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船上での無謀な取材を重ねた傑作『アウトロー・オーシャン 海の「無法地帯」をゆく』

刀根 明日香2021年8月17日
アウトロー・オーシャン(上):海の「無法地帯」をゆく

作者:イアン・アービナ
出版社:白水社
発売日:2021-06-30
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アウトロー・オーシャン(下):海の「無法地帯」をゆく

作者:イアン・アービナ
出版社:白水社
発売日:2021-06-30
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本書から得られるのは、海上での人権と労働問題、海洋汚染の実態、過剰漁業など表面上の知識だけではない。本気で取り組む際に人間はどこまでやれるかの挑戦であり、そのための準備や緊急時の冷静な対応、大量の情報と感情を文章にする熟練の技など、ジャーナリストがたどり着く1つの到達点だと思う。

私がノンフィクションを読み始めた動機のひとつに、世界のニュースの背景が知りたいというものがあった。新聞を読んでいても見えない世界。点と点をつなげるには、本を読むのが一番早くて面白い。ノンフィクションには、普段は目に見えない世界を見せてくれる魅力がある。本書『アウトロー・オーシャン』はその原点に戻るような一冊だった。

私たちが食す多くの魚は密漁で取られていると言われている。本書のタイトルの通り、海の上は陸の法が及ばない別世界だ。海上で繰り広げられる違法行為と、全てを覆い隠す海。人の命が軽率に扱われ、それを推しているのは私たちの食生活だったりする。

著者は、過去にピューリッツァー賞を獲得したことも敏腕記者だ。「記事を書くな、物語を語れ」という『ニューヨーク・タイムズ』で学んだ鉄則を胸に、情報の第一人者になることに徹底してこだわった。その結果、期間にして40ヶ月、飛行機には85回搭乗、全大陸の40の都市を訪れ、5つの大洋と20の海を1万2000海里(約2万2000キロメートル)航行する。ここまで、大規模な取材旅行はなかなかお目にかかれない。

ただ足を使えばいいわけではない。もちろん一流の交渉術も必要だ。違法行為を繰り返す船にどうしたら同乗させてもらえるのか。船上では、どうしたら未成年の少年たちと打ち解けられるのか。自分の命を落としかねない危険な環境で、独特な海の寡黙な人たち相手に冷静に対応していく姿は見事である。

その他にも、取材を円滑に進めるための食事に関するルール、常に家を飛び出し取材先に駆けつけられる道具の準備、執筆時間など、著者の長年培ったマイルールは、見ていて気が引き締まるものがある。

これら著者の技量や経験値があってこそ、本書は長大な取材旅行を経て仕上がった。内容に関しては、下記に集約できるだろう。

この両の眼を通じて心に焼きつけてきたもののなかで、わたしが努めて本書の中にとらえようとしてきた、きわめて重要なものが二つある。それは、痛々しいほど無防備な海の実態と、そうした海での労働従事する人びとが頻繁に味わわされる、暴力行為と惨状だ。

本書を読んで改めて実感したことは、世界を知るための、物語の力だ。物語の中では、過去も未来も関係なく、人が生きている。生身の人間がいて、彼らと自分の接点を必ず見つけられる。また、人が生きる世界を描くのは、熟練の職人さんにしか描けないものに感じる。本書はまさしく熟練の職人が、世界中を駆け巡り、とんでもない時間と労力をかけて挑戦した傑作である。

ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録

作者:片山 夏子
出版社:朝日新聞出版
発売日:2020-02-20
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国内の人権問題で一番気になるのは、原発で働く人たちである。彼らの職場環境は今どうなっているのだろう。レビューはこちら