おすすめ本レビュー

思わず二度見してしまう『おならのサイエンス』

久保 洋介2019年7月21日
おならのサイエンス

作者:ステファン ゲイツ 翻訳:関 麻衣子
出版社:柏書房
発売日:2019-05-27
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誰もが少しは恥ずかしい経験あるであろう「おなら」。力を入れた時、油断した時、大事な時、突然とやってくる私たちの生理現象だ。まだ音が出るだけなら笑ってごまかせるが、クサい場合は本当に恥ずかしく、目も当てられない。

生理現象にもかかわらず、恥ずかしいものとしてある意味避けられている「おなら」。これまで、「おなら本」があったとしても、どちらかというと健康よりの本で、腸を改善しておならを抑制するだとか臭いを改善させるだとか、おならは恥ずべきものという前提で書かれていることが多い。

本書は違う。おならが出る化学的メカニズム、音がでる物理的メカニズム、食物がおならに変わるまでの生物学的メカニズムまでをも面白おかしく(ただ基本は大まじめに)解説する。しまいには、おならを減らすのではなく、多くだすためにレシピを紹介するなど、著者のおならへの愛情までもにじみ出る稀有な一冊だ。

目次は、「おならの化学」「おならの生物学」「おならの物理学」「医学的に見たおなら」「おならにまつわるトリビア」など、しっかりポピュラーサイエンスとして成り立っているのが分かる。

第一章の「おならの化学」によると、おならの75%は普段空気から吸い込む窒素であり、残りの25%が体内の食べ物の消化過程で発生するガスという。おならを構成するガスのうち99%は無味無臭であり、約1%だけが臭いをともなう。臭いをもつガスは複数あるが代表的なのが硫化水素やメタンチオールである。これらはアミノ酸が分解される際に発出されるので、タンパク質の多い食物が、大腸で消化されるときに作られやすい。おならのニオイを軽減するにはこれら化学的メカニズムを理解するところから始められる。

ちなみに、とある研究では、男性に限ってはビールの消費量とおならのニオイには大きな関連があるそうなので、ニオイが気になる人はビールの飲酒量を控えた方がいいかもしれない。また、今日では、活性炭シートを使った消臭パンツなる面白アイテムも開発されており、どうしてもニオイが気になる人にはそちらがおススメだ。消臭パンツをダサいと侮ることなかれ。著者がおススメするSHREDDRIESでは意外とスタイリッシュでセクシーなパンツやジーパンの品ぞろえが豊富だ。もちろん女性用も揃えているが、当然プレゼントに使うのはおススメできない。

研究では、女性の方が男性よりおならがクサいとの報告がある(この論文が書けるだけ、おなら審判という職業も確立されているようだ)。一般的に、女性は男性よりもおなら量が少ない分、ニオイの元となる硫化水素やメタンチオール濃度が高くなりがちだそうだ。ニオイを減らすには上述のタンパク質の摂取方法を工夫するのも一案だが、逆に、ニオイ濃度を薄めるためにおならの量を増やすという手も実は有効かもしれない。

そこでおススメなのが、世界一のおなら食材とされている菊芋である。菊芋にはイヌリンという炭水化物が75%も含まれており、これは小腸では消化できない。そうするとそのまま大腸に送られることになり、腸内細菌にとっては最高のご褒美になる。菊芋を食べると腸内細菌が活発化し、二酸化炭素・水素・メタンなどのガスを大量発生させるというメカニズムだ。

本書では菊芋を使った「おなら倍増レシピ」や「おしっこのニオイ倍増サラダ」など、誰が好き好んで食べるか分からないレシピが豊富に紹介されている。他にも「おなら製造マシーン」の作り方や、世界で偉大な(?)放屁芸人のリストなど、おならマニアにはたまらない情報も満載である。

著者はステファン・ゲイツというイギリスの人気テレビ司会者兼ジャーナリストだ。本書からは著者のおならへの情熱がヒシヒシと伝わってきて敬意を表したくなる。ぜひ手に取って眺めて欲しい。なんだかおならが愛らしく感じてきてしまうだろう。

本書のすばらしさは、れっきとしたポピュラーサイエンス本であることだ。世のおならマニアはもちろんだが、小さい子を持つ親にこそ本書をおススメしたい。食物の消化メカニズムから音が出る仕組みまで、子どもが大好きな「おなら」を題材とし、分かりやすくサイエンスを楽しめる内容になっている。サイエンスの入門編としてはうってつけだ。訳者もあとがきで書いているが「よく書いてくれた!」。