今年で2回目を迎えた、ビジネス書グランプリ2017。このアワードのコンセプトは「ビジネス書を評価するべきは、ビジネスパーソンではないのか?」というものであり、あくまでも読者目線で本を評価していく点が最大の特長だ。
HONZとしては、そこへさらに「それがビジネス書かどうかを決めるのも、ビジネスパーソンでではないのか?」という疑問を投げかけたわけである。その結果、多種多様な本がノミネートされ、充実したラインナップに数多くの投票をいただくことが出来た。
本日、満を持して投票結果が発表になった。まずは総合のTOP3から紹介していきたい。
未来を予測することは難しい。これだけ変化が激しくなっている世の中では、無理もないのかもしれない。それでもさまざまな観点から考察すれば、確実に訪れるであろう不可避な未来を見つけることはできる。
個人レベルで考えれば、多くの人が人生100年時代を迎えるということがあげられるだろう。この「長寿化」を恩恵に変えるためには、これまでとは考え方を変えていく必要があるというのが本書の骨子だ。
人生のステージは、「教育→仕事→引退」という3つのままで良いのか? 本書「ライフ・シフト」は、100年時代に人生のステージをどのように構築するべきかを問いかける。
年齢の異なる3人の人物をモデルに、ライフステージをこれまでの3.0から3.5、4.0へと拡張し、シミュレーションしていく。その際に着眼点となるのが、無形の資産である。お金には換算できないが、人生にはたくさんの資産があるのだ。仲間や評判といった「生産性資産」、健康や幸福のための「活力資産」、そして新しい経験に飛び込んでいく「変身資産」。
「働き方改革」というワードが叫ばれがちな昨今ではあるが、会社主導だけで推進していっても、その効果はたかが知れているだろう。会社を人生のパーツの一部として、資産を獲得する方法の一つへと相対化し、自らの手にイニシアティブを取り戻す、そのためのヒントに満ち溢れている一冊だ。
無形の資産となる「生産性資産」や「変身資産」。これを構築するための示唆は、『インターネットの次に来るもの』からも得ることができる。 過去、現在、未来へと移り変わるテクノロジーの変化を進化論のように観察していくと、一定の法則性が見つかるという。本書は、それを「未来を決める12の法則」としてまとめた一冊だ。
12の法則は、いずれも現在進行形の動詞であり、具体的にはBecoming(なっていく)/Cognifying(認知化していく)/Flowing(流れていく)/Screening(画面で見ていく)/Accessing(接続していく)/Sharing(共有していく)/Filtering(選別していく)/Remixing(リミックスしていく)/Interacting(相互作用していく)/Tracking(追跡していく)/Questioning(質問していく)/Beginning(始まっていく)というもの。未来へ向かう世界の中で、あらゆる概念が動詞化していく。
著者のケヴィン・ケリーは、「流れの原動力であるプロセスの方が、そこから生み出される結果より重要である」と結論づける。すべては流れであり、完成品というものは来ないし、完了するというステージもない、と。
だから、我々は変身することに臆する必要はないし、テクノロジーの変化に対してどこか受け身でありながらも、ポジティブな態度を取り続けていかなければならない。それがビジネスマンとしての無形の資産を形成することへもつながっていくことだろう。
われわれ人類を人類たらしめているものは何か? そのようなテーマで書かれた本は実に多い。その中でも、本書のユニークネスは「虚構」に着目している点だ。そのスケール感は非常に大きく、まさに虚構が現実を生み出したと言わんばかりである。
この視点から眺めると、身の回りのことから無意識の抽象概念まで、我々の生活がいかに虚構に満ち溢れているかを痛感する。伝説や神話、神々、宗教など、認知革命に伴って生み出された虚構は、人々が協力することを可能にした。そして現代において我々を取り巻く、貨幣、会社組織、法律、国家やイデオロギーといったものもまた、虚構の一種と言えるだろう。
一見縁のなさそうな「科学」でさえも、虚構の手から逃れることはできない。「帝国」「資本」との相乗効果によって「科学」が飛躍的に進化してきた様が、これでもかと描かれていく。
さらに虚構によって生み出された現実からは、あまりにも不都合な真実が提示される。それは進化上の成功が、必ずしも個人の成功に結び付くわけではないという厳然たるメッセージだ。
これを回避するにはどのようにしたら良いのか? 著者のユヴァル・ノア・ハラリは、「幸福は客観的な条件と主観的な期待との相関関係」に注目しており、その視点は興味深い。そして、そこへ至るまでの示唆は、『ライフ・シフト』『<インターネット>の次にくるもの』からも、得ることが出来るだろう。
以前、著名なビジネスマンが「本は10冊同時に読め!」と言っているのを耳にしたことがある。本人へ直接その極意をたずねたところ、「10冊はさすがに無理だろう」という返事が返ってきたが、この3冊ばかりは同時に読むことをおすすめしたい。
我々人類を大きく進化させてきた「虚構」と「テクノロジー」、これから不可避な未来として訪れる「100年時代」。集団の繁栄と個人の幸福は、はたしてWIN−WINの関係になれるのか? 壮大なスケールの時間軸から、ビジネスマンの来し方、行く末を考えることのできる3冊だと思う。
なお、総合20位までの結果は以下の通り
