伝説の編集者に会ってきた! ――出版に、希望を探して

塩田 春香2020年02月17日 印刷向け表示
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書籍には、未来がある?

塩田:加藤さんご自身は、もう出版無理って思ったことはないんですか? 

加藤:うーん、あるかな。出版無理っていうか、雑誌はもうダメかも、というのはありました。ていうか、日本の比較的大きな出版社は、みんな雑誌で大儲けしていた「雑誌社」なんだよね。講談社、光文社、新潮社、小学館、集英社、文藝春秋、あるいは経済書中心の、東洋経済もダイヤモンド社も、みんな雑誌という紙メディアがドル箱だった。

ということはつまり、経営の土台は雑誌。出版社―取次―書店をむすぶロジにしてもそうでしょ。雑誌が稼いで土台をつくってその上に書籍事業をのせているという構造。だから、雑誌がダメ、ということは、やがて出版社も取次も書店もダメになるということになるから、かなりヤバい。

塩田:「本日校了!」で、雑誌編集者時代は書籍をバカにしていて、そんな自分を「アホだった」と話しておられましたが、「アホだった」と気がついたのは、ご自身が書籍に行ったからですか?

加藤:うん。じつは、さきほどの、「自分の置かれた環境を当たり前だと思っちゃう」という話は自分の体験なんです。職場の空気に染まってしまい、いつのまにか職場の常識は世間の非常識。世間の常識は職場の非常識みたいな、カルト的になってるんですよね。

僕はずっと雑誌畑。なかでも、「雑誌社」の講談社で経営の土台をつくってる雑誌編集者で、しかもめちゃ忙しい週刊誌編集部が長かったから、その下部構造の上で、「のうのうと」「のんびり」仕事してる(としか見えなかった)書籍の編集者にマジ、ムカついてたんですよね。「本日、校了!」でも話したけど、統一教会の脱会信者みたいに、雑誌の「外」にでたら、人でなくなるみたいな気持ちだったって。アホでしょ。

ところが、実際に、書籍の編集部に来たら、これはこれでおもしろい、当たり前ですけど(笑)。じつは、フライデーの編集長をやっているころ(1998年~2000年)から、ネットが台頭してきて、フライデーの記事を勝手にパクって載せられたりとか、「あれ、紙のメディアひょっとしたらこれからかなりヤバいかも?」と思っていたんです。

で、書籍。同じ出版でも、メディアである雑誌は厳しくなるけど、書籍はコンテンツビジネスだから、こっちのゲームはネット時代になっても、勝てるんじゃないかって。

雑誌メディアも、いまや各社各誌がオンラインのメディアを並行させて儲け始めているところもあるけど、かつて紙の雑誌が販売収入と広告収入で会社の屋台骨を支えていた全盛期に比べたら、まだまだ全然、でしょ。サブスクの有料モデルか、広告モデルか試行錯誤中。

なにせ、価格競争の相手がヤフーやグーグルなどポータルサイトの無料との戦いだから、たいへんです。でも、これから、圧倒的な「勝ちパターン」をつくるメディアが必ずでてくると思う。一方で、書籍は定価販売がまだ崩れていないし、まだ未来があると思った。

でも、書籍でやる気になった頃に、また雑誌に戻ることになって。本当は、戻るのはイヤだった。「週刊現代」の編集長はやりがいのある仕事だけど、かなり厳しい戦いになるのはわかってたし。もう14年前のことだけど、すでに週刊誌や総合月刊誌の読者の高齢化が始まってたんです。ようは、新規に読者として入ってきてほしい若い層が、見向きもしなくなってきた。

塩田:雑誌が斜陽になりつつある環境で、火中の栗を拾う、みたいな?

加藤:そう。それで、戦略として読者の年齢層を下げようとした。「週刊現代」でエッチな袋とじを最初につくったのは僕なんだけど、当時は苦しいもんだから袋とじだらけになっちゃっていて、「乱丁じゃん、これ」みたいな。

塩田:(笑)

加藤:若い人はもっと過激なものをネットで死ぬほど見てるし。で、エロ雑誌化してしまっていたのを、袋とじを封印して、もっと記事で読ませるようにと。このままでは高齢化して雑誌も死んでいくと思って。――でも、それは大間違いで、「残存者利益」というか、読者の高齢化にあわせて、紙の雑誌も読者とともに歳をとっていくべきだったんだよな。

塩田:それはいつか必ずダメになるけど、それでも? 

