おすすめ本レビュー

『NFTの教科書 ビジネス・ブロックチェーン・法律・会計まで デジタルデータが資産になる未来』

新井 文月2022年2月7日

本書はNFT(Non-Fungible Token)の特性についてアート・法律・会計・税務など各ジャンルのスペシャリストが解説し、これから拡大するビジネスと社会を提示した一冊だ。

NFTアート購入のニュースが相次いで報道されている。2021年3月、Twitter創業者ジャック・ドーシーの初ツイート画像が291万ドル(約3億円)で落札。2022年1月にはジャスティンビーバーが猿のNFT〈#3001 Bored Ape NFT.〉を129万ドル(約1.5億円)で購入。なかでも話題となったのはデジタルアーティストのBeeple(本名:MIKE WINKELMANN)が描いた作品〈Everydays: the First 5000 Days〉が約6,900万ドル(約75億円)で落札されたことだろう。オークションで美術品と同等以上の価格で取引されたことで世界中の話題となったが、もちろんこれはデジタルデータである。

NFTは世界No.1の登録数を誇るOpenSeaで購入と販売が可能だ。通貨は暗号資産のイーサリアム(Ethereum)と、それを格納するウォレットアプリMetaMask(メタマスク)が必要となる。MetaMaskは2000万人以上が利用しており、Google ChromeやFirefoxなどのPluginを通じてブロックチェーンで作られたアプリ(Dapps)やサイトを簡単に利用することができる。

仮想通貨といえばビットコインだが、イーサリアムは証明データを付与できる優位性がある。そのためアートだけでなく、イベントのチケットや楽曲データまでもが限定販売を可能にした。ちなみに刻々と値が上昇し、2021年3月では1イーサリアム=164,603円だったのが2022年1月30日の時点で1イーサリアム=302,035円となっている。

2003年にLinden Labから発表されたSecond Life(セカンドライフ)や、プレイヤー数が3.5億人のFortniteも完全仮想空間のメタバースだ。ポケモンGOのような、現実空間も仮想空間と行き来して捉える「現実空間内包型」もある。NFTゲームのThe Sandboxではメタバースにおける土地価値も上昇中で、すでに大手企業やインフルエンサーは人が集まる土地を購入しそこに広告を出したり貸出が行われている。

まだゲーム内における希少性の高い武器アイテムなど、プレミアがつけば売ることも可能だ。NFTゲームの「Axie Infinity」では、アイテムを稼いで実際にイーサリアムに還元することができる。実際フィリピンでは日本よりもNFTの認知度が高く、コロナ禍の状況もあり稼げる仕事として経済のひとつになっている。子供がいる家庭なら、「外で遊んいないで、真面目にゲームしなさい!」と親から言われているかもしれない。

ただ本書も懸念しているように、NFTにおける権利や法整備はまだ整っているとはいえない。特に所有権に関して現在の日本での法律ではデジタルデータ(無体物)には適用されない特性もあり、これらの課題については世界中で議論となっている。

それでもアートやゲーム以外でも、スポーツやファッション、音楽、トレーディングカードとブロックチェーン技術を駆使して新たなビジネスが生まれているのは確かである。NFTを知る人と知らないで生きる人とでは、2極化が激しくなるだろう。本書は今のNFTビジネスの全体像をつかめる恰好の一冊だ。