『怪獣生物学入門』怪獣映画・怪獣ドラマの魅力を探る! ヒット・重版記念イベントより

集英社インターナショナル2020年01月09日 印刷向け表示
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脳が拒絶する、実写に紛れ込むアニメ

樋口:怪獣映画の対決には系譜があって、プロレスの影響で「キングコングのあとはモスラをゴジラと戦わせましょう」と対戦カードを作るようなところがありました。なぜかというと、ピン(一種か一頭のみ)の怪獣映画が当たらなくなってきたからです。ところで、東宝最後のピンの怪獣映画が何か知ってます?

倉谷:『宇宙大怪獣ドゴラ』(1964年)!(笑)

樋口:そうですよ、『ドゴラ』!

倉谷:好きなんですよ、もう。

樋口:『ドゴラ』こそ、まさにピンの怪獣映画の終着駅、最後の作品なのですが、子どものころは観ることができない幻の作品でした。図鑑や何かを見ると、スゴイ絵が載ってるんですが。やたらでかいクラゲのような怪獣が空に浮いていて、触手で新幹線を吊り上げたり、東京タワーをへしおって、さらにそれを吊りあげたりしている。しかも、それは一見写真なのに、よく分からない質感なんです。あとで知るのですけど、エアブラシで描いたイラストなんですよね。モチーフになったクラゲみたいに透明で、体内に何かよくわからないものがいっぱい透けて見えてる。

倉谷:クラゲと同じだとすると、やっぱり細胞外基質(細胞の外に存在する繊維状・網目状の構造体)でしょうかね。

樋口:当時、ドゴラは柔らかいビニールで作ったんですかね。水槽の中でああいうユラユラした動きをさせたのだけど、それでもうまくいかないところがあって、若戸大橋って北九州にできたばかりの吊り橋の橋脚をからめとるシーンは、アニメですからね。あのアニメが怖いんですよ。ちょっとね、ゾクゾクするものがある。
言ってしまえば、特撮は着ぐるみも含めて実写じゃないですか。そこに紛れ込むアニメって、気持ち悪いんですよ。『マグマ大使』(テレビ作品 1966~67年)でも、マグマ大使のお腹からミサイルが何本も飛び出すところがあって、あれもエアブラシで描いたアニメなんです。子どもながらに「俺は何を観てるんだろう」と混乱してしまうんです。脳が判断できないっていうか。(笑)

倉谷:『マグマ大使』は好きでね、よく観てました。ルゴス2号という宇宙人がもう怖くて。

樋口:人間モドキとか、怖いんですよね。ちいさい黒い影みたいなものが歩き回ってる。あれもアニメで、ちょっと脳が拒絶する。脳が判断を保留するという感じになってしまう。ああいう脳が困る感じのものを、どうやったら表現として作れるだろうかと、いつも考えてるんです。

倉谷:人間モドキがやっつけられて溶けるときに、固まったハチミツみたいなものがトロッと出てくるけど、『ドゴラ』をリメイクするなら、ああいうものがドゴラの中から出てくるといいですね。そこだけはCGじゃなくて、実写でやってほしい。

樋口:発泡スチロールにシンナーをかけて、溶けていくのを撮影するだけみたいなものも、昔はいっぱいありましたね。

倉谷:白い液体か泡か、それをかけられると溶けていくってパターンが怖いんですよ。

樋口:「シンナー特撮」と呼ばれている(笑)。

『ドゴラ』好き必携の『怪獣生物学入門』

倉谷:樋口監督には、怪獣映画の文化を絶やさないでくださいということと、『大怪獣バラン』(1958年)と『宇宙大怪獣ドゴラ』のリメイクをしてくださいとお願いしたいですね。

樋口:『ドゴラ』ですか、やっぱり。私としては、今日は倉谷先生と初対面ですけど、めちゃくちゃ面白かったので、もっと語りたいんです。みんなで映画を観て、そのあと語るとか、そういうイベントもやりたいですね。『バラン』を語るとか、『ドゴラ』もいいですね。

倉谷:僕は『怪獣生物学入門』を書きながら「これで『ドゴラ』のDVDがもっと売れるようになるのかなぁ」などと考えたりしていたんですよ。

樋口:オビの推薦文を書くときにゲラを読ませていただきましたが、明らかに途中から脱線してますからね、『ドゴラ』の所で。(笑)

倉谷:そうでした?

樋口:ええ。科学者としての、研究者としての冷静さを欠いてますからね。(笑)世の『ドゴラ』好きは、この本は必携ですよ。

特撮で描くべき生物像とは?

倉谷:最初、『ゴジラ』は恐竜をなぞったかたちで生まれてきましたが、今、僕らが理解している恐竜とゴジラのかたちは乖離してしまいました。『ゴジラ』が作られた当初は、原爆であるとか、いろいろな思いはあったかもしれないけど、同時に人々の心の中に恐竜のようなものを見たいという気持ちがないと、あのようにはならなかった。だから、生物学的なロマンというのが一方であって、もう一つは、さっきお話しした民族学博物館で展示されていた人間の根源的世界観のように、なんともいえない、心の奥のほうからフツフツと湧き出てくる畏れを具象化したかのごとき異形の存在も大きい。つまり、生物学と心の中間にあるのが怪獣かなと思います。

樋口:人間がいるから怪獣が生まれるとか、人間の社会があるからこそ、そのしわ寄せを被った何かが怪獣になってしまうような気がするんです。もしかしたら、そういうものが怪獣の定義付けになるのかな。特撮で描くべき生物像というなら、自分は、物語に出てくる怪獣に生きものとしての習性をもっと採り入れていきたいと思ってるんです。

倉谷:かといって、生物をただ単に巨大にさせただけでは面白くない。巨大なクモの不気味さや巨大なモグラの不憫さのように、それはそれで面白いというものは、50年以上も前に『ウルトラQ』がもう見せてくれた。やっぱりその先へ向けてSF感に満ちた奇想天外なアイデアに満ちた怪獣を考え出してほしいと感じますね。なかなか、話が尽きないですね。

樋口:じゃ、続きはまた。

倉谷:はい、是非やりましょう。

倉谷 滋(くらたに・しげる)
形態進化生物学者。国立研究開発法人理化学研究所 開拓研究本部主任研究員。1958年、大阪府生まれ。京都大学大学院理学研究科修了、理学博士。琉球大学医学部助手、ベイラー医科大学助教授などを経て、1994年、熊本大学医学部助教授。2002年より理化学研究所チームリーダー、2005年、同グループディレクター。著書に『ゴジラ幻論』(工作舎)、『進化する形』(講談社現代新書)、『地球外生物学』(工作舎)などがある。

樋口 真嗣 (ひぐち・しんじ)
映画監督。1965年、東京生まれ。1984年、『ゴジラ』に造形助手として参加。同年からガイナックスでアニメ制作に携わり、『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)などで活躍。1995年からの特撮映画『平成ガメラシリーズ』三部作の特技監督として注目を集める。2012年に犬童一心監督と共同監督を務めた『のぼうの城』では日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した。2016年の『シン・ゴジラ』に続き、2021年公開予定の『シン・ウルトラマン』で監督を務める。
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