加藤:それしか方法はなかったと思う。その後、週刊誌の高齢化路線は成功したでしょ。長い目で見たらなくなるけど、ポケベルみたいに、必要とする人がいたから思ったよりも長く残る商品、というか。でもそろそろ紙は「終活期」に入ってる。音楽も、パッケージが違ってきているでしょ? レコードからCD、今じゃ配信。

書籍は、電子化とかもあるけど、お金が取れるにことにかわりはない。現にいま、コミックスは読者が大挙して電子書籍に移行して、集英社、小学館、講談社は空前の利益をあげてるし。で、結局、僕は、編集長をクビになりました。

塩田:いったい、何をやらかしたんですか?

加藤:リニューアルの一環として、右トップ(中づり広告でいちばん右に持ってくる第一特集のこと)に硬派なスクープ記事を載せて、極左集団によるJR東日本の経営への介入問題や、大相撲の八百長疑惑記事などでとんでもない訴訟の山を築いて、賠償請求金額が20億円を超えてしまい、えらいこっちゃ状態に。当然、編集長更迭です。

塩田:独立されて、変わったことってありましたか?

加藤:今のほうが、いろんな出版社とつきあうから、前よりも、少しだけ、わかってきたような気がする。

塩田:何を、ですか?

加藤:なんていうか、本をつくる仕事というものが何なのか、みたいな。禅問答っぽいけど、結局35年間サラリーマンだったんだな、と。

塩田:……じつは私、会社員の編集者が「自分は編集者です!ドヤッ」みたいなのに、ちょっと違和感があるというか……。

加藤:出版業界には「編集じゃなきゃ、人じゃない」みたいな意識のヤツ、いるよな。自分もかつてはそうだったんだけど。雑誌から書籍に異動したときも、つらかったし。

塩田:書籍、今は年間何冊くらいつくっているんですか? 

加藤:あんまりつくってないですよ。2019年は『暴君』、新書2冊、『トヨトミの野望』の文庫化とその続編『トヨトミの逆襲』の、5冊。

暴君:新左翼・松崎明に支配されたJR秘史
作者:牧 久
出版社:小学館
発売日:2019-04-23
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トヨトミの野望 (小学館文庫)
作者:梶山 三郎
出版社:小学館
発売日:2019-10-04
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 加藤:でも、書籍は「年間何点以上出せ」じゃなくて、KPIを、売り上げとかにして年間最低「5000万円稼げ」とか部数目標を「トータルで10万部」みたいにしたほうがいい。

塩田:本当は、少ない出版点数で、それぞれがよく売れるほうが……。

加藤:そのほうが、全然いいですよね。点数を目標にするのは、ラットレースを加速するだけだから。

遠回りな正解

ミライの授業
作者:瀧本 哲史
出版社:講談社
発売日:2016-07-01
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 塩田:『ミライの授業』は、内容や言葉も選び抜かれたすごい本だと思うんですけど、企画から出版まで、どれくらい時間がかかりましたか?

加藤:これはかかったよー、まず、はじめに実際に中学校に行って授業からやったし。著者の瀧本さんと、これから日本を変えるには中学生くらいからやらないとダメだよって話になって、じゃあそういう本をつくろうよと。2014年1月からはじめて、2年半くらいですね。

塩田:授業をやって、それを瀧本さんが原稿にして、加藤さんがコメントをつけるようなやり方ですか?

加藤:いや、これもチームをつくりました。構成に『嫌われる勇気』の古賀史健さんに入ってもらって。

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え
作者:岸見 一郎
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2013-12-13
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塩田:その年代向けに「こういうことを伝えたい」とか、議論したんですか?

