『怪獣生物学入門』怪獣映画・怪獣ドラマの魅力を探る! ヒット・重版記念イベントより

集英社インターナショナル2020年01月09日 印刷向け表示
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ウルトラマンが怪獣に正面から向かっていかない理由

樋口:着ぐるみを使うことに対して、「それが日本の伝統だ」という感じがずっと続いてきたのですが、かつて自分は懐疑的だったんです。日本は着ぐるみに固執しているからダメなんじゃないか、と。まだCGもない時代、アメリカではまったく違うことをしていて、操り人形を床下から棒で操作して動かすようなことをしていました。人形を少しずつ動かしてコマ撮りする人形アニメもありますね。

倉谷:日本では『スペクトルマン』(テレビ作品 1971~72)や『魔神ハンター ミツルギ』(テレビ作品 1973年)で人形アニメをやっていましたね。

樋口:人形アニメというと、すごい夢のない話ですけど、アニメーターの方が動かすので、結局、人形を動かしやすい大きさにしてしまうわけですよ。『ミツルギ』でいうと、人形は動かす人が触ったときに、感覚として手でつかめるくらいの大きさでなければならない。そうすると、人間の片方の手を広げた分か、両手を広げた分か、それくらいの空間で動かすというのが、やりやすいそうです。ところが、その程度の空間で撮影しても、大きく見せることができない。レイ・ハリーハウゼンの映画では、モンスターを大きく見せるために、前後に実写で撮ったフィルムを重ねたりしたんですけど、そこまでやると、時間がかかってしまいます。

倉谷:ハリーハウゼンは、私は『シンドバッド七回目の航海』が最初だったんですが、あれをテレビで最初に見たときは、すごいと思いました。中に人間が入っていない分、プロポーションが独特で。ただ、動いているときに、どうしても足が地面にベタっとくっついている感じがする。あまり飛び跳ねてないんですね。

樋口:『ミツルギ』は人形アニメーターの真賀里(まがり)文子さんという方が手がけていましたが、テレビのスケジュールなので、週に1本作らなきゃいけない。ところが、人形アニメをまともにやろうと思ったら、1週間で10秒分くらいしか撮影できないそうです。確かに、人間が歩くときは片足が浮いてるんですよね。それを再現するためには、人形を吊らなきゃいけない。

でも、ミツルギは吊ってないんですよ。1週間で10秒分しか撮影できないっていうときに、吊る工程まではやってられない。それで、摺り足というか、足を浮かせないでベタベタと地につけた動きになってしまう。決められた予算と時間の中で、どうやったら、それが成立するかというところから逆算しなきゃいけない。そうすると、日本の場合、人形アニメよりは着ぐるみでやるのが一番いいだろうということになってくるんです。

私が『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995年)を撮ったとき、着ぐるみに関して最大の問題がありました。実は昭和の時代に製作された『ガメラ』では、着ぐるみの頭が重いのでピアノ線で吊っていたんです。それでは動きも制約されるし、時間もかかってしまうので、現場に悪影響を与えてしまう。結局、この作品では吊らない選択をして、頭を動かすシーンはほとんどありません。

倉谷:ウルトラマンで言うなら、対峙した怪獣がピアノ線で吊られていた場合、手を出してはいけない所が出てきてしまうということですね。

樋口:よく見ると、正面からいけば絶対に勝てそうなのに、ウルトラマンは必ず脇から行くんですよ。(笑)

倉谷:糸があるから、行けないわけですね。

樋口:行けないんです。触っちゃいけないんですよ、そこは。(笑)

倉谷:では、CGはどうでしょう? CGはCGで見事な動きを実現しているのだけど、僕はいつも二つの点で問題を感じているんですよ。一つは、どのモンスターも同じような動きをする。様式化されてしまっているというか。もう一つは、人間では絶対にこういう視点の移動はないだろうというカメラワークです。東宝の映画では、カメラの位置を低くして「あおり」で撮ったり、手前の模型を大きく作ったりと、いろいろな工夫でもって、ゴジラの巨大感をリアルに演出している。ところが、最近のハリウッド作品『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)を観ると、ゴジラがキングギドラと戦っているシーンの視点の移動が激しくて、いったい誰の視点で撮っているのかと思ってしまう。ついて行けないんです。

