著者インタビュー

『「日本の伝統」の正体』著者インタビュー

伝統には無限サイクルがある

西野 智紀2018年2月8日
「日本の伝統」の正体

作者:藤井 青銅
出版社:柏書房
発売日:2017-11-23
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去る1月中旬、こんなメールが筆者のもとに届いた。「追加取材をしませんか」

柏書房の編集部からのものだった。文面によれば、筆者が年初にHONZで書いた『「日本の伝統」の正体』(藤井青銅/柏書房)のレビューを皮切りに、正月中にAmazonは在庫切れ、紀伊国屋新宿本店では完売、記事を見た他書店からも追加注文がぞくぞくと入ってきている……という状態だったそうだ。SNSを中心にびっくりするくらい拡散されていたのは気づいていたが、こうして実際に売れ行きが好調だと聞くと、レビュアーとしては嬉しいばかりだ。

それはともかく、初詣や恵方巻き、平安神宮の歴史が実は長くないという事実を含め、「日本の伝統」と聞いて、なんとなくモヤモヤした思いや感情を持っている人がそれなりにいることも反響を見ながら感じていた。そんなわけで、柏書房に赴き、著者の藤井青銅さんにインタビューを行った。作家・脚本家・放送作家とマルチに活躍し、いっこく堂や伊集院光、オードリーといったタレントたちの仕事にも関わってきた藤井さん、どんな人だろうと内心びくびくだったが、お会いしてみると優しく面白い方であった。

著者の藤井 青銅さん

――まず、この本を書こうと思ったきっかけを教えてください。

藤井:最初は白菜だったんです。10年近く前に、野菜の種について調べていて、白菜が明治生まれなんだって知って、すごくびっくりして。で、直接のきっかけは、2年前に調べた初詣。鉄道オタクは知っているけど、普通の人は知らない。私も知らなかったから、それであれこれ調べ始めたんです。

あとがきまで読めばわかると思うんですが、私は伝統の長い短いにはあまり興味がなくて(笑)、どうやったらイベントが伝統になるんだろうとか、伝統を仕掛ける側や受け入れる側はどうしてきたのかといったことが気になった。江戸しぐさがちょっと胡散臭いっていうのも、恵方巻きがなんとなく怪しいっていうのもみんな知ってる。でも、それらを個々で言及した本はあっても、収集・分類・分析をしてまとめた本はなかった。で、そういう言葉の歴史や文化に一歩踏み込んだ本を作ろうと思ったわけです。

――どうしてこんなに反響があったと思いますか。

藤井:世相的に、日本偉いとか凄いとか言われてる空気の蔓延にうんざりしている人が多かったんじゃないかと思いますね。日本凄いじゃんというテレビ番組とか。

――やっぱりそうしたところに疑問を持っている方々がかなりいるということですね。

藤井:日本凄い凄くないということではなくて、日本が凄いと持ち上げる風潮がどうかなとモヤモヤしている人たちに響いたのかなと感じました。

――あとがきで、そうした風潮に疑問を持ち、自分の頭で考えてみることをすすめておられましたが、なかなか難しいものがあると思うのです。従ったほうが気持ちとして楽な場合もありますし。そういった場合、どうやってその難しさを乗り越えたらよいでしょうか。

藤井:今はフェイクニュースや、聞き書きのようなネットニュースもありますが、でも昔に比べれば、簡単に答えにアクセスしやすくなったと思うんです。我々なんかは職業的に、何かを書くにあたって多くの資料を探したり書いたりから、わりとフェイクは選り分けられる。
あと、一つ何か見つけたからといってそれが答えだとは全然思わなくて、いくつかの答えを見て、こっちは本当っぽいな、こっちは嘘っぽいなとやって段々と真理にたどり着ける。ちょっと難しいかもしれませんが、答えは一つで絶対満足しないと決めるだけでもずいぶん違うと思います。

私が小学生の頃、家が毎日新聞を取ってました。隣の床屋さんは朝日新聞を取ってて、郵便受けを共有してたんですね。都市対抗野球ってあるじゃないですか。あれは毎日新聞の主催で、紙面ですごく盛り上げていた。で、たまたまある日、隣の朝日新聞を読んだら、一切触れられていない(笑)。えっ、どういうこと? って小学生ながらに思って、それでおぼろげながらに、複数の新聞読むのって大事だなって、メディアリテラシーを覚えましたね(笑)。

そんなことを痛感して、疑うことを覚えたり、複数の答えを見ないとダメよーということを知りました。その複数のどれが正解かはちょっと頑張らないといけないけれども、でも図書館に行くより何百倍も早く調べられる時代だと思います。

――疑ってかかるのが大切というわけですね。

藤井:ただ、自分の守備範囲じゃないときは、人に従ってるほうが楽です。たとえば旅行はパックツアーのほうが楽じゃないですか(笑)。そりゃ旅行のプロにとっては許せないかもしれないですが。都合よく土産物屋行かされてるぜーとか。でも僕は旅行のプロじゃないから、もうここはいいの、騙されていいのって思っちゃう。