加藤:うん。中2って、いちばん微妙な時期というか、俗に「中二病」っていうでしょ。自我がいい意味でも悪い意味でも、万能感にひたるほど膨らむ一方で同じくらい不安も膨らむというか。まだ何者でもないけど何者にでもなれる、ES細胞みたいな時期。

だからこそ、「14歳の君たち」は将来のことを考えて勉強してほしい、学ぶモチベーションを瀧本さん、古賀さんと一緒に思いっ切り、本に込めました。

とくに瀧本さんは、男女格差をすごく問題にしていた。「女の子はかわいそうだ」と。小学校の同級生の女の子たちが、中学校に上がったころから輝きを失う。「女の子はこうでなきゃいけない」みたいなものがあって、才能をへこまされる。瀧本さんは、それを見ていて。

そしたら、ある学校で、瀧本さんの授業のあとで、「私、先生の授業をきいて、いっちょやってやる!って思いました」って、女の子が言いに来たわけ。それ、すごい反応だと思うんだ。

この本、偉人伝のかたちをとっているんですが、定番の徳川家康とかじゃなくて、「チェンジ・ザ・ワールド」に挑戦した人たちの列伝なんですよね。そのなかで、瀧本さんは意識的に女性を多く取り上げたんです。昨年お亡くなりになった緒方貞子さんや、ココ・シャネル、日本国憲法にたずさわったベアテ・シロタ・ゴードン、ハリーポッターの生みの親、J.K.ローリング……。

塩田:どうやったらこんな本をつくれるのかと、読みながらずっと驚いていました。

加藤:やっぱり、瀧本さんがすごいよね。「歴史上有名な人を取り上げるのがいいんじゃないか」となったとき、僕はまず徳川家康とか考えちゃうんだけど、彼は全然違う。

塩田:そこも「常識を疑った」んですね。それで、結果的に成功もしている。

加藤:そう。だってさあ、この本、いきなりフランシス・ベーコンだよ! 瀧本さん、読書量ハンパないし、とんでもない古典から少女マンガまで読んでる。じつは少女マンガって、レベル高いの多いじゃない? 心理描写や登場人物同士の愛憎関係を深く描いたり、ストーリー性も高くて。少年漫画は、友情・努力・勝利という、感動一直線だもの。

塩田:お目にかかったことはないですが、瀧本さんが亡くなられたときは驚きました。まだお若かったですよね?

加藤:47歳。

塩田:この本を遺してくださってありがとうございます、という気持ちですが、本を読んだ子たちの未来も見届けていただけたなら、と……ほんとうに惜しいです。

……『ミライの授業』をつくるとき、いちばん大事にしたものはなんですか?

加藤:彼はまさに、最初から最後まで「武器」がキーワード。日本はこれから大変になっていく、そのなかでどうやって子供たちが生きていくのか。「今日の課題はこれです」と言われてやる仕事は機械(AI)に奪われ、誰でもできるような仕事は買い叩かれていく。搾取される。

それではダメだ、「問題を解決する」のではなく、「問題を発見する」ことから始めないといけない、というのが彼の子供たちへのメッセージ。この本は、そうやって問題を見つけてきた人たちの物語。

僕はプロデューサーとしてライブ感が必要だと思ったから、実際に授業をやってみてもらった。ナマで子供たちの反応が見られるから、どういう言葉が響くかもわかるし、結果的にいきなり本を書いてもらうより、遠回りなようで正しかったと思います。

外圧よりも大事なもの

塩田:ところで加藤さんは、週刊誌時代に何度も裁判で訴えられていますよね。さきほど20億円の賠償金、というお話もありましたが……、どうやってメンタルを保っていたんですか?

加藤:鈍感なんだよ。でも、訴えられたときはさすがに賠償額もすごかったし、日本の司法がヘンだって言ったってしょうがないし、会社に損させた感もすごくあって。それでさっき話したように読者の高齢化が進む「週刊現代」を、働き盛りの30代~40代向けにしようとして、それも失敗して。

裁判って労力もかかるし、負けた額の大きさにショックを受けて、もう会社やめなきゃと思ってたら、『永遠の0』がベストセラーになりつつあった百田尚樹さんと出会って『海賊とよばれた男』をつくったら、420万部(単行本、文庫あわせて)の大ヒットになったからよかったものの、あのまんまじゃ、ほんとえらいことになってました。それでなんとか定年退職できたかなあと。『海賊とよばれた男』がなきゃ、すごく大変だったと思いますよ。気持ちが重くて。

 塩田:……週刊誌は訴訟リスクもありますけど、新聞には書けないことって多分あって、やっぱりメディアとして必要なんじゃないかと。実際、週刊誌のスクープで、政治家の汚職を暴いたりとか。

