へと足を運んだのだという。そこで、ご本人も意表をつかれたようだが、読者ものけぞる言葉が登場する。
お待たせいたしました、ゴキブリになります
この店員の無駄のない適確な言葉とともに運ばれたきた「それ」。
このめったに聞けない台詞を、私は数回音読してしまったほどだ。
そのお店のメニューがこちら。……ほかもすごい。
長くなってきたので、宮城県某所のキリスト看板総本部への巡礼については、写真を紹介しておこう。
最後のじっちゃんの話にはしんみり。
だけど、それだけではないなにかがある。あああ、うまく説明できない。この凄みは読んでもらわないと。
この本の帯には「都築響一氏、震撼」とあり、不思議なカバーの趣に手に取ってその帯を見た瞬間にそこで即買い、見逃せなかった。そしてその期待は、読書中まったく裏切られる事がなかったのである!
最後の都築さんのあとがき「珍スポットのデスティニーズ・チャイルド」に、うまくいえない読後感を代弁してくださる言葉があったので紹介しておこう。
ことさらに近づくというよりも、最初はおもしろがって見に行くだけなのに、気がついてみればどんどん引き寄せられ、色に染められ、感化されていく……(中略)……そういうこころの動きが、踏み込み方の足取りがそのまま文章化されていて、これはぜったいに僕には書けないと打ちのめされた。こんなふうに、出会いを運命として、その流れにあえて身を任せることは、僕にはできないから。彼女はそういう「運命の子」なのだろう。
この人がいることで変わっていくなにか。そのなにかをどきどきしながら読み進める気持ちよさ。
文庫サイズのこの本を読み終えるのは、ほんとうに寂しかった。
(※写真2点ともに 金原みわ/シカク出版)
最後に、金原みわさんのブログも御紹介しておきます。
都築響一さんの本も合わせて、お勧めいたします。