2018年 今年の一冊 HONZメンバーが、今年最高の一冊を決める!

内藤 順2018年12月29日 印刷向け表示
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内藤 順 今年最も「裏切らなかった」一冊

ボディビルのかけ声辞典
作者:
出版社:スモール出版
発売日:2018-07-11
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今年HONZ内で最も盛り上がったことと言えば、インド映画『バーフバリ 王の凱旋』の話題に尽きるだろう。映像良し、音楽良し、ストーリー良しのこの映画だが、荒唐無稽と称されることもある虚構感と現実世界とを見事につないでくれるのは、まぎれもなく俳優たちの筋肉である。

今やNetflixでいつでも見られることが出来るようになってしまったため、視聴回数も優に30回を超えてしまったが、ただ筋肉美を讃えるためだけに鑑賞するというのも一興ではないだろうか。そんな時、片手に持っておきたいのが本書『ボディビルのかけ声辞典』だ。

ボディビルコンテストにおいて、積み重ねてきた努力への称賛がかけ声となる現象は以前から見られたものだが、最近ではその褒め方も多種多様になり、もはや大喜利の様相を呈しているという。本書は、そんなユニークなかけ声ばかりを、まとめあげた一冊である。

「肩メロン」「二頭がチョモランマ」「腹筋板チョコ」「背中に鬼の顔」

そんな秀逸な掛け声の数々を知れば、画面の向こう側のバーフバリやバラーラデーヴァにも同様の掛け声を発せずにはいられなくなってしまうことだろう。

腹筋板チョコの使用事例 ©ARKA MEDIAWORKS PROPERTY, ALL RIGHTS RESERVED.

まさにバーフバリのために作られたかのような一冊ではあるが、ボディビル大会の新たな楽しみ方を知る一冊としても期待を裏切らない。そう、やはり筋肉は裏切らないのだ。 

山本 尚毅 今年最も「脳内でリピートされた」一冊

TRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか
作者:レイチェル・ボッツマン 翻訳:関 美和
出版社:日経BP社
発売日:2018-07-20
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2018年は、中国で恐ろしく話題になっていた信用スコアをウォッチしようと年初に決めていた。本書もその一環で迷わず購入した。そして、一つの原則に心奪われてしまった。その名は

「カリフォルニアロールの原則」。

なんともチープで、信用スコアと恐ろしく関係のなさそうな名前、だけど、一度聞いたら忘れられない。私の人生においてまったく重要な食物でなかったカリフォルニアロールが、どれだけ脳内でリピート再生されたことか。

なぜ、カリフォルニアロールは海苔が外に巻いていないのか
なぜ、カリフォルニアロールにはアボガトが入っているのか
なぜ、カリフォルニアロールは生の魚介を使っていないのか

従来の寿司との違いに隠された秘密は、新しいものを信頼してもらうためには、はじめてなのに見慣れたものにする必要がある、というシンプルな教訓だ。寿司という未知のものをアメリカに根付かせるための一歩目だった。

あ、全体はまったく寿司の本ではなく、カリフォルニアロールの原則は2ページほど、、、残りの372ページもおすすめです!

田中 大輔 今年最も「人生ってタイミングが全てよねと思った」一冊

When 完璧なタイミングを科学する
作者:ダニエル・ピンク 翻訳:勝間 和代
出版社:講談社
発売日:2018-09-06
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今年最も刺激的だったノンフィクションは間違いなく『ノモレ』だった。ただそれは他の誰かが紹介していると思うので、私は今年最も面白かったビジネス書を紹介する。『When完璧なタイミングを科学する』だ。

HOW TOよりWHEN TO、どのようにやるかよりも、いつやるかのほうが重要だということを紹介した本だ。HOW TOの本は世の中にあふれているが、WHEN TOの本は世界初なのではないだろうか。

物事にはやるのに適したタイミングというものがある。人間の認知能力は1日で大きな変動があるからだ。しかもこの変動の幅は大きく、最高の時と最低の時のパフォーマンスは、素面と飲酒時の変化に匹敵するという。医療現場においては、検査での見落としや、術後48時間で死亡する患者の数など、午前と比べると午後のほうが圧倒的に多いという。手術や検査を受けるなら絶対に午前にしてもらいたいものだ。

