HONZ活動記

『MUJI式 世界で愛されるマーケティング』時代や文化を超える、暮らしの普遍性とは何か?

刀根 明日香2017年1月23日
MUJI式 世界で愛されるマーケティング

作者:増田 明子
出版社:日経BP社
発売日:2016-11-17
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特徴のないことが、特徴になるブランド?

『MUJI式 世界で愛されるマーケティング』は、無印良品の商品開発やブランドを理論と実践の二つの側面から解説した一冊だ。ブランドのエッセンスが非常に容易な言葉で描かれており、MUJIの世界観を分かりやすく伝えてくれている。

私が初めて無印良品と出会ったのは、コンビニで文房具を買った時のことだったと思う。コンビニなのに明らかに洗練されたノートやペンが揃っており、それ以降は無印良品を探してコンビニを何件かはしごしたこともあるくらいだ。

しかし本書の冒頭を読み始めたら、その時「洗練された」と感じたのが記憶違いだったのかもしれないと思うほどの衝撃を受けた。そこでは、以下のように説明されている。

MUJIは、世の中のいろいろなブランドに対して、「特徴がない」ことが特徴となれるブランドなのである。

つまり「特徴がない」はずのものが、私の目には「洗練されたもの」に映ったということだ。これがマーケティングというものの持つ力なのだろうか?

さらに印象的だったのは、MUJIブランドがバブル期へのアンチテーゼから始まったということである。ブランド全盛の時代にブランドを否定したことが出発点だったのだ。

しかし当時はアンチテーゼとなる考え方だったかもしれないが、今は断捨離だったり、ミニマリズムだったりと、いわゆる「引きの美学」こそが王道になっているような気がする。それでもなお、時代を超えてMUJIが独自性のあるポジションを維持できているのはなぜなのだろうか?

そんな疑問を考えていた矢先に、本書の読書会があるという話を人づてに聞き、興味を持った私はさっそく参加することを決めた。

どうして他社には真似出来ないのか。

著者の増田さんは、イタリアへの留学中、インターンシップをしていた商社で「MUJI ITARIA」の開店プロジェクトへ参加する。日本に帰ってからも良品計画で働きたいと思い、自ら会長へアポを取り、入社の約束を取り付けたという逸話を持っているとか。

日本では商品開発部門に所属しながら海外へ発信していく役割を担っていたが、現在はMUJIを卒業され、アカデミックな世界でマーケティングを研究する立場に変わっているそうだ。

著者の増田 明子さん

読書会が始まったばかりの頃は、皆の話がなかなか頭に入らないほど緊張していた。目の前の人が普段何をしている人で、何歳で、お酒が好きなのかどうかが分からない。共通点はMUJIが好きということだけだ。私なんて相手にしてもらえるのだろうか・・・。

総勢30名ほどの、参加者たち

4人グループに分かれ、Q&A方式で読者会は進んでいく。すると次から次へと質問が飛び出してくる。なんといっても一番多いのは、コンセプトに関する質問であった。
「どうしてコンセプトを、こんなにも長く具現化できるのか。」
「たくさん商品があるなかで、コンセプトがブレないのはなぜか。」

ワールド・カフェ方式にて進行

会場が質問で熱気を帯びてくるにつれ、私もいつの間にか、自然に周囲の人と話ができるようになっていた。こうなると、なんだか楽しくなってくる。

まだ私が緊張していた序盤の頃

増田さんのお話の中で、何度も出てきた言葉がある。それが「MUJIっぽい」という言葉だ。

MUJIは基本方針として「感じ良いくらしの実現」を掲げている。
つまり生活を快適にする商品を幅広く品ぞろえすることによってこそ、MUJIの世界感は伝わる。
「感じ良いくらし」という、とても広く、普遍的なことを追求しているからこそ、世界の人に愛されるのだ。

要は、「きちんと人のために、くらしに役立っていること」がエッセンスなのである。

それはMUJIが日本仕様の商品のままで、多くの国に展開され、多様な文化系で受け入れられているという事実からも裏付けられる。ただし言うは易し、行うは難しである。具体的に、海外向けの商品を作るうえで、どのようなトライ&エラーを重ねてきたのかというお話も伺うことができた。

以前は、欧州での商品は現地の商品部メンバーが担当していたという。出店が増えていく中で、品ぞろえが日本と大きく違う印象になったことが課題となり、現在は日本のオリジナル商品による世界標準化が進められている。その中には、上手くいかなかったこともたくさんあるそうだが、人々の生活文化を越えて本能的に「心地よい」と感じる商品を追求してきたということに変わりはない。

皆で気になることを、次々に書き出していく

さらに議論を重ねていくうち、私たちのグループでもMUJIのコンセプトを模倣困難にしている一つの答えが見つかった。それは「伝承」の力にあるのではないだろうか。

ノーブランドであることがブランドとしての地位を確立しているように、MUJIは多くの矛盾を抱えながらも、そのバランスを40年間維持し続けている。その中心にあるのが、言葉の力だ。

商品を大きく差別化するものが商品のみならず、商品の外側にも存在しているということは興味深い。そして買う人達にも、商品を開発する人たちにも、その「考え」をきちんと伝えていこうというする姿勢に、大きな秘密が隠されているのだと思う。

はじめての読書会を終えて

MUJIのブランドについて考えていたはずが、いつの間にか「暮らしの普遍性」について考えているーーそんな不思議な感覚があった。「普遍的であるかどうか」を、一人で考えるのはなかなか難しい。しかし年齢や業界の異なる様々な人が集まり、多様な視点から眺めれば、普遍性を見極めることはぐっと容易くなる。MUJIの中でやっていることも、そういうことなのかなとおぼろげながら輪郭を感じ取ることができた。

読書の延長線上には、まだまだ広い世界があるなと確認できたことも、新鮮であった。この体験は、HONZの朝会等とも決定的に違うものである。なにしろHONZの人は、私が話をしていても誰も聞いてくれない(笑)。

HONZの朝会は、人を通じて本を知るところ。でも今回のような読者会は、本の話を通して参加者の人となりや、自分自身を知る場所でもある。いずれにしても、本も人も私の世界を広げてくる存在であることに変わりはないと再認識した。

最後になりますが、著者の増田 明子さん、読書会に招いていただきました中小企業基盤整備機構の岡田 恵実さん、関係者の皆様、参加者の皆様、貴重な体験を本当にありがとうございました。 

ちなみに最後列の左から5番目が、HONZ新メンバーのブルマー小松。
こんなに早く生ブルマーを拝むことができるなんて!

<イベント主催:中小企業基盤整備機構 TIP*S