おすすめ本レビュー

なるほど!我が国はこういうふうにできているのか 『日本で1日に起きていることを調べてみた : 数字が明かす現代日本』

仲野 徹2018年2月27日
日本で1日に起きていることを調べてみた: 数字が明かす現代日本

作者:宇田川 勝司
出版社:ベレ出版
発売日:2018-02-17
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

数字、ファクト、ロジック。立命館アジアパシフィック大学の学長にしてHONZ客員レビュアーでもある出口治明さんは、この三つで物事を決定するべきだと説かれている。これはサイエンスにおける研究の進め方でも同じである。なかでも最も重要なのは生の数字だ。相対値ではなくて、絶対的な数字。それがなければ話にならない。

日本国についてのそのような数字をこれでもかと惜しげもなく示してくれるのがこの本だ。というほど、たいそうな本ではまったくない。ほとんど脈絡なく、おそらくは著者の興味のおもむくがままに、タイトル通り「日本で一日に起きていること」の数字が紹介されていく。

まず、誰もが驚くであろう数字から紹介しよう。それは『551蓬莱の豚まん』の売り上げ数だ。ん、そんな豚まん知らんって? 知らなかったらよけいに驚くはずである。「豚まんの生地の品質を守り、手作りするため、関西以外に出店していない」551蓬莱であるにもかかわらず、なんと一日あたり15万個も売れるのだ。いうまでもなく、うまい。人生において、いまだに551蓬莱の豚まんを嫌いだという大阪人に会ったことがない。まぁ、好きに決まっているんで、好きですかと質問したことはないから当然ではあるが。

どれくらいすごいかというと、首都圏を中心に160店舗を展開する崎陽軒のシウマイ弁当の売り上げが2万6千食である。シウマイが5個入っているから5倍しても13万個である。それに対して、551蓬莱の店舗は61店舗しかないのにこの売り上げなのである。

このデータは第4章『日本各地の一日』の⑦『大阪のソウルフード“551蓬莱の豚まん”1日の販売数』に載っている。ここまで言っても551蓬莱豚まんパワーのすごさが理解できない人でも、すぐ一つ前の⑥『京都を訪れる一日あたりの観客数』を見たら納得できるはずだ。その数15万6千人、551蓬莱の豚まん売り上げ数とほぼ同じなのである。京都の神社仏閣にうようよいる観光客全員が豚まんをかじっているところを想像してみたまえ。どれだけ凄いことかがわかるだろう。って、余計わかりにくいか…

この本の面白いのは、単に数字が上げられているだけでなく、どうして大阪では肉まんなどという曖昧な言い方ではなくて豚まんという名前なのか、といったような、日本人なら当然知っておくべきファクトも鋭く付け加えられていることである。もちろん、ここだけでなく、すべての項目についてそうなっている

数字によっては、自分が抱いてきたイメージと同じかどうか個人差があるだろう。たとえば、同じく第4章の⑧『香川県民が1日に食べるうどん』は、さて、どれくらいだと思われるだろう。答えは男性が0.85杯、女性が0.41杯である。わたしなどは、えらく少ないのに驚いた。うどん県を名乗るからには、せめて1日1杯は食べるべきではないのか。しかし、考えてみると、男性は一週間に6杯も食べているのだから十分なような気もする。

豚まん販売数やら、うどん杯数やら、考えたところでわかりそうにないものもあるが、フェルミ推定的に考え、おおよその数を推定できるものもある。フェルミ推定、ご存じであろうか。「実際に調査するのが難しいようなとらえどころのない量を、いくつかの手掛かりを元に論理的に推論し、短時間で概算すること(ウィキペディア)」で、原子核反応の研究によりノーベル物理学賞を受賞したイタリア人科学者、エンリコ・フェルミが得意としたのでこの名がある。

たとえば、第1章の⑧『日本列島の1日』の『1日あたり、全国の鉄道利用者』、第2章『日本社会の1日』の③『1日に、病院で新たにがんと診断される人』、㉔『1日に、日本国内で送受信される迷惑メール』、第3章『日本人の1日』の③『日本人1人あたり、1日に飲むお酒』、⑩『コンビニ1店あたり、1日の客数と売上高』などは、フェルミ推定的に考えて答え合わせをしてみると面白い。(解答は文末に)

フェルミ推定で完全な正解を出すことは難しいが、1/2~2倍の範囲内の答えが得られたら上出来だ。たいそうな言い方になるが、その程度の推量ができるかどうかで、該当する内容についてある程度のリテラシーがあるかどうかがわかるのである。では、第2章の①「1日に、生まれる赤ちゃんと亡くなる人」はどうだろう。

正解は、生まれてくる赤ちゃんが2,680人で亡くなる人が3,541人である(2,016年の統計)。さて、おおまかにあてることができただろうか。この数字を引き算すると、日本の人口が1日あたり861人ずつ減っていくことがわかる。こうすると、人口の減少をえらくリアリティーを持って感じることができる。

ホンマですか、と言いたくなる数字もある。『1日に、発生する万引きによる被害額』と『1日に、発生する振り込め詐欺による被害額』などはそれにあたる。前者は12億6千万円で後者が1億円。報道などの印象では、なんとなく同じくらいかという気がしていた。実際は万引きの方がはるかに多く、年間では4600億円にも達するとは、どれだけ件数が多いかということである。

他にも、『日本の女子高生が1日にスマホを使う時間』が6時間6分というのには驚いた。さらに、カラスの行水型入浴人間としては、『日本人の1日の平均入浴時間』が男性約27分42秒、女性約32分55秒というのには腰がぬけた。みんなおとっても風呂が好きなのね。

全54項目+4つのコラム。どれもが、へぇそうなんや、とつぶやきたくなるような内容になっている。この本、軽い感覚だが、侮るなかれ。読み終わった時、あなたの眼前に現代日本の姿がおぼろげに、あくまでおおぼろげにではあるが、立ち現れてくる。

ー解答ー
1日あたり、全国の鉄道利用者 : 推定6,655万人
1日に、病院で新たにがんと診断される人 : 約2,800人
1日に、日本国内で送受信される迷惑メール : 4億6,213万通
日本人1人あたり、1日に飲むお酒 : ビール中瓶1本または日本酒1合
コンビニ1店あたり、1日の客数と売上高 : 863人、53万円

早く正しく決める技術

作者:出口 治明
出版社:日本実業出版社
発売日:2014-04-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

出口さんの 「数字、ファクト、ロジック」に基づいた決定についての本