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『Invent & Wander──ジェフ・ベゾス Collected Writings』イノベーターを次々と生み出すアメリカの底力

堀内 勉2021年12月14日
Invent & Wander──ジェフ・ベゾス Collected Writings

作者:ジェフ・ベゾス
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2021-12-08
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今年の夏にGAFAの時価総額が日本企業全体を上回り、大きな話題になった。そのGAFAの経営者の中でも、アマゾンの創業者で世界一の資産家(2021年フォーブス誌ランキング)であるジェフ・ベゾスの独創性と経営力は群を抜いている。

何はともあれ、そんなジェフ・ベゾスの本だから読んでおかなければと思い、本書をめくり始めたのだが、あまりの面白さに止まらなくなってしまった。あらゆるところに珠玉の言葉が盛り込まれており、それらを抜粋して書評にしようと思ったのだが、そうすると本書を丸々一冊引用しなければならないことが分かり、断念した。

従って、とりあえず参考として冒頭の一節だけ引用しておこうと思う。本書は、アメリカの著名ジャーナリストのウォルター・アイザックソンによる前書き、ジェフ・ベゾスの発言集、今日本で最も著名なビジネス書翻訳家の関美和の後書きの3部構成になっているが、以下の引用部分はアイザックソンによるものである。

現在生きている人物の中で、私が伝記作家として描いてきた偉人たちに並ぶような人物は誰だと思うか、とよく聞かれる。これまでに描いたのは、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ベンジャミン・フランクリン、エイダ・ラブレス、スティーブ・ジョブズ、そしてアルバート・アインシュタイン。いずれも天才的な頭脳の持ち主だ。 だがこの人たちが特別なのは頭がいいからではない。頭のいい人なら世の中に星の数ほどいるが、そのほとんどは特別な存在というわけではない。大切なのは創造性とひらめきだ。真のイノベーターにはそれがある。そんなわけで、先ほどの質問への私の答えは、ジェフ・ベゾスである。

アップル創業者のスティーブ・ジョブズは、自社製品のプレゼンテーションで、テクノロジーとリベラルアーツの交差点という言葉をよく使った。ベゾスは、このような人文科学への愛とテクノロジーへの情熱に加えて、そこにビジネスの感覚を結びつけている。この人文科学、テクノロジー、ビジネスの3つの組み合わせこそが、ベゾスをして現代で最も成功した影響力のあるイノベーターたらしめているのである。

自分のことを本当の「ビジネスパーソン」だと思っている人には、必ず本書を読んでもらいたい。同じくアイザックソンの手による『スティーブ・ジョブズ』を読んだときと同じくらい目から鱗が落ちることは間違いない。

また、本書を読めば、人類史においてアメリカという国が建国された意味がよく理解できる。ベゾス自身にも感動するが、やはりジョブズやベゾスのようなイノベーターを次々と生み出すアメリカの底力には、心底感心させられる。

ナチスドイツからの迫害を逃れアメリカに移住したアインシュタインは、かつて、「私には特別な才能はない。ただ好奇心が異常に強いだけだ」と言った。1969年、5歳のときにアポロ11号のアームストロング船長が月面に降り立つ姿をテレビで見たのが、ベゾスの出発点である。そして高校の卒業式では、惑星に入植して製造業の拠点を地球外に移すことで、このか弱い地球という星を救う計画についてスピーチし、最後を「宇宙よ、最後の開拓地よ、いずれ会おう!」という言葉で締めくくった。

そんな好奇心をどこまでも引っ張り続けられる環境を提供する国がアメリカなのだと、改めて思い知らされた一冊である。