開始、終了、その間。どんなものにも適したタイミングがある。2018年が終わり、まもなく平成も終わる。そして2019年には新しい時代が幕を開ける。そういった区切りのタイミングはなにか新しいことを始めるのにちょうどいい。これを機に何かを始めてみてはいかが?まずはこの本から始めてもよいかも。

西野 智紀 今年最も「思い出深い」一冊

「日本の伝統」の正体
作者:藤井 青銅
出版社:柏書房
発売日:2017-11-23
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日付を見たら、この本のレビューが載ったのは今年の1月3日だった。年末年始という、日本の伝統が意識されやすい時期だったためか、掲載後TwitterやFacebookを中心に凄まじい勢いで拡散され、Amazonは在庫切れが続き、「バズる」とはこういうものかとびっくりしっぱなしであった。本書の担当編集者によれば、ネット上だけでなく、都内の大型書店では完売し、追加注文が相次いだそうで、驚きを通り越してちょっと恐怖感すら覚えた。 

いろんな面白い経験ができた年頭だったが、今年は全般的にあまり本が読めなかった。綱渡り生活が続いて、読書に向かう体力がほとんどなかったからだ。正直思い返したくもないので、年の瀬の今、ようやく一区切りつけて安心していると言うだけにとどめておく。

そんな、自己肯定感の低い(もとよりそんなに高くないが)一年であったものの、自分の書いたものが大きく影響を与えた体験は、励みであり支えとなった。つくづく自分は本に助けられてきた人生だなあと思わずにはいられない。

個人的な話ばかりになってしまったが、本書は伝統というものに息苦しさを感じる人にはもってこいの一冊だ。読んだ人の心のモヤモヤが少しでも晴れるのならば、幸甚の至りである。

アーヤ藍 今年最も「長い時間を共にした」一冊

マーシャル、父の戦場: ある日本兵の日記をめぐる歴史実践
作者:大川 史織
出版社:みずき書林
発売日:2018-07-25
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マーシャル諸島共和国。そこはかつて日本が30年にわたって委任統治していた場所。アジア太平洋戦争では、約2万人の日本兵が主に飢えが原因で命を落とした。現在も多くの戦跡が残り、日本語に由来する言葉や日本風の名前も多く残っている。そんな深い繋がりがあるにも関わらず、日本ではほとんど知られていない。

この地を約10年前に初めて訪れ、両国の”過去と現在”をより多くの日本人に知って欲しいと願い続けてきた一人の女性が、今年ドキュメンタリー映画『タリナイ』と本『マーシャル、父の戦場』を完成させた。

何を隠そう、私はこの映画の宣伝をノリと勢いで手伝い始めたのだが、当初2週間のみの上映予定が、幸いロングランとなり、私の2018年後半は、思いがけずマーシャルで占められる日々となった。

本書は同地で失命した日本兵の日記を、赤外線などを用いて読解した全文が掲載されているほか、そこに奇跡のような運命のような縁で関わった15人の寄稿文が纏められている。”遠い”存在であるマーシャルを立体的に捉えられたほか、「日記」というものの存在意義、歴史を受け継ぐ方策や、映画と書籍の表現方法の違いなど、様々なことを考えさせられた一冊でもある。

仲尾 夏樹 今年最も「女友達に勧めまくった」一冊

聡明な女は料理がうまい
作者:桐島 洋子
出版社:アノニマ・スタジオ
発売日:2012-09-01
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平成が終わるこの年の瀬に、最も刺さったのは70年代のベストセラーでした。小難しいジェンダー論を展開するつもりはありません。本書にはただ、おいしいものを作って食べることは、人類にとって普遍的な価値があると書かれています。

すぐれた料理人は「聡明」です。例えば、献立を考え、調理をするには「果敢な決断と実行」、「大胆で柔軟な発想力」が求められます。また、経済的かつ、バランスの良い食事を作るには「鋭い洞察力」と「明晰な頭脳」が必要です。

普段料理はしない人も、本書を読めば、きっと台所に立ちたくなるでしょう。料理は食いしんぼうの恋人を持つことに始まる、とはまさにその通り。恋人に限らず、家族や友人でも、何をするにしたって、それを喜んでくれる人がいるからこそ、努力のしがいがあるのです。

本書には、優雅なパーティーの開き方や、世界中を食べ歩いて集めたレシピなど、聡明な料理人になるための情報が載っています。年末年始、親しい人との集まりにぜひ活用してください。

