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『非モテの品格 男にとって弱さとは何か』ルサンチマンを超えた先にあるもの

篠原 かをり2016年11月4日
非モテの品格 男にとって「弱さ」とは何か (集英社新書)

作者:杉田 俊介
出版社:集英社
発売日:2016-10-14
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タイトルを見て思わず手に取った。面白そうだと思ったのではない。憤慨したのだ。

はっきり言って私はモテない。メディアに出れば、ネットの掲示板には「ブス」という心無い言葉が流れる。だから、モテないことには一家言もっている。

だが、このタイトルには全く同調できなかった。

男はたとえ生まれ持った容姿に恵まれなくとも、筋肉をつけ、身なりに気を使い、学歴や財力、権力、そして小粋なトークでもできれば、間違いなくモテるようになれるだろう。これら全ては後天的な努力で手にすることができるものばかりだ。努力が足りないだけなのに「弱さ」とは一体何事かと憤りながらページをめくった私は、後頭部を殴られるような衝撃を受けた。

「ふと、自殺した友人や知人たちの顔を、今でも思い出すことがある。」という書き出しから始まる冒頭には、社会の期待するマッチョな男性像に絡め取られ、声を上げることもできないまま死を選んでしまう男性たちの姿が克明に描かれていた。

どこまでもマッチョな男性へ努力し続けるべきという私のような考えこそが、多くの男性の心を殺してきたのだろうか。

著者はフリーター経験をもとに『フリーターにとって「自由」とは何か』(人文書院)を刊行したり、障害者ヘルパーに従事するなど異色の経歴をもった批評家だ。男性自身がもつ男性嫌悪、自殺、被害者意識、マジョリティーとしての痛みなどの事例をとりあげて、男の弱さについて訴えている。

表題の「非モテ」へと言及され始めるのは1/4ほど読み進めた頃である。「誰からも愛されないことは、どうして、こんなにも苦しいのか」ーーー 著者自身の経験から綴られる切実な言葉は胸を突く。

非モテにも種類がある。そこに客観的な基準は存在しない。恋人がいなくても非モテに苦しんでいない人は「非モテ」ではないが、反対に恋人がいたり、複数の人から愛されていても非モテ意識に苦悩する人は「非モテ」の当事者である。

「社会的にうまくいっていない自分に、異性と付き合う資格などない。」「もう自分には、セックスも恋愛も結婚も、一生ムリだ。」と思いつめてしまう人は意外に多い。

中でも著者が特に注目しているのが「性愛的挫折」がトラウマ化し、あたかも人格の一部となって、常日頃から非モテ意識に苦しめられるタイプだ。

この状態の怖さは、永遠にやむことのない不能感や空洞化にあるという。人恋しさを満たすためではなく、世界全体を意味あるものにするためにも恋人の存在が必要だったのだ。

非モテであるという自己卑下や自虐を繰り返すたびに、そのアイデンティティーは強固になる。非モテは、ある種の性依存のようなものではないかと著者はいう。性的な承認こそが一番重要な価値であると考え、それを過剰に求めてしまう。この性依存はやがてルサンチマンへと変わる。

著者は自身の非モテ意識を、職業や社会的地位、容姿や才能などの社会的な属性を超えて、自分の存在そのものを無条件に肯定してほしいという願望であると分析している。そして男の弱さとは、自分の弱さを認められない、ねじれた弱さにある。自己肯定に裏付けられた道徳は何物をも否定しない。反対に他者の否定から始まり、そうでない自分は正しいと結論づける奴隷的な道徳は本人すらも気がつかない疚しさを抱えている。

この本は決してルサンチマン、それ自体を否定してはいない。ルサンチマンが存在してしまう以上、それをありのままに受け入れ、深く掘り進めていくことが重要だ。暴走したルサンチマンは善良な人間を他人への暴力や自殺に追い込んでしまう。

男らしさとは、決して異性にモテることや力が強いこと、甲斐性があることではない。泣かないことや弱音を吐かないことでもない。今から固定観念を放棄して、自分たちの手で新しい男らしさを掴んでいかなければならない。これは男性だけに課せられた仕事ではない。女性にも新しい男らしさについて考える義務があるだろう。選択肢は無限に広がっている。

著者は本書を通して、何度も何度も読者に声援を送る。「たとえ、誰からも愛されなくても、前を向いて生きて行く。それはできる。本当にできることなんだ。」「誰も傷つけずに。優しく。不要な自己卑下もせずに。自分の体を大切にして。どうか、君が君自身を嫌悪したり、自信を失ったり、自らを傷つけたり、殺したりすることがないように。」

諭すように励ますように祈るように訴えかけてくる言葉は、ルサンチマンを抱えた心にもじわじわと染み込んでくる。

すごい本がでてきたと思った。

タイトルだけが残念だと思って読んでいたが、ふと、このタイトルでなかったらこの本を手に取らなかったかもしれないと考えた。

「非モテの品格」という軽口のタイトルに「男にとって弱さとは何か」という少し引っかかる副題は私たちの心に違和感という種を植え付ける。どうかこの違和感に目を止めて欲しい。それは多くの人々が抱えている違和感そのものなのだ。