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『えげつないいきもの図鑑 恐ろしくもおもしろい寄生生物60』

版元の編集者の皆様2018年7月14日
えげつないいきもの図鑑 恐ろしくもおもしろい寄生生物60

作者:大谷智通
出版社:ナツメ社
発売日:2018-07-12
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「うわっ、えげつねぇ…」 寄生生物のえげつない生き様

・内臓を食べながら成長し、内部から首を切り落とす
・子どもを誘拐し、奴隷として育てる
・泳げない生物の行動を操り、川に飛び込ませる

 身の毛もよだつ所業の数々――。
「おそろしい……」「許せない!」
そう思われても仕方ない書き方をしてしまいましたが、これらはすべて実在する「寄生生物」の生き方なのです。

寄生生物は、決して怖いだけではありません。他の生物からおこぼれをもらって生きるもの。寄生した生物の体内で、その生物の何倍もの大きさに成長するもの。メスに寄生して、そのままメスの体の一部になってしまうオス。などなど、ずうずうしかったり、不思議だったり、情けなかったり、さまざまです。

こんな感覚をなんと言おう。
そうだ、「えげつない」だ!

ということで、本書では「えげつなくあやつる」「えげつなくくいつく」「えげつなくいすわる」「えげつなくあばれる」の4種に寄生生物を分類。彼らの生き様を、あえてかわいく、やさしく紹介しています。

「グロテスク」では伝えきれない、寄生生物の生態のおもしろさ

本書は、おそらく日本初の、子どもも楽しめる「寄生生物の図鑑」です。写真は一切使っておらず、一部の寄生生物の魅力でもある「グロテスクさ」をあえて押し出しませんでした。

それは、「グロい」「キモい」とすぐに目をそらすのではなく、寄生生物の生態のおもしろさに目を向けてほしかったからです。

特徴を捉えているのに、どこかかわいいイラストは必見

そもそも「寄生」とは、他の生物から利益を得ておきながら、その生物に害を与えるという、なんとも理不尽な生き方のことを指します。ただ「理不尽」という価値観は、人間の判断基準にすぎません。著者の大谷氏が本書の中で語っていますが、「寄生」は寄生生物たちが数億年もの時間をかけて獲得した、高度な生存戦略なのです。

例えばロイコクロリジウムという寄生生物は、鳥とカタツムリを行き来して増殖する寄生生物です。鳥からカタツムリに移動するために、鳥の体内で卵を産み、フンと一緒に排出されます。そのフンを食べたカタツムリに寄生する。これは、まあ想像がつきます。

反対に、カタツムリから鳥に移動する手段は想像を絶します。体内で成長したロイコクロリジウムは、カタツムリの触覚に移動。触覚を緑色のイモムシのように変形させてしまいます。さらにはカタツムリの行動を操り、鳥の目につきやすいところに移動させるのです。カタツムリが食べられることで、再び鳥の体内に戻るのです。

ここまで知ると、「グロい」「キモい」を通り越し、感心してしまいませんか?
こんな風に、ビジュアルのグロテスクさから入ると見落としがちな、寄生生物の生態の魅力を存分に伝えられるよう、イラストと文章には気を配っています。

寄生生物の魅力を伝えきる文章とイラストに注目!

著者は、知る人ぞ知る名著『寄生蟲図鑑』(飛鳥新社。増補版は講談社)の大谷智通氏。東京大学で寄生生物を研究した経歴を持つ同氏の文章は、小学生向けにやさしく書かれていながらも、寄生という生き方の奥深さを的確に伝えてくれます。またイラストを手掛けたひらのあすみ氏は「特徴をきちんと捉えながら、ある程度ゆるくしてください」という無茶ぶりに、果敢にトライし、そして実現させてくださいました。ときにかわいく、ときに恐ろしい、その独特のイラストも必見です!

「ざんねん」「せつない」「泣ける」など、人間の視点から見て共感できる生き物を集めた児童書が大ヒットしている昨今ですが、本書はその逆。「容易には共感できない」ものを集めています。でも、容易に共感できないものには、わからないこその奥深さと、あやしい魅力が潜んでいます。この夏は「グロテスク」の先にある、寄生生物の「えげつなさ」「奥深さ」に思いを馳せてみてはいかがでしょうか?

ナツメ出版企画 編集部 森田直