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『部活動の社会学 学校の文化・教師の働き方』「保護者の期待」も影響 過熱する部活動の問題を分析

栗下 直也2021年10月2日
部活動の社会学――学校の文化・教師の働き方

作者:内田 良
出版社:岩波書店
発売日:2021-07-10
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中学校の部活動は多くの人が経験する。それだけに個人の体験から語られがちな領域でもある。地獄のような日々の思い出しかない者もいれば、青春の美しい1ページ、いや青春そのものと捉えている人も少なくない。

評者自身は典型的な前者で「なんで土日も部活三昧なんだ」「別にプロになるわけではないし」と毎日の練習が苦痛でしかなかった。当時は周りを見渡しても、誰もが部活動に有無を言わさず参加させられ、教員もそれを是としていた。なぜ、誰も声を上げないのか、それほど部活動は尊ばれるべきものなのか。こうした二十年来の疑問に編著者の内田良は「はじめに」で明確に答えてくれる。

彼は、「部活動の研究者は皆無に等しい。それもそのはずで、部活動は『教育課程外』、すなわち『やってもやらなくてもいい』活動だからである」といい、「むしろ『やってもやらなくてもいい』からこそ、そこに部活動の課題が潜んでいると表現すべきであろう」と指摘する。制度外だからこそ教員の裁量が大きく、活動も過熱しがちなのだろう。

だが、「ただ働き」の部活動になぜ、多くの教員がのめり込んでしまうのか。本書は、2017年に22都道府県284校の中学校の全教職員8112人を対象に実施した質問調査の回答のうち3182人分を基に、部活動を取り巻く現状を多角的に分析している。

例えば、教員の部活動への姿勢。アンケートのある設問では、約60%が部活動の成績よりも生徒が楽しんでいるかを重視すると答えた一方、別の設問では、約75%が顧問をする部の成績を向上させたいと答えた。「生徒が楽しめればいい」と考えながらも、大会などで好成績を残すことで、知らず知らず指導に力を入れるようになっていくアンビバレントな状況が示された。

実績が上がることで同僚などからの信頼も増し、指導に傾倒していく。「教員にとって部活は麻薬」と聞いたことがあるが、部活動には教員本人の意識する以上に「ハマると抜けられない」楽しさが秘められているのかもしれない。

実際、本書では「学校と教員の問題」と考えられがちな部活動に多くの外在的要因があることが示されている。

例えば、教員の部活動の立会時間が長時間化する要因の1つに「保護者の期待」があることを明らかにしている。また、生徒の親の職歴や学歴が部活動の過熱ぶりを左右すると示されているのも興味深い。部活動における保護者の存在感の大きさをデータに基づき改めて突きつけている。

本書は既存の部活動の意義を否定してはいない。ただし、部活動は教員の本来業務でなく、義務でもない点を繰り返し強調する。部活動にやりがいを感じる教員もいるが、負担にしか感じていない教員の存在もあぶり出している。

部活動が維持・存続できているのは多くの教員の犠牲によるものだ、という現実は誰もが直視すべきだろう。最近は、部活動を地域クラブに移行しようとする動きもあるが、保護者を含めた利害関係者がこうした認識を持たなければ、移行のハードルは高いままだ。

個人の体験でなく、客観的なデータを分析し、部活の未来を構想する。そのスタートラインに立つために本書は最適な一冊だろう。

※週刊東洋経済 2021年10月2日号