順位 | 書物名 | 著者 | 出版社 |
---|---|---|---|
1位 | 『ライフ・シフト』 | リンダ・グラットン他 | 東洋経済新報社 |
2位 | 『<インターネット>の次に来るもの』 | ケヴィン・ケリー | NHK出版 |
3位 | 『サピエンス全史』 | ユヴァル・ノア・ハラリ | 河出書房新社 |
4位 | 『やり抜く力』 | アンジュラ・ダックワース | ダイヤモンド社 |
5位 | 『ザ・会社改造』 | 三枝 匡 | 日本経済新聞出版社 |
6位 | 『USJを劇的に変えた、たったひとつの考え方』 | 森岡 毅 | KADOKAWA |
7位 | 『誰が音楽をタダにした?』 | スティーブン・ウィット | 早川書房 |
8位 | 『これからのマネジャーの教科書』 | グロービス経営大学院、田久保 善彦 | 東洋経済新報社 |
9位 | 『バブル』 | 永野 健二 | 新潮社 |
10位 | 『いま世界の哲学者が考えていること』 | 岡本 裕一朗 | ダイヤモンド社 |
11位 | 『ロケット・ササキ』 | 大西 康之 | 新潮社 |
12位 | 『ビジネス・フォー・パンクス』 | ジェームズ・ワット | 日経BP社 |
13位 | 『生産性』 | 伊賀 泰代 | ダイヤモンド社 |
14位 | 『サーチ・インサイド・ユアセルフ』 | チャディー・メン・タン | 英治出版 |
15位 | 『最強の働き方』 | ムーギー・キム | 東洋経済新報社 |
16位 | 『TED TALKS』 | クリス・アンダーソン | 日経BP社 |
17位 | 『ビッグ・ピボット』 | アンドリュー・S・ウィンストン | 英治出版 |
18位 | 『確率思考の戦略論』 | 森岡 毅、今西 聖貴 | KADOKAWA |
19位 | 『最後の秘境 東京藝大』 | 二宮 敦人 | 新潮社 |
20位 | 『行動探求』 | ビル・トルバート | 英治出版 |
◆主催
フライヤー、グロービス経営大学院、 Forbes JAPAN、HONZ
◆対象書籍
・2015年12月から2016年11月に日本国内で刊行された以下5分野の書籍
(イノベーション・マネジメント・政治経済・ビジネススキル・リベラルアーツ)
・HONZとflierで好評を集めた書籍にグロービス経営大学院教員から推薦のあった書籍を加えた計86冊
◆投票方法
・5つの分野それぞれでビジネスの現場で役立つビジネス書、教養書に3票ずつ投票
・各分野の3票は分野内で自由に(1冊に3票でも、3冊に各1票でも)投票可能
・投票した全書籍の中から、最も価値のある一冊を「総合グランプリ」候補として投票
◆投票期間
2016年12月15日(木)00:00~2017年1月6日(金)23:59
◆イノベーション部門
部門賞『<インターネット>の次に来るもの』(NHK出版)
2位『ロケット・ササキ』(新潮社)
3位『ビジネス・フォー・パンクス』(日経BP社)
4位『ゲノム編集とは何か』(講談社)
5位『機会発見』(英治出版)
◆マネジメント部門
部門賞『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』(KADOKAWA)
2位『ザ・会社改造』(日本経済新聞出版社)
3位『生産性』(ダイヤモンド社)
4位『これからのマネジャーの教科書』(東洋経済新報社)
5位『SUPER BOSS(スーパーボス)』(日経BP社)
◆政治経済部門
部門賞『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』(東洋経済新報社)
2位『誰が音楽をタダにした?巨大産業をぶっ潰した男たち』(早川書房)
3位『バブル:日本迷走の原点』(新潮社)
4位『21世紀の不平等』(東洋経済新報社)
5位『人口と日本経済』(中央公論新社)
◆ビジネススキル部門
部門賞『やり抜く力』(ダイヤモンド社)
2位『サーチ・インサイド・ユアセルフ』(英治出版)
3位『TED TALKS』(日経BP社)
4位『最強の働き方』(東洋経済新報社)
5位『本音で生きる』(SBクリエイティブ)
◆リベラルアーツ部門
部門賞『サピエンス全史(上下)』(河出書房新社)
2位『いま世界の哲学者が考えていること』(ダイヤモンド社)
3位『最後の秘境 東京藝大』(新潮社)
4位『科学の発見』(文藝春秋)
5位『教養としての認知科学』(東京大学出版会)
「ビジネス書グランプリ2017」発表記念イベントを、2017年3月8日(水)に行うことが決定しました。受賞書籍に携わった3氏がゲストとして登壇予定します。どうぞ、ふるってご応募ください。
・『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』担当編集者 東洋経済新報社 佐藤 朋保氏
・『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』著者 森岡 毅氏
・『サピエンス全史』担当編集者 河出書房新社 九法 崇氏
<イベント詳細>
開催日時 : 2017年3月8日(水) 18時50分~20時40分
会場 : 株式会社メディアドゥ セミナールーム
所在地 : 東京都千代田区一ツ橋1-1-1 パレスサイドビル5F
アクセス : 東京メトロ東西線 竹橋駅直結
申込み方法: 下記URL peatixのイベントページよりお申込み
定員 : 150名
URL : http://peatix.com/event/239101