加藤:週刊誌は、スクープだけじゃなくていろんな記事があっていい。幕の内弁当みたいなものかな。健康記事があったり、性に関する記事があったり。

ただ、たとえば政治家に対していろいろ取材して記事にしてもヘタすると裁判をおこされる。たとえ書いた事実が正しくても、政治家は自らの正当性をアピールする、アリバイ作りみたいな裁判をしてくる。日本の場合、訴えられた側に立証責任がある。そんなリスクはあるし、ポリティカルコレクトだの、コンプライアンスだの、やたら厳しくなっているから現場は大変。

だけど、新聞やテレビとは違う、ゲリラ部隊のような組織で記事をつくることをいったんやめると、取材力というか、人脈もノウハウも失われてしまうし、二度と取り戻せない。

メディアは本来、相手が大スポンサーだろうとなんだろうと、書かなきゃいけないときもあるはずなんだけど、みんなネットに押されて経営が苦しくなっているせいか、「忖度」が横行してるような。一見不都合なことだとしても、その企業にとっても長期的に見たら、報道によって公に突きつけられたほうがいい問題ってあるんですよ。不祥事が表沙汰になった会社を見れば、組織の外からの声が、やっぱり必要だってわかります。

ただ、そういう「外圧」も大事なんだけど、ほんとうは組織の中の人たちが自覚をもって変えようとしない限り、組織は変わらない。郵政の問題なんて、トップがなんども記者会見ひらいて、オレのせいじゃないみたいな顔して頭下げてたけど、かんぽ生命の不正は組織ぐるみの「官製オレオレ詐欺」みたいなものでしょ、魚は頭から腐るといいますが、トップの人とそのトップに諫言できないモラルの崩壊が大きいんですよ。

塩田:出版も、よいものを提供していかないといけないと思いますけど……、ヘイト本もそうですが、そこのモラルも崩れてきているように感じます。

加藤:「恒産なくして恒心なし」というのかな、健全な儲けをつくらないと、会社や業界はブラック化していく。……いま、そんな出版界の状況だからさ、職人として優秀な編集者が、強くならなきゃダメじゃん。やっぱり、粗悪品はつくっちゃダメだよな。

お話を終えて

――と、大先輩に向かって、けっこう失礼なことを言っていたことに今さら気がつきました。が、業界きってのコワモテ編集者(?)は、なんと3時間近くも!何の利害関係もない私に向き合い、真摯にお話してくださいました。

自分とはメンタリティが別次元の加藤さんのお話から思ったのは、この先どこで生きていくにしても「もう少し、強くならなきゃいけないなあ」ということでした。

ここで言う「強さ」とは、自分や他者の弱さを否定するということではなく、「正しいと思うことを貫ける気持ちの強さ」と「実際にそれで結果を出す実力」と「常識を変えていく勇気を持つこと」です。たとえそれがゴマメの歯軋りにしかならなかったとしても、それを諦めないことは、少なくとも自分に納得するためには必要なのだと思います。

ーーところで、この日のお話から私はひとつだけ、加藤さんとの共通点を発見しました。それは、「袋とじ創始者」です! 加藤さんは「週刊現代」に、私は『昆虫の交尾は、味わい深い…。』という本の巻末に会社初の袋とじをつけたのです。

コストもあまりかからないことがわかり「今後は袋とじの本が出しやすくなる!」と期待したのですが、残念ながら誰も私の後には続いてくれず、「乱丁みたいな袋とじ本」が出るほど後継された加藤さんとの力量の差を改めて感じています。はあー……(やっぱり弱いな、私)。

長文を最後まで読んでくださって、ありがとうございました。己のヘタレっぷりをさらすのは情けないような気もするのですが、同じように悩んでいる方に少しでもご参考になったなら嬉しいです。

加藤さん、どうもありがとうございました! 

ほぼ命がけサメ図鑑
作者:沼口 麻子
出版社:講談社
発売日:2018-05-10
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著者のシャーク・ジャーナリスト、沼口さんとお話させていただいた記事。 じつはこちらの話題作も、偶然、加藤さんがご担当されたものでした。

冬の薔薇 立ち向かうこと 恐れずに
作者:小林 凜
出版社:ブックマン社
発売日:2014-09-19
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加藤さんにはじめてお目にかかったのは、こちらの「小林凛くんと国立科学博物館へ行く」の、国立科学博物館物館の見学会でした。

昆虫の交尾は、味わい深い…。 (岩波科学ライブラリー)
作者:上村 佳孝
出版社:岩波書店
発売日:2017-08-11
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巻末に袋とじがあります。一見開きだけなので、切らなくても上下から覗けます!

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