著者自画自賛

『核兵器』極小の世界が生み出す、極大の破壊力のメカニズム

多田 将2018年12月29日

本の著者が、自著を褒めまくる「著者自画自賛」のコーナー。第二回目は『核兵器』の著者、多田 将さんにご登場いただきます。人類史上最強の兵器と言われる核兵器、このテーマで執筆しようと思ったのは何故なのか? そして本書の読みどころは、どこにあるのか? 抑制の効いた筆致の中にも、著者の自信が伺えます。(HONZ編集部)

核兵器

作者:多田将
出版社:明幸堂
発売日:2018-12-17
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僕は、何事につけても、「最大」「最強」「究極」というものが好きです。そのため、子供の頃から一番興味があった軍事の分野で、人類史上最強の兵器である核兵器に魅入られたのは、当然のことと言えましょう。

そしてもうひとつ。僕は、物心ついたときから、世の中のあらゆるものに対して、それはどのような構造となっているのか、どのようにしてその動作をするのか、という原理的なものに深く興味を抱いて来ました。例えば戦闘機を見ても、「格好いい」と思うよりも先に、「どうやって動いているのか」という技術的な面に対する興味のほうが先行するのです。

そのふたつが組み合わさると、必然的に、「核兵器はどのような原理に基づいて動作しているのか」というところに行き着くのです。

ところが、世に溢れる書籍の中で、それに触れているものは極めて少なく、大抵は「どの形式の核兵器がどれくらい配備されているか(より正確に言うと、核兵器そのものへの言及はとても少なく、そのプラットフォームたるミサイルのことばかり)」という話に終始するばかりで、僕が一番知りたい、構造と動作原理については、書いている本人もよく判っていないのではないかと思われる、「原子核の分裂を示した、よく見るポンチ絵」と共におまけのように添えられているばかりでした。或いは、核兵器開発について記述した書籍でも、その歴史や、「人間ドラマ」ばかり取り上げて、肝心の構造と動作原理は、やはり「おまけ」扱いであるものがほとんどであるのが実情です。

ある種の書籍が存在しない理由はふたつです。ひとつは、それを書ける人がいないこと。もうひとつは、読者がそれを求めていないこと。核兵器のメカニズムに関して詳述された書籍が世に存在しないのもまさにこれで、一般向けの書籍を著述する軍事の専門家で、かつ物理学者である人がいなかったのと、読者にそれを求める人がいなかったからです──これまでは。

しかし、今ここに、多田将という、それを欲する人間が現われたのです。僕は、人間ドラマになど一切興味がありません。そんなものよりも、ずばり、動作原理を書け、と、昔からずっと、ずっと思い続けていたのです。そしてふと、自分の職業を振り返ってみると、まさに物理学者ではないですか。だったら、自分で書いたらいいのではないか。ないものは自分で書くしかない!──そう思って書いたのが、本書なのです。

ですから、本書は、他の誰のためでもなく、自分自身のために書いたものです。ですから、本書では、人類史上最強のこの兵器に、政治的視点も、人間ドラマも排除して、純粋に物理学的観点からのみ、迫っています。

核兵器の原理は、簡単に言えば核分裂と核融合です。前者は原子炉物理学を、後者はプラズマ物理学を、それぞれ学べば、簡単に理解することが出来ます。それは、本書の参考文献を御覧頂ければよく判ります。

しかし、それぞれの分野の書籍は数あれど、それを核兵器に絞って書かれたものは、当然ながらこの日本には存在しません。勿論、日本ほど核兵器をタブー視していない海外では、そのような書籍も出版されています。しかし、僕が知り得る限りでは、部分部分については詳しく書かれた書籍はあっても、原子核の構造から始まり、核融合兵器が起爆するところまで、全ての物理学的原理を網羅し、体系的に一冊の書籍にまとめ上げたものは、本書以外に先ず存在しないと思います。それも、本書ほど徹底した「定量的」な評価をしたものは。

本書には64点のグラフが掲載されており、それらは全て、僕が本書のために計算し、作図したものです。一冊の本にこれほど多く核兵器に関わる図がまとめられているものは他にありません。それだけは自信を持って言えます。そのことが、他の何よりも、本書が定量的な記述に拘わっていることの証です。

日本の物理学者の多くは、軍事に関わることをとても嫌います。ですから、物理学者である僕が核兵器について書くことをよく思わない人が多いのも事実です。しかし、僕は、日本人特有の「寝た子を起こすな」的な発想が、とても悪い考え方だと思っています。どんなことでも、覆い隠さずに、ちゃんと公開し、そしてそれと堂々と向き合うことこそ、誠実な人間の生き方だと思っています。確かに核兵器は人類の負の遺産の最たるものでしょう。廃絶すべき兵器であることも確かでしょう。しかし、だからこそ、それを出来るだけ正確に理解する必要があるのではないでしょうか。理解出来ないものには、対処も出来ないからです。

核兵器──初めて登場してから70 年以上経った今でも、人類は未だ、これを超える威力を持った兵器を手にしていません。原子核という、我々の身体や、身の回りの全てのものを構成する、極「当たり前のもの」が、何故これほどまでに圧倒的な威力を持つ兵器の素たり得るのか、その極小の世界が生み出す極大の破壊力のメカニズムを、みなさんに少しでも御理解頂ければ、幸いであります。

多田 将 京都大学理学研究科博士課程修了、理学博士。高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 准教授。著書に、『すごい実験』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学<核兵器>』『ニュートリノ』(以上、イースト・プレス)、『放射線について考えよう。』(明幸堂)がある。