おすすめ本レビュー

とまどわないペリカン 『ハシビロコウのすべて』

吉村 博光2019年6月9日
ハシビロコウのすべて (廣済堂ベストムック)

作者:
出版社:廣済堂出版
発売日:2019-05-30
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「動かない鳥」として、大人から子どもまで人気があるハシビロコウ。しかし、意外にも、その本は世に少ない。本書は待ちに待った「一冊まるごとハシビロコウ本」である。日本の動物園で会える13羽の性格や名前の由来などを写真とともに紹介。『ざんねんないきもの事典』の今泉先生監修のもと、謎に満ちたその生態をイラストで徹底解説している。

ハシビロコウという鳥は、眺めているだけで想像力をかきたてられる鳥だ。本書もまた然りである。本を開いて、最初に目に入った写真(下)では、その個体差に陶然となった。様々な顔つきの人がいるように、彼らも個体ごとに顔つきが相当違うのだ。その顔つきを見比べるのは、ことのほか楽しい。

▲本書 4ページより
▲本書 5ページより

その後に続く章では、野生のハシビロコウの写真をもとに、出会いから巣立ちまでをストーリー仕立てで紹介している。ジッとして動かない写真はもちろん、大空をはばたく貴重な写真や、お辞儀して求愛している写真などが約20ページにわたっている。残念ながらここではその写真を載せられないが、何度でも眺めたくなるような、美しい写真ばかりだ。

その独特の容姿やユーモラスな動きで、多くの人は魅了するハシビロコウ。しかしその生態は、多くの謎に包まれているそうだ。本書の「図解」の章では、今泉先生監修のもと、「分類と分布」「ヒストリー」「体のしくみ」など、その生態をできる限り解説している。「狩りと採食」のページを、少し覗いてみよう。

▲本書 40~41ページより

このページを見て、私はなぜか自分のゴルフスイングを思い浮かべた。長い間ジーっとボールを見つめ、短いバックスイングから一瞬でボールを捉えようとする。それはまさに、捕食するハシビロコウのようなのだ。本書によると、ハシビロコウの狩りの成功率はさほど高くないらしい。ゴルフ場での苦い経験を踏まえ、私は彼らに強い同情を覚えた。

さて、その捕食成功率に関して皆さまにクイズを出したい。「ハシビロコウは、1日に何匹程度の魚を捕食するだろうか?」正解は上の画像の下部に書いてあるのだが、1日1~3匹らしい。なんと1匹も捕まえられない日もあるそうである。全部で7見開き14ページの図解ページでは、このような形でハシビロコウの生態を明らかにしている。

他にも「図解」で紹介されている生態を、いくつか紹介したい。
・以前は、コウノトリ目に属していたが、いまはペリカン目に変更となり、単独で「ハシビロコウ科」を形成している。
・通常は沈黙しているが、クチバシをカタカタ打ち鳴らすクラッタリングで意思表示する。
・ペアリング中の求愛行動は、クラッタリングとおじぎがメインである。
などである。他にも、飛び方や歩き方も説明しており、読み応え十分だ。

先述の「野生のハシビロコウ」とこの「図解」、そして「国内13羽が暮らす全国動物園リスト」の3つが本書の主要コンテンツである。でも、それ以外の漫画やグッズの紹介ページも楽しい。ここでは、もう一つの主要コンテンツ「全国動物園リスト」から、上野動物園のページを開いてみたい。

▲本書 60~61ページより

上野動物園のグッズ売り場では、パンダに次いで2位!という人気ぶりだという。そういえば私も以前、子どもたちに手を引かれて見に行ったことがある。その時ハシビロコウは、飼育員さんを追いかけ回していた。動かないと聞いていた子どもたちは驚愕していたが、本書を読むと、まぁそんなこともあるのかなと思えてくる。

上のページと同じように、伊豆シャボテン動物公園、千葉市動物公園、高知県立のいち動物公園、那須どうぶつ王国、神戸どうぶつ王国、掛川花鳥園・・・全国各地のハシビロコウ全13羽が紹介されていて、読むといますぐ行きたくなる。掲載されているエピソードによると、動物園では、人懐っこくてちょっとマヌケ一面もあるようだ。

ところが、生息地では、不運をもたらす鳥として恐れられてもいるという。人の想像力をかきたてる鳥であることは間違いない。ハシビロコウは、繁殖期を除き一匹で行動することが多いそうだが、その佇まいには「孤独」がつきまとっているような印象を受ける。

井上陽水に「とまどうペリカン」という歌があるが、やや俯き加減の姿勢で微動だにしないその姿は、いわば「とまどわないペリカン」だ。歌のなかの「とまどうペリカン」は女性だが、ハシビロコウの姿は、さながら、スマホを見ながら電車待ちするオジさんのようでもある。両者ともに孤独と哀愁を漂わせているのが、愛おしい。

人は一生のうちで、群集の中の孤独を感じる時期が必ずある。気心が知れた友人と離れ、私は予備校に通うようになった。その時、群集の中で一人でも超然としていられる強さが欲しい、と思った。孤独を回避するのではなく、それを自らに胚胎させることを選んだのである。本書のハシビロコウの姿を見ながら、そんなことも思い出した。

画像提供:廣済堂出版