――京都マジックもそんな感じなんでしょうか。

藤井:そうそう、日本人は京都に上手に騙されたいってのがある。で、おそらく京都も、上手に騙したいと思っている。騙すっていうとアレだけど(笑)、でも、京都の使命ってそういうことだろうと。町ぐるみでね。それで、日本人を歴史的な伝統がありまっせと言うわけです。だけどそれは騙そうとかじゃなくて、お客さんは京都に伝統を求めているから、礼儀として返してあげている。互いに騙したり騙されたり。これを僕は共依存(京依存)と呼んでいるんですけども(笑)、この場合お互いが了解して成立してるから、別にいいと。

――納得ずくですからね。

藤井:恋愛みたいなもんですからね(笑)。

あとがきにも書きましたが、伝統だから従えってのが良くない。伝統なんだから変えちゃダメとか、お前も言うこと聞けとかいうのに、みんなカチンときている。伝統って、変わってきて今の形があるのに、変えちゃいかんという人たちがいるから、それはおかしいだろうと。私がいちばん言いたいのはこれであり、読者が共感しているのも多分そこなんじゃないですかね。

伝統というツールを使ってマウンティングをする連中は、意図的に、嘘っぱちだとわかってても言うこと聞かせようと思ってるから、ずるいでしょう。自分が信じてるだけならいいんですが、自分も信じてないのに、これを使えば人を丸め込めると思ってる方がいるのいやらしいですね。

――この本で、もう少し書きたかったこと、補足したいことなどありますか。あとがきにも、取り上げなかった伝統があったと書かれておられましたが。

藤井:項目としては、章立ての際にうまく入らないものは外しました。あと、本全体の仕組みとしては、実はああいう本にする気はなかったんです、最初は。

――え、本当ですか。

藤井:いちばん最初の企画は、あの伝統を使って、ビジネス本とか自己啓発本のテイストで、『伝統をビジネスにしよう』というパロディ本を作って、伝統とビジネスの両方を揶揄したかったんです。だけど、それは凝りすぎだなと思ってやめて(笑)、我々が思ってる日本の伝統はちょっとおかしいよーってだけにして。結果としてこっちのほうが良かった。

たとえばあの本の第一章は『季節にすり寄る「伝統」』ですが、本当にやってみたかったのは『記念日と二十四節気を狙え!』なんてタイトルでした。有名なところでは冬至の柚子とカボチャとか。啓蟄や穀雨、霜降など、まだ使われていない節気がたくさんあるから、『日本では昔から霜降に○○を食べる・贈る・飾る伝統があります』という感じで、まだまだこんなにビジネスチャンスが残ってますよってやりたかったわけです(笑)。

とはいえ、日本人は伝統が大好きで従順なんだけれども、一方ではミーハーで新し物好きってのがあるので、新しく登場したけれども実は古い伝統っていうものがビジネスを始めるにあたっていちばんいい。恵方巻なんか特にそうです。今はロールケーキでも良くなってるそうですが。

ただ、実際にやって失敗した記念日もあります。これも本に入れようとして、結局作らなかった項です。サン・ジョルディの日とかボスの日とか。名前だけは残ってるんだけど、何をどうすればいいのかあまりわからない(笑)。

――サン・ジョルディもボスも知らなかったです。

藤井:本当に、すぐ消えました(笑)。これらはみんな、バレンタインデーの大成功を見て乗っかってるんです。あんなにチョコが売れるのかと。たとえばサン・ジョルディの日は、本を贈るというスペインの習慣で、日本でもやりましょうってキャンペーンをやったんです。が、本を贈るのって、なんとなく品性や好みが問われたりしてやりづらく、定着しなかったとみています。

他にも、旧国名と組み合わせたり、『水戸黄門』や『坂の上の雲』、『三丁目の夕日』といった有名な物語の時代に寄せたりする方法なんかもあります。

――たしかに、自分の知らない時代を出されると弱くなります。

藤井:伝統には無限サイクルがあるんですね。まず伝統が始まります。30年くらいするとだいたいみんな伝統だなあと感じ始めます。一世代ですから。で、もう30年くらいすると時代とずれてくるんですね。すると、変えようじゃないかという機運が高まってくる。さらに30年経つと、伝統だから変えてはいけないという風潮が強まり、じゃあ続けようかとなって、無限にぐるぐる回る。だから、伝統ビジネスは一度作っちゃうとずぅっと食えますよ、魅力的ですよってわけです(笑)。こういう本を当初は作りたかったんです。

――最後に、読者にこれだけは伝えておきたいという言葉があればお願いします。

藤井:レビューだけで読んだ気にならないで、ぜひ本を読んでください(笑)。巻末に一目でわかる伝統の長さグラフや年表もついていますので。