併せて読まれたこの一冊

『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』を買ったのは、どういう人たちなのか? Vol.2

古幡 瑞穂2020年5月31日
FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

作者:ハンス・ロスリング 翻訳:上杉 周作、 関 美和
出版社:日経BP社
発売日:2019-01-11
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先日、毎年恒例となる上半期ベストセラーが発表されました。『鬼滅の刃』の勢いに目が行きがちですが、ビジネス書では『FACTFULNESS』が昨年の年間ランキングに続き1位を獲得し、その人気を見せつけました。『FACTFULNESS』は2019年1月発売の作品ですので、「まだ売れてるのか!」という感想を持った方も多いのではないでしょうか。売れ方を見たところ面白いことが見えてきました。

下記は発売以降の毎日の売上をグラフにしたものです。(日販オープンネットワークWIN調べ)

驚くべき事に、あれだけ売れている印象があったものの、日別の売上を見るとピークはなんとつい先日、5月22日に到来しています。この勢いを見る限り、まだまだ売れることは間違いありません。

なお、この5月22日の売上はNHK総合 「あさイチ」で大特集を組まれたことによるものでした。

では読者層はどうなっているでしょうか。

男女比は男性6割、女性4割といったところ、50代のシェアが高くなっています。

このコーナーでの『FACTFULNESS』の登場は実は2回目になります。発売直後から勢いよく売れていたので、発売1ヶ月に満たない段階でデータを見ています。

そのときと比べると、読者層も大きく変わってきているのでぜひ比べてみてください。

読者が広がったことによって、併読本も雑誌やコミックスが上位に来るようになってきています。では『FACTFULNESS』を発売すぐに購入した読者は今どんな本を読んでいるのでしょうか。『FACTFULNESS』を発売から1ヶ月以内に購入した読者が、2020年1月以降に購入したタイトルのベスト10を抽出してみました。

  銘柄名 著訳者名 出版社
1 『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』 山本 康正 講談社
2 『新実存主義』 マルクス・ガブリエル 岩波書店
2 『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史』 日経コンピュータ 日経BP
4 『知的再武装60のヒント』 池上 彰 文藝春秋
4 『世界哲学史 [1]』 伊藤 邦武 筑摩書房
4 『世界哲学史 [2]』 伊藤 邦武 筑摩書房
7 『ペスト』 アルベ−ル・カミュ 新潮社
7 『21 Lessons』 ユヴァル・ノア・ハラリ 河出書房新社
7 『世界標準の経営理論』 入山 章栄 ダイヤモンド社
7 『世界哲学史 [3]』 伊藤 邦武 筑摩書房
7 『Think Smart』 ロルフ・ドベリ サンマーク出版

ランキング上位には新書が多く並びました。新書のなかでも『新実存主義』や『世界哲学史』など重厚な作品が上位に多くランクインしてきています。

ビジネスや思想、経済の分野に対して感度のいいアンテナを持っている読者の像が見えてきました。また、4月以降に購入したものからは直近発売の新刊が減っており、古典や既刊本の購入履歴が増えているのも特徴的な出来事に見えました。コロナ禍下では新刊の情報取得や購入が困難だったことの顕れかもしれません。

併読本から気になったものをいくつか紹介していきます。

2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義 (星海社新書)

作者:瀧本 哲史
出版社:講談社
発売日:2020-04-27
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本当は、今年6月30日に答え合わせが行われるはずだった2012年の講義。それを待たずして、瀧本さんは帰らぬ人となりました。8年経った今年は歴史上の転換点となりそうな年になっています。今起きている事を目にしたら瀧本さんはどんな講義をされたのでしょう。東大で行われた講義ですが、大人が読んでも心を揺さぶられるものになっています。

 

あぶない法哲学 常識に盾突く思考のレッスン (講談社現代新書)

作者:住吉 雅美
出版社:講談社
発売日:2020-05-20
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青山学院大学で話題の授業が本になりました。「カジノは合法なのに賭け麻雀が違法なのはなぜ?」という内容情報が目に入りついつい手にとってみましたが、法律で縛られているはずの常識そのものを疑い考えるという内容はとても興味深いものでした。当たり前のことを当たり前にやりすごさないために、今こそ読んでおきたい1冊。
 

NEO ECONOMY(ネオエコノミー) 世界の知性が挑む経済の謎

作者:
出版社:日本経済新聞出版
発売日:2020-05-22
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モノ消費からコト消費へ世界が大きく転換しています。現代世界において、資産は有形のモノからデータや知識といった無形のものに移ってきました。このパラダイム・シフトの本質はどこにあるのかを世界の知性が読み解くという1冊。データでファクトが示され、それぞれの分野の研究者がインタビューに答えているという形式なので、様々なテーマを俯瞰して見ることが出来ます。データブックとしても活用出来そう。
 

山に立つ神と仏 柱立てと懸造の心性史 (講談社選書メチエ)

作者:松﨑 照明
出版社:講談社
発売日:2020-05-14
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日本の建築様式などについて著書を持つ著者が、山岳建築について論じた作品。確かに、便利とは言いがたい山に分け入り、拝所を立てる日本人にとって「柱を立てる」という行為はどんな意味を持っているのでしょうか。建築と信仰の両面からその行為を読み解いています。
 

元となっているのはNHKの番組『独裁者ヒトラー 演説の魔力』。類い希な演説力があったと言われるヒトラーの演説を直接聞いた人たちをドイツ各地に訪ね貴重な証言をとっています。世界中の指導者の演説やメッセージが話題になる一方で、日本国内では「言葉」を巡る痛ましい事件が後をたちません。「言葉」が注目を集める時代において、ヒトラーを知る人々から学ぶことは多そうです。

*

言葉や思想を巡る本が多く読まれていた事が非常に印象的でした。激動の時代に『FACTFULNESS』がこれだけ支持され読まれたことにも、大きな意味があるのかもしれません。FACTにもとづき、自分の頭で考えること。これを助けてくれる本はまだまだ店頭に溢れています。