樋口:ゲームをやってる若者たちの動体視力に合わせてるのかもしれませんね。

倉谷:ピーター・ジャクソン監督の『キング・コング』(2005年)でもCGで恐竜が描かれていますが、バスタトサウルスは5頭ではなく1頭でいいと思いました。あの頃、僕は『岩波 生物学辞典』の編集をしていたんですけどね。ページ数の制限があるというので、どれだけ行数を削れるか、いらないものはどんどん削るという仕事をしていたせいか、あの映画を観たときに「これ、4頭削らなきゃダメだな」と。(笑)

樋口:映画を観ながら、「これいらないな」と添削作業が入る。(笑)

倉谷:それに、キング・コングはバスタトサウルスを次々に4~5頭倒してしまう。つまり、1頭1頭が大して強くないわけです。

樋口:最近、とみに感じることです。強いやつを登場させているはずなのに、戦うときに数が多いと、1匹1匹が強く見えなくなる。自分たちの仕事というのは、勝てそうもない敵に主役が挑んで最後に勝ちますというところから逆算して、相手のほうが強いという大前提をどうやって切り崩し、どうやって勝たせるかということを決める作業なんですよ。そこで一番やってはいけないことは、「相手が弱い」ということ。

着ぐるみに生命を吹き込む

倉谷:どうしても言っておきたいのが、着ぐるみ俳優の中島春雄さん(故人)が、『緯度0大作戦』(1969年)でグリフォンの中に入ったときのことです。あれはライオンみたいな怪獣で、潜水艦・黒鮫号を破壊するんですが、そのときの手の動きがモロにネコ科の猛獣なんですよ。ひょっとしたら、動物園でライオンの動きを研究されたか――しかし動物園のライオンはあまり動かないから、家でネコとじゃれて研究されたのか。やはり、人間だからこそ表現できる独特な動きというのがあって、分厚くて動きづらい着ぐるみの中からでも、俳優が想像を超える演技を見せてくれることがある。それに比べると、CGは結局作っている人間のイマジネーションを超えることはできない。

樋口:『ガメラ』を撮っているときに、どうしても人間の動きが見える瞬間があるんです。それをどうやって削っていくかが課題でした。もしかしたら、吊ったりするのが一番いいのかもしれないと思いながら、それは最後の手段だろうという気持ちもある。そうなると、人間がどこまで人間じゃない動きをやれるかにかかってきます。

倉谷:僕なんか、ゴジラを愛しすぎちゃっているので、中に人が入ってるようには見えませんよ。(笑)

樋口:この世界で仕事を始めたころ、僕はバイトで着ぐるみを着せたり脱がせたりする係でした。そのころ、薩摩剣八郎さんという方がゴジラを演じられていたんです。当時のゴジラは、子ども向けに路線変更したことが批判されていたので、何とかリアルな生きものらしく見せようと徹底していました。そこで薩摩さんは監督から「ケンちゃん、肩が動いてる」と、言われるんです。人間は何かをするときに肩を動かしてしまうけど、ゴジラは肩が動かない。肩を感じさせちゃいけないと。

ようは体幹の問題です。生きものって、体が揺れても頭はあまり動かないじゃないですか。どちらかを向くときにも、頭を軸に体の向きを変えるということがあると思うんですけど、着ぐるみの頭の位置は人間から見て頭一つ分上にあって、しかも重い。それをどうやってグラグラ揺らさないようにするかが大事です。さっき、僕が撮った『ガメラ』三部作の一作目のときの話しをしましたが、二作目から何をやったかというと、人間の頭とガメラの頭が連動する仕掛けをつくりました。

倉谷:なるほど、車のパワーステアリングみたいなものですね。

樋口:頭の動きの比率を変えて、着ぐるみの頭が先に大きく動くようにしたんです。造形を担当した原口智生さんのアイデアで。すると、ヘビが狙いをつけるときのような動きを再現できるので、撮ってるうえで頭の揺れに振り回されるストレスは軽くなりました。

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