久保 洋介 今年最も「冬の気候を考えさせられた」一冊

北極がなくなる日
作者:ピーター ワダムズ 翻訳:武藤 崇恵
出版社:原書房
発売日:2017-11-27
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「今年は夏が猛暑だったので冬は寒くなるはずだ」という迷信めいた予想もどこふく風で、今のところ本州を中心に例年以上の暖冬が続いている。今年は偏西風が本州付近で北に蛇行しており、北からの寒気の流れ込みが弱まっていることが主な原因だ。

冬が寒いかどうかはビジネスマンにとっては一番の飯の種となる。寒ければ暖房需要が高まるし、ホットドリンクやマスクなどの特需が見込める。色々な業界にとって、冬が寒いか温かいかをいち早く正確に把握することがビジネスでの成功につながるのだ。

冬の気象予想には巨額のマネーがこの予測に費やされており、各企業や行政機関はこぞって暖冬か寒波到来かを予測しあっている。その昔は「カマキリの産卵場所が高ければ冬の積雪量は多いはず」という迷信めいた予測もされていたが、今ではジオサイエンスが主流で、衛星を飛ばして北極の氷の大きさを調べることで寒波の流れを予想している。

地球科学を理解しているか否かで商売の勝ち負けが大きく左右される時代だ。年末年始にゆっくりする時こそじっくり地球科学の本を読んで、来たるべき大寒波か暖冬に備えたい。 ※レビューはこちら

冬木 糸一 今年最も「ぶっ飛んでいると思った」一冊

全脳エミュレーションの時代(上):人工超知能EMが支配する世界の全貌
作者:ロビン・ハンソン 翻訳:小坂 恵理
出版社:エヌティティ出版
発売日:2018-02-24
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今年もたくさんノンフィクションを読んできたが、中でも一番ぶっ飛んでいると思ったのがロビン・ハンソン『全脳エミュレーションの時代:人工超知能EMが支配する世界の全貌』だ。脳をスキャンしてから、脳細胞の特徴や結合をそのままモデルとして構築・再現した存在のことを本書では「全脳エミュレーション」と呼んでいる。

本書でははたしてそんなことが科学的なプロセスとしてできるかどうかはいったんスキップし、はたしてそんな存在が生まれたら、未来は、友人関係は、生殖活動は、存在の基盤となるハードウェアはどう管理されているのだろうか──といったことを全30章に渡って語り尽くしていく。

おもしろいのは、それが単なるサイエンス・フィクション的な妄想ではなく、著者自身は『本書の推測は十分な根拠に基づいたもので、単なる憶測レベルとはかけ離れている。』と自画自賛している点だ。

確かに物凄く細かく考察していて、読みながらただただこいつは頭がおかしいぜ! と驚かずにはいられないほどなのだが──果たして本当に単なる憶測レベルとかけ離れているかどうかは読んで確かめてみてもらいたいところである。

首藤 淳哉 今年最も「クールな主人公と出会えた」一冊

IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
作者:ジョー イデ 翻訳:熊谷 千寿
出版社:早川書房
発売日:2018-06-19
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今年ほど「移民」という言葉がクローズアップされた年はなかった。政府はいまだにこの言葉を使うことを避けているが、日本で暮らす外国人が増加の一途を辿り、すでに独自の文化や習慣を持ったコミュニティが各地に生まれていることは周知の事実だ。いまや移民はぼくたちの隣人である。

ミステリ界に彗星のごとく現れた『IQ』は、そんな時代の空気と見事にシンクロした一冊だった。ロサンゼルスに住む黒人青年、通称“IQ”ことアイゼイア・クィンターベイの活躍を描いたこの小説は、新しい“シャーロック・ホームズ”の誕生と話題を呼び、ミステリ新人賞を総なめにした。しなやかな知性と熱いハートで黒人社会の過酷な現実を生き抜いていく主人公が最高にクールだ。

著者のジョー・イデは貧しい日系アメリカ人の両親のもとに生まれ、ロスの中でも犯罪が多いことで知られる黒人街で育ったという(政治学者のフランシス・フクヤマは従兄にあたる)。日系人の著者が黒人コミュニティを見事に描く。これからは著者のような複雑な背景を持った人材が活躍することが日本でも当たり前になるだろう。そんな間近に迫った未来も予感させる一冊だった。

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