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インディーゲームを売り、作り続けていくための現場の知見と悩みが詰まった最良のガイドブック──『インディーゲーム・サバイバルガイド』

冬木 糸一2021年11月25日
インディーゲーム・サバイバルガイド

作者:一條 貴彰
出版社:技術評論社
発売日:2021-11-17
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この数年、UnityやUnrealEngineのようなゲーム開発エンジンが発展し、インディーゲームの販売に力を入れるSwitchが台頭したことで個人開発のような小規模ゲームが比較的手軽に販売できるようになった。また、ダウンロード販売が当たり前になり、スマホのスペックが上がったことなど複数の要因が重なり少人数で制作されるインディーゲームが盛り上がってきている。

盛り上がっているインディーゲーム界隈とはいえ、よーしじゃあ自分もゲームつくるかあ! と入っていくにはハードルが高い。UnityやUEは手軽とはいえそれでもかなりの知識量やアップデートに対応する根気が求められるし、多くの人を楽しませるゲームを少人数で作ろうと思ったら、数年単位の時間は平気でかかる。本業を持って片手間で制作を進められればそれが一番安全だが、それだといつまで経っても完成しなかったり、モチベーションを保つのも難しい。

本書『インディーゲーム・サバイバルガイド』が取り扱っているのは、そうしたゲーム制作における具体的な開発以外の部分の情報、ガイドである。それも、ゲームをただ開発してストアに登録するだけではなく、それで食っていく、マネタイズするためにどうしたらいいのか、という知見が豊富に含まれている。たとえば、作ったゲームをどうやって宣伝すればいいのか。プレスリリースを打つときに、何が必要なのか。キービジュアルの作成方法。宣伝文をどうすればいいのか。パブリッシャーとの契約やイベントに出展する方法やその意味、税金や法人登記について。

どうやってモチベーションを保つのか、翻訳家の探し方、収益の得方、販売計画の立て方、法律をおかさないためのTIPS、声優への依頼の仕方や相場観、デザイナーやシナリオライタに仕事を発注する分業のやり方、ゲームプラットフォームの手数料と、そこから逆算して自分が生きていくために必要な金額を試算する方法など、ゲーム開発に必要な、プログラミング周り以外の情報がここで網羅されているといっていい。

有名なインディーゲーム開発者らの対談

おもしろいのは、そうしたTIPSの合間にインディーゲーム開発者らの対談が挿入されていることだ。ほぼ個人で作っている人もいれば、少人数チームを組んで制作している人も、フリーランス的に働きながらその合間にゲームを作っている人も、スマホゲーム専門の人もいればPCゲー専門など様々なスタイルの開発者がいて、どの対談も(ゲームを作りたい人にとっては)参考になる。

たとえばeスポーツ的に注目を集めた『カニノケンカ -FightCrab-』の開発者ぬっそさんと、猫耳少女のアンニカの冒険を3D環境で描き出し話題になった『ジラフとアンニカ』の斉藤敦士さんはどちらもゲーム開発会社に就職して経験を詰んだ後に独立してゲーム開発で食っている人たちで、経験があるからこその見積もりや見込み、また不安が語られていてまたおもしろい。

まだまだ環境が整備されているわけではないので、個人でゲームを開発して食っていくというのはかなりの博打要素を含んでいる。それをどう軽減するのかは独立にあたっては非常に重要だ。斎藤さんの方は、会社に勤めている最中にインディーゲームイベントに出していいくうちにパブリッシング提案が5社ぐらいからきて、契約金もしくはミニマムギャランティーの話があったので2年位は生活が大丈夫かな、という目算があったうえで退職に踏み切ったのだという。

私がちょうど会社を辞めたときって、『ジラフとアンニカ』が50%くらいできていたんです。ちょうどそれくらいの進捗を出している人向けにいうと……みんながみんなこのやり方がいいかはわかんないんですけど、私は「あと2年で完成させる」とまず期限を切ったんです。2年間ぶんのスケジュールと予算を立てたんですよ。50%もできていると、あとはなにが足りなくて、なにを作らなくてはいけないかがある程度わかると思うので、そこを全部細かく書き出しました。誰に頼むかとか、ここにはこれくらいお金がかかるとか、計算して出しました。

一方でぬっそさんの方は作品をすでにSteamで発表していて収入が入ってきていたので独立に際して大きな不安はなかったという。やり方は違えど、当然ながら、みな何らかの見込みのうえに独立に踏み切っている。一度ゲームをリリースして、それなりにヒットしてお金が入ってきても(『ジラフとアンニカ』も『カニノケンカ』もインディーゲー界隈では当たった方である)、次はどうしようか、という悩みもあるわけで、そのへんの不安も赤裸々に語られている。

現場の知見

あとは、実製作者たちならではの現場の知見が対談に多く盛り込まれているのがおもしろい。元チュンソフトの和尚さんと、『くまのレストラン』などで知られるDaigoさんのスマホゲーム開発者同士の対談では、ゲームに広告を入れるのは最初怖かったがユーザは広告に慣れていて、むしろDLCまで無料で最後まで遊ばせてくれるなんて、なんて優しいんだと喜びの声が聞こえてきたとか。発展途上国ではお金が払えないことも多いので本当にありがたいのだという。

投げ銭を入れると誰も課金しないから、ゲームクリア後にお金を払うことでスタッフロールやクレジットに名前を載せられる仕組みを開発したり、「課金の代わりに広告を(連続で)200回見てくれるなら遊んでもいいよ」システムの導入だったりと、マネタイズに関しての実験的な話が勉強になる(僕自身はゲームを開発しているわけではないが、遊び手側として……)。200回も広告なんかみねえだろ、と思うのだが、広告に誘導するためにまた別のミニゲームを追加することで広告を見るほうへユーザの行動を誘導していたり(具体的には読んでほしい)、それもABテストで実施していたり、経験豊富なゲーム開発者ならではの手順をきちんと踏んでいる。

おわりに

他、対談では『グノーシア』の川勝徹さんと『ALTER EGO』の大野真樹さんの少人数のゲーム開発会社を立ち上げて制作を行っている二人だったり、フリーランスとして仕事もこなしながらゲーム開発を行う『アンリアルライフ』のhako生活さんと『in:darkインダーク』を出したおづみかんさんの対談だったりと、「ゲーム開発を持続的に行い、マネタイズするためにはどうしたらいいのか」について、異なる視点から見た知見が溢れている。

非常に具体的な本なだけに誰もが必要とする本ではないが、これを読むと個人でのゲーム開発がより身近に感じられるようになるだろう。これからゲーム開発エンジンも発展していくだろうし、インディーゲームはこれからもっとおもしろく、数も増えるに違いない。本書を読んでインディーゲーム開発者が増えてくれれば、一介のゲーマーとしても素晴らしいことだ。