思春期に、戦争のフィルムを見たりすると、そのたびに思ったものだ。「俺は戦場で生きていけるのだろうか」。そして、貧相な体を鏡で見て、「絶対無理だ」と絶望し、運良く平和な時代に生まれたことに感謝したものだ。
ただ、もはや、そんな悠長なことをいっていられないのかもしれない。戦時体制下でないのは幸運だが、ここ何年もこれまで想像していなかった事態が我々に次々とふりかかってきている。「もう誰も守ってくれない」という意識を持っている人は多いはずだ。我が身を自分で守ると決断したら必読(?)な三冊を紹介したい。
ナショナル ジオグラフィック 世界のどこでも生き残る 完全サバイバル術 自分を守る・家族を守る (ナショナルジオグラフィック)
題名通りの本だ。chapter1、2の基礎編は一読しておいて損はない。危機に対する心構えから始まり、対空信号の出し方や火のおこし方、水の確保の仕方、食べられる植物や動物の見分け方など実用的だ。巻末には持ち物チェックリスト、怪我に対する応急処置法、手旗信号の送り方、世界の食用植物一覧など載っており一家に一冊あって良い本だろう。
ただ、この本の本当の活用法は、むしろ、目次を眺め想像を膨らませることだろう。例えば、「chapter6」は砂漠編。「世界のどこでも生き残る」の題名通りとはいえ、おそらく大半の人は、砂漠で生死をさまようことはないだろう。ただ、砂漠でのシェルターの作り方や砂漠で食用に向く植物などを読んでいると過酷な砂漠なのかで生き残りをかけている自分の姿が目に浮かび、なぜか生命力が沸いてくる。
chapter8「水上編」の「how to サメを撃退する」という囲みは、もはや想像と言うより妄想力の鍛錬になる。「サメを撃退するってどんな状況だ」という疑問は浮かぶが、ナショジオらしい淡々と無駄のない説明を読んでいると、「サメにおそわれた時のために読んでおこう」と本来は持つ必要のない危機感を抱いてしまう。そして、一読後、「これなら、俺は生き残れるな」と万能感すら抱いてしまう。
本書は単なるマニュアル本としては日本に住む限り、大げさかもしれない。だが、現代は「まさか」はない時代。あらゆる危機を想定(妄想)し、自らが限界でもだえ、それを克服する姿を本を通じて想像する力は生死のみならず様々な物事の成否を分ける重要な要素になっているのではないか。そう考えると、この本の持つ可能性は実は大きい。
暴力団 (新潮新書)
いくら備えがあっても現代社会は生き残れない。敵は自然だけでないのだ。著者はこの道に関しては右に出る者はいない書き手であろう。本書のあとがきでも言及されているが、暴力団の忠告を無視して、本を出版し、襲撃された経験すら持つ。HONZでも人気の『潜入ルポ ヤクザの修羅場』の鈴木智彦氏もヤクザライターはヤクザと持ちつ持たれつとしながらも、溝口敦だけは別格と著書の中で述べている。
溝口氏が本書を自らの集大成というように、暴力団の隅々まで知り尽くした著者が暴力団のシノギから人間関係、警察との関係など生態を暴いている。「我が身を守る」を別にして、読み物として面白い。ただ、私の注目は第七章だ。章題は「出会ったらどうしたらよいか?」。あまりにもストレートすぎるが、暴力団と関係せざるをえなかったらどう対処すべきかを親切に記してくれている。襲撃された過去を持つ著者が、出会ったらどうしたらよいかを700円ばかりで教えてくれるのである。安すぎる。ナショジオも教えてくれない真実がそこにはある。
日本の税金 (岩波新書)
前2書は、私の妄想がすぎた面があるかもしれない。私事だが、二日酔いなのだ。だが、手旗信号や暴力団とは無縁な人々でも、税務署とは戦うかもしれない。たばこ税とも戦うかもしれない。たばこをすわなくても、増税下で生きて行かなくてならないのは間違いない。そう、いずれにせよ、税金は我々、皆が向き合わねばならない問題だ。この一冊を読めば税については体系的に把握できる。いまさら聞けない基本的なことから、並以上の知識まで一気に得られる。さすが岩波新書だ。
※本当は紹介しようと思ったが、ハードルが高すぎるのと、絶版なので参考で。やはり、人間、体が資本である。生き残るには日々鍛錬あるのみだ。これはブルース・リーが自ら彼のトレーニングを紹介する本だ。自身の写真入りで詳しい解説もついている。本来は出版の予定はなかったものが死後刊行されたという。本書は、全4冊セットの第2巻。本棚に飾ってあるだけで格好良い。まあ、私もその